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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
24/91

23_エピローグ

240907 ラビットのサイズ400m→250mに修正

241019 段落修正

 共和国部隊が去って少し経った後、ラビットの面々は艦隊旗艦ブルーローズへと招待された。

 俺はリターナ中尉と一緒に回収され、仲良く医務室へと投げ込まれた。

 二人とも軽傷かつ一人は捕虜なのだが、堕ちたのなら黙って治療を受けろと白衣の軍人にイイ顔で睨まれそうなった。

 ところが本当に火傷程度の軽傷しかないので、診てくれた軍医も顔を引き攣らせて笑っていた。

 いやホント、リターナ中尉が受け止めてくれなかったら死んでいた。

 助けてくれてセンキュー。


 そしてこれからのことだが。

 軍医の護衛兼俺の案内役として就いてくれた軍人曰く、ΑΩを守り通した成功報酬を渡すために帝都本星のあるバレンシア星系まで艦ごと連れて行ってくれるらしい。

 ラビットは中破のためワープ航法も危険らしいが、激戦を潜り抜けた艦を捨てさせるほど我々の懐は狭くない、とのこと。


 そりゃ狭くは無いだろうさ。

 ブルーローズは全長60キロを超える超弩級戦艦で、250メートル程度しかないラビットは文字通り貨物程度の扱いらしいし。

 んー、流石は帝国の誇る超弩級戦艦。

 サイズからして頭がおかしいとしか思えない。

 艦隊旗艦でしか超弩級戦艦は運用されていないが、それでもこんなのが艦隊の数だけいるって言うんだから帝国はまだまだ安泰だろう。


 そうそう、詳しい報酬については後日ゆっくり考えて欲しい、とのことらしい。

 ΑΩの発掘と採掘企業の隠蔽、一部は既に共和国に奪取されていたりと、帝国内でも軍や政府関係者の一部にしか共有していなかった情報が公開され始めた帝都本星はてんやわんや状態であり、艦隊が帝都に戻るまでは相手にしてくれないだろうと。

 その辺りのことは一介の傭兵には分からないが、隠蔽した企業は数日待たずに宇宙から姿を消すことになるだろう。


 簡単な治療も終わったところで、艦内を歩いてみるかと提案を受けた。

 60キロも歩けるかと文句を言ってみれば、ラビットのクルーは決められた区画内でそれぞれ疲れを癒している所らしく、仲間が休んでいる場所に寄ってみるか? と提案されたのでそこへ案内して貰うことにした。


 まず案内して貰ったのは、ここ本当に戦闘艦の艦内か? と思ってしまう程のBarだった。

 いや、まあデカい船だし殆ど家みたいなもんだろうし、何なら貴族しかいない艦内だからそりゃ豪華な装備なんだろうなぁとか思いはするが一言だけ言わせてくれ。

 何で和式? あ、帝国東部様式? 他の様式も別の場所にあるって?

 そんな情報どうでもいいです、はい……。


 そんな場所で、顔をほんのり赤く染めている男連中を見つけた。

 いや、お前ら酒盛り始めるの早いって。

 せめて俺の様子を確認するまでは待っておけよ薄情者と言ってやったが、どうもアンドーが小っ恥ずかしいことを戦闘中に言ったらしく、終わった後でそれに耐えきれなくなったらしい。

 とはいえ、ムサイおっさんが小奇麗な軍人家系の連中に単身囲まれるのは嫌だったらしく、アレンとエレンも巻き添えになったそうな。どんまい。

 当のアンドー本人は貴族の娘にお酌されて顔がニヤついていた。

 なんて羨ましい中年なんだ、後で殴っておこう。


 ハイデマリーは艦隊司令部と話をするため艦の参謀本部室に行き、シズはそれに付き添っているらしい。

 第二艦隊が動く働きかけをしたのはハイデマリーだったし、顔見知りがいるのかもしれない。

 一介の商人があの”帝国の怪人”と顔見知りってのも変な話だが、まあ色々とあるんだろう。


「よ、エリー。お互いよく無事だったな」


「あ……うん、生きてる?」


 廊下の椅子に座ってジュースを飲んでいたエリーを見つけて声を掛ける。

 普段からは考えられない程暗い表情をしているが、俺が堕ちたことを気に病んでいるのだろうか。


「足付いてるだろ? まだ死んでねぇよ」


「死んだら足が無くなるの? 変なの」


「あ、これ伝わらない奴か。

 まあいいか、とりあえず俺は生きてるし、お前も生きてる。

 だからそんな暗い顔するなって」


「……僚機を墜とされたんだよ?

 正直死んだと思ってた。

 ボクがもっと巧く敵を倒せていたら……そう思うとね、ヤな気分にもなるよ」


 椅子にもたれ掛かって天井を見上げるエリー。

 俺だってコイツの気持ちは痛いほど分かるつもりだ。

 ついこの間まで一緒にいた仲間が、ある瞬間から居なくなる……そんな思い、俺もこの世界に来るまでしたことがなかったし、する嵌めになるとは思ってもなかった。

 それが自分のせいで、だなんて日には立ち直るのに数日は掛かる。

 覚悟を決める時間って奴だ。


 けどまあ? 俺は生きているし?

 落ち込んだエリーを見るのも新鮮で良いが、折角生き残ったんだから辛気臭い顔はして欲しくない。

 座っているエリーの正面に立ち、こちらを見上げるエリーの凸にデコピンを当ててやる。


「あたっ」


「これでチャラだ。俺もお前も弱いから負けた。

 でも次は負けねぇ、そうだろ? だから次もよろしく頼むぜ相棒」


 キョトンとした表情を浮かべるエリー。

 一つ深い溜息を吐くが、直ぐにいつもの勝気な笑顔を浮かべてくれた。


「当然! 次は絶対に負けるもんか! だからボク、もっと強くなるよ!」


 宣言した勢いそのままにがばーっと抱き着いてきたエリーを、今日ばかりは仕方がないと抱き留める。

 腹に頭をぐりぐりと擦り付けるガキンチョの温もりを感じつつも、俺は捕虜となったリターナ中尉のことが心配になっていた。





 ☆





 ブルーローズ艦内の参謀本部。

 つまるところ帝国軍第二艦隊の動静を決める部署のとある一室で、ハイデマリーとシズは"帝国の怪人"ことクラウン・クルーガー艦隊司令以下、艦隊の重役を担う将校たちからの聴取を受けていた。

 何故オークリーに来ようと思ったのか、という簡単な質問から、共和国部隊の存在と狙いを看破した理由。天地返し作戦の詳細とそれによって被った損害、掛かった費用などなど。

 作戦開始前に情報局のガーデン少佐に話した内容と齟齬が無いかの確認も行われた。

 ハイデマリーは聞かれた内容に全て答え、忘れてしまったりした細かい部分についてはシズが補うことで情報の抜け漏れが無いように全て伝えきった。


 聴取も終わり、ひとまず解散となった所でクラウン艦隊司令と直属の部下以外は会議室から退出。

 その際にもお歴々の面々から最敬礼を以て別れの挨拶をされる。

 図太さを自覚しているハイデマリーでも貴族のソレには面食らってしまった。


「さて……改めて、ハイデマリー嬢に感謝を。

 君たちのお陰で、我々の稀少なΑΩを全て奪われずに済んだ。

 君たちにも追って勲章が贈られるだろう」


「いえいえ、もう何度も皆さんから感謝されてますさかい。

 ウチはこれ以上はええですよ、クルーに上げてやってください」


「もちろんそうさせて貰う。

 それと知っているだろうが、私の艦隊は他とは違い貴族しか在籍していない。

 そのため貴族連の代表のように思われているが、実態は実力主義の武家が中心になって構成されている艦隊だ。

 特別扱いはせず、普通の帝国軍人と接するようにしてくれればいい」


「分かりました、クルーにもそう伝えておきます」


「よろしく頼む。

 それと部下達の中には寡兵を以て共和国を退けた君たちを気にしている者も多い。

 これはエリー中尉とオキタ准尉だけに言えることだが、インタビューとエスコートがある場合は出来る限り受けてもらえると助かる」


「それも分かりました、エリーとオキタには加えて伝えておきます。

 でもあの二人なら喜んで相手になると思いますよ」


「助かる。それと、私の部下に限って無いとは思うが……あまりにも目に余る行動をする者、君らに危害を加えようとする者には付き添い人が私の名の下に介錯をする用意があるので、その時は遠慮無く言って貰いたい」


 クラウン司令の後方で直立していた隊員がチャキ、と腰の剣を鳴らす。

 介錯とはそういう意味なのだろうか?

 貴族社会の怖さを垣間見たハイデマリーは苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ま、まぁおはようからおやすみまで全部面倒見てくれるって話ですから、ちょっとくらいは甘んじて受け入れますよ。

 ウチもこんなデカい船乗るのは初めてやし、楽しませてもらいます」


「ゆっくりと寛いでくれ、重要施設以外は好きに足を運んでもらって構わない。

 これだけ巨大な船だ、娯楽施設も多数揃っている。

 ……それと、私が直々にここへ来ることになった交換条件についてだが」


 両肘を机に付けて切り出したクラウン司令の言葉に、ハイデマリーは身を任せていた背もたれから居住まいを正す。


「グラスレー侯爵家からの伝言を預かっている。

『指定ポイントにてオーパーツを発見、回収完了』とのことだ。

 おめでとう、これで君も”リスト”に名を連ねることになった」


「……存在は噂で知ってましたけど、ホンマにあるんですね。

 出来る事なら避けたかったわ。

 ウチはちっこい商会の主人でいたいんですけど」


「帝国の決定には従ってもらうぞ。

 だが、リストに載ったところで何か行動を制限される訳ではない。

 少しばかり上の覚えが良くなるのと、より一層の献身を期待されるだけだ」


「それが嫌やっちゅーに……しゃあないんで受け入れますけど、クルーには言わんで下さいよ?」


「安心したまえ。リストの話が表に出ることは無い。

 君たちが誰かに話さない限りは、だが。

 では行きたまえ、クルーも待っているだろう」


 促され、シズを伴って会議室を後にするハイデマリー。

 その顔は危機を乗り越えたのにどこか晴れず、これからの身の振り方について頭を悩ませていた。


 ΑΩの出土、共和国軍の越境作戦、新たに"リスト"へ加わる一人の人物。

 数百年動きがなかった帝国の時代が、再び動き始めている。


2章はこれにて終了です。お付き合い頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スぺオペだ、楽しい。 [気になる点] リターナ中尉の進退?
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