24_ブルーローズ/インターミッション①
240901編集 22_オークリー天地返し作戦完了に挿絵追加
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艦隊生活2日目
ΑΩを回収次第、帝都本星のあるバレンシア星系へトンボ帰りすると思っていた第二艦隊だが、どうやらオークリーで起きたゴタゴタを最小限片付けてから撤収するらしい。
後詰の部隊を要請するくらいなら艦隊が集結している今やってしまおうという魂胆だそうな。
今日は採掘基地の関係者や雇われていた傭兵を片っ端から尋問し、基地内に残っている証拠集めを進めているのだとか。
そのため、第二艦隊は惑星へ降り立った一部を除いたほぼ全艦がオークリー近郊の宙域で待機している。
母艦からは哨戒機がバンバン飛び立っているので、不届きものは見つかり次第艦隊からの歓迎を受ける嵌めになるだろう。
こんな所に攻めてくる馬鹿が居たらの話だが。
仮に馬鹿が来たとしても、ここの連中なら問題なく対処するだろう。
模擬戦をして分かったことだが、第二艦隊の連中、それなりどころかかなり腕が立つ。
佐官クラスになるとマジで強かった。
まだ軍に居た時の話だ。
第二艦隊は"帝国近衛軍"と互角に戦えると貴族のボンボンが話していたが、そんなものは箔を付けるために吐いた嘘だとばかり思っていた。
帝国近衛どころか第二艦隊の兵士も見たことが無かったからか、あの頃は勝手なイメージでどうせ大した事ないだろうと思っていた。
だからシミュレーターでの模擬戦を申し込まれた時はエリィ~ト気取りのお坊ちゃんなんざ1分で沈めてやるぜと調子に乗っていたが、実際戦ってみたらマジで強いのなんの。
レーザー弾くしビームは斬るし、アイツら一体何なんだ。
なんで宇宙戦なのにわざわざ近接で勝負決めようと突っ込んでくるの?
お前ら射撃武器あるじゃん、頭アウトランダーか?
「ってことがあってな?
しかも連中、ビームサーベルはシールドに干渉されるからって特殊な方法で耐熱加工した実体剣使ってんの。
それでウェポンラック一つ潰してるんだからどんだけ近接好きなんだよって話だよな」
「帝国貴族は近接戦闘が得意だと聞いたことがあるけど、そこまで近接に傾倒する理由が分からない。
撃つ方が早い」
「だよな? しかも射撃が下手って訳でもないんだよ。
正直な話すると、俺って近接格闘戦が得意じゃないんだよ。
中から近距離で飛び道具を使った機動戦が得意であって、間違っても近接ブレード展開して吶喊するのが好きじゃないわけ」
「? アウトランダーで近接格闘戦を仕掛けてきた。あれは怖かった」
「アレは機体の装備上ああするしかなかったからやっただけで、必要ないならサーベルなんて振りにいくか。
中尉こそ、遠距離が専門かと思いきや軽業師みたいな宙返りで直撃避けるし。
最近俺が出会う奴の技量おかしいって、どうなってんだよ」
「私も本来は機動戦を得意としているから。
部隊の中で遠距離狙撃が一番上手いって理由だけでアレを背負わされてだだけ」
「マジで? え、中尉ってやっぱ共和国でも名が売れてる方だったりする?」
「名は売れてない……と言うか、私みたいな元帝国臣民は居ないように扱われているから。
……所で、何で独房にいるの?」
「え、何となく話したくなっただけだけど」
嘘です。俺を探している脳筋から逃げて辿り着いただけです。
あの貴族のボンボン共、負けっぱなしは家の恥だとか言って何度も何度も再戦挑んで来やがって、何時間もひっきりなしに相手をするのにも疲れたわ。
俺って昨日堕ちたばかりの怪我人よ? ちょっとは俺のこと労わってくれてもいいだろ。
『ヴォイドキラーを人間扱いするな』『人じゃないナニカだと思え』ってどういう事だよ。
こちとら好きでそう呼ばれるようになった訳じゃない。
「流石に独房になんて居るかなぁ……?
あ、オキタ准尉見つけましたよ!
早くシミュレータールームに戻りましょう!」
「げ、面倒なのに見つかった」
独房室の扉を開けて入って来た士官に悪態を吐く。
つい数時間前にシミュレーターでぼっこぼこにしてやった若手士官だ。
「無理無理、俺、怪我人。
今日はもうお前らの相手をしてやるほど体力残ってないから」
「そんなこと言わないで下さいよ~。
中佐が准尉連れてこいって、連れてこなかったら自分の婚約者に無様に負けた動画を送るって言ってるんです」
「またかよあのオッサン、まじでしつこいな。
あの人の近接戦ガチで怖いんだよ、鬼気迫るって言うか……つーかお前、婚約者いるの?
相手も貴族の子?」
「僕貴族ですよ? 婚約者くらい居て当然じゃないですか!
艦隊勤務が終われば毎回会いに行ってるんですよ、へへ」
「こちとらずっと最前線の基地勤務だったんだぞ。
そんな閉鎖空間でも彼女が出来なかった俺への当てつけか?」
「実はこのロケットに彼女の写真がありまして。
見ます? 見たいですよね? 宇宙一可愛い僕の婚約者を!」
「そこまで言われたら気になる……見せてくれよ」
「見せませんよ、もしかして粉掛けるつもりですか?
TSFで腕が立つからって、僕から彼女を奪えると思わないことですね!」
ロケットを抱きしめる下士官。
その顔は貴族だけあって整っているせいか、何だか変な気分になって来る。
やっぱおかしいってここの連中。
貴族の癖に畏まってないし、そのくせ所作の一つ一つが上品に見えるのが腹立つ。
それでいて普通の軍人みたいにノリが良い。イイ意味でめっちゃキモイ。
「あと一回だけな? マジで、本当に頼むからな?」
「行くの?」
「逃げた所で……なぁ?」
「自分は准尉が来てくれるまで張り付きます!」
「こんなのに張り付かれたらどうにかなりそうだろ」
「そう。……頑張って?」
「おう」
☆
艦隊生活3日目
結局、昨日は日が変わるまでシミュレータールームから出られなかった。
最後の最後、本当に今日のラスト! と乞われ、じゃあ泣きの一回だから後腐れないようにしよう……なんて言わなければ良かったと、模擬戦開始時点で後悔した。
シチュエーションはエリー&俺vs第二艦隊選抜大隊36機。
最早イジメを越えた何かだ。プライドもくそもあったもんじゃない。
もっとも、向こうもそれを思ってか2機ずつしか攻めてこなかったが……もう何時間もシミュレータールームから出れていないせいか、疲れでヤケクソになったエリーが大隊の半分を墜とす前に早々にダウン。
初の戦果にテンションがぶち上った残りを相手に、既にヤケクソを越えて無表情になっていたらしい俺はレバーガチャガチャペダルペタペタと、今ではどう動かしていたのかすら思い出せない程酷い状態でシミュレーターの椅子を揺らしていたそうな。
結果は最後に相打ちとなって引き分け。
勝てるはずの無い戦いを引き分けまで持ち込めたのは、流石に相手も疲弊していたからだろう。
シミュレータールームを出て直ぐエリーに向かって倒れこんだからどうなったかすら覚えていない。
連中もだいたいが同じように床に這いつくばっていたはずなんだが、今朝顔を合した途端に顔を逸らされるか苦笑されるかで反応に困る。
化け物扱いとか酷くない?
そんなある種のやらかしをしてしまった翌日。
俺は一人、クラウン司令の部屋に呼ばれた。
何故俺だけ? エリーも共犯では? などなど色々と考えてしまう程には緊張してしまう。
3年程度の半端軍人だとしても、艦隊司令という役職がどれだけ雲の上の人かは理解しているつもりだ。
「部下達を止めなかった私も悪いが、よくもまあ倒れるまでシミュレータールームに籠っていたものだ。
君は自分が怪我人だということを忘れているのではないかね?」
「申し開きもありません」
「咎めているわけではないさ。
二つ名持ちと戦えるチャンスがあれば、部下達もそれを逃そうとはしない。
討ち取ればそれだけで誉にもなる。
その模擬戦の報告が私にも届いているが……いやはや、君もエリー中尉も凄まじいものだ。
これでは相打ちになった部下を褒めてやらねばならない」
部屋のモニターに昨日の模擬戦の映像と対戦した士官の報告書が映し出される。
俺がぶっ倒れた後にでも書いたのだろうそれには、緻密な考察と上官からの評価が記されていた。
「中近距離での砲撃戦が君の本来の戦闘スタイルか。
実戦で鍛え上げられた良い腕をしている、前衛として申し分ないだろう」
「ありがとうございます。前の部隊に居た時から、突破口を開くのは何時も自分でした」
「元居た部隊か。私も話には聞いたが、色々と面倒に巻き込まれたと聞いた。
ああ、そう固くならなくとも何も聞きはしないさ。
君はもう軍属ではないし、私も知りたいことは知っている」
緊張からか、話すつもりのない昔のことまで話してしまった。
しまったと思ったが、クラウン司令がそのまま流してくれたお陰で話したくない話題は避けられた。
「長距離射撃が苦手でもないのだろうが、目立つのはやはり近距離での高機動射撃戦か。
機体を上下左右に振り、敵ロックオンを外す技術は大したものだ。
センサーで捉えているのに視界には一瞬しか映らない敵もいる。
ヴォイドにも同じようなのがいたな?
対ヴォイド戦をあまり経験していない部下には良い勉強になっただろう」
司令が言っているのはⅢ型ヴォイドのことだろう。
ヴォイドの中では小ぶりだが、持っている機動性はVSFに近いと言っていい。
新兵が墜とされる一番の原因がⅢ型であり、こいつを安定して狩ることができるようになって初めてヴォイド戦線のスタートラインに立ったといえる。
「こちらはエリー中尉の映像だな。
中尉は蹴りも格闘モーションに入れているのか。お上品な私の部下では絶対にやらない戦法だな。
ほぅ、部下も邪険にあしらわれたせいか動きが雑になって来ているな?
お上品な戦い方だけでは勝てないと悟ったか。
……ん? はっはっは! そうかそうか、弾が切れたらそのまま銃で殴りつけるのか!
なに? 剣を抜くのでは遅いと判断してそのまま殴りつけた、だと?
この機体の搭乗者はさぞ面食らっただろう!」
「中尉は破天荒な機動を取りますから、教本通りの対応だと間に合わないでしょう。
自分も彼女と模擬戦をすることがありますが、いつも冷や冷やさせられてます」
クラウン司令は先程から楽しそうに話しているが、その表情は全く動かない。
無表情ではないのだが、どこか人間味が薄いような。
綺麗な顔をしているのに何処か勿体ないなと、失礼ながらにそんな感想を思い浮かべながら、冷たくなってしまった紅茶を飲み干す。
「さて、私が君を此処へ呼んだのは他にも話したいことがあってね」
あ、ここからが本番でしたか。
深く腰を掛ける司令に対し、居住まいを正す。
「リターナ・ベル中尉についてだ。君の率直な意見を聞きたい」
「リターナ中尉について、ですか。
正直、彼女が何をしたかったのかよく分からないです。
共和国の作戦を教えてくれたのは彼女ですけど、戦闘ではお互い一切手は抜いていませんでした。
それでも戦いの最後に助けてくれたのは彼女でした。
命のやり取りをした仲ではありますが、そう言った意味では命の恩人でもあります。
あ、悪い奴じゃないのは確かです」
「彼女は君に助けられたことがあると言っていた。
だから作戦とはいえ撃ちたくなかったと。
3年前のヴォイド侵攻時、コロニー内の出来事だ。何か覚えていないか?」
3年前、俺が初めて自分を自覚した頃のことは今でもよく覚えている。
目覚めた後は大変だった。
右も左も分からない、その日暮らしのクレジットも稼げず路上生活をしていた。今思えば、あの頃に宙賊の人攫いに出会わなくて本当に良かったと思う。
けど、その生活もヴォイドの侵攻で一変した。
軍に入ってから知った話だが、当時では類を見ない大規模なヴォイドの侵攻が発生し、周辺の軍事基地が壊滅。俺のいたコロニーは比較的近い位置にあったため避難命令が出ていたが、それも間に合わずコロニー内部への侵入を許してしまった。
俺はコロニー内の駐屯地に練習機だからと放棄されていた機体に乗り込み、コロニー内で市民の退路を確保する戦いに参加した。
コロニー内外で戦闘が勃発していたせいでコロニー行政府や軍でも混乱が酷く、戦闘が始まって数日後には使えるものはなんでも使えって感じになっていた。
それこそTSFを動かせるなら俺みたいな子供でも例外じゃなかった。
当時はそれだけ混乱していたし被害も大きかった。
一向に来ない救援を待つ、そんな絶望的な防衛戦でも助けることが出来た人がいた。
助けられなかった人達はそれよりも大勢いて、沢山の人を見送った。
その中で一人、印象に残る女の子がいたのを覚えている。
「身形の良い女の子を一人助けた記憶があります。
コックピットに入れて一緒に防衛拠点まで退避したので印象に残ってます。
確か、リタと名乗ってました」
「その女の子がリターナ中尉だ。
リタ、というのは彼女の両親がそう呼んでいたために咄嗟にそう名乗ってしまったのだろう。
君との出会いはその時だと言っていた。
命の恩人で、防衛拠点に着いた後も気に掛けて貰っていたと」
リターナ中尉があの女の子……そうか、生きていたんだ。
「だったら何で共和国に……コロニーからの脱出船に乗れていたはずなのに」
コロニーを放棄することが決まった時、駐屯軍が搔き集めてきた避難船に乗る姿を確かに見送った。
俺はその避難船団の護衛に就き、救援に来るには遅きに失した艦隊と合流するまで必死に戦った。
そして艦隊と合流し、船団は護衛を付けて安全圏まで離脱したのも見送った……いや、待て……その中にリタの乗った船はあったか?
「准尉、君は思い出したくもないだろうが大事なことだ。
あの撤退戦では何隻の避難船を失った?」
「……避難船団の数に比べ護衛機や艦船は全く足らず、纏まった防衛戦が出来たのは緒戦だけでした。
避難船が墜とされ始めた時には各艦でパニックが始まって、単艦でワープしたりそのまま沈められた船も多く、救援艦隊と合流出来た時には半分も残っていなかったと思います。
まさか、その中に?」
「リターナ中尉が言うにはそういう事らしい。
君も察しがついているだろうが、彼女はベルという家名を持つ元帝国貴族だ。
帝国貴族、それも子供が帝国憎しで纏まっている共和国で生きていく……どれだけ大変なのか想像につかない。
故に彼女はB.M.I強化手術を受け、身を護るための力を求めて軍に参加した。
彼女もまた、帝国が助けられなかった犠牲者なのだよ」




