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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
21/91

20_オークリー天地返し作戦⑤

241019 段落修正

 

 額に汗を浮かべながらフットペダルを踏みこみ、機体の操縦桿を倒す。

 激しい挙動に身体が揺らされるが、掛かるGが問題なのではない。

 問題なのは、自分がイメージする挙動と実際の機動がずれていくことに対する焦りだ。

 神経をすり減らすような戦闘から来る疲れでズレているわけではない。イメージからズレが生じるのは、単純に機体スペックが付いていけていないだけ。

 それに気付いているからこそ、少しでも理想的な軌道をなぞれるようにフットペダルの入出力を繰り返し、小刻みに操縦桿を操作するという神経質な操縦を強いられている。


「クッソまたズレたぞイロモノ戦闘機!

 高速挙動なら兎も角、低速から中間加速の繰り返しはこんなにも扱い辛いのかよ!?」


 快速を活かした0-100加速や全開加速ならイメージ通りの機動が取れていた。

 それが限定された閉鎖空間での戦闘では搭載ENGの得意領域を活かせず、繊細な加減速が難しいという弱点にオキタは振り回されていた。


『後方からまたミサイル!

 もう! どれだけ積んでるんだよ!!』


 インカムからはエリーの苛ついた声が聞こえてくる。

 熾烈になった攻撃に無駄口を返す余裕もなく、アウトランダーの外壁を岩肌に擦り付けながらターン、即席の盾にして難を逃れる。


「っ正面!!」


 ターンした先には2機のヴェルニスが待ち構えており、ビームライフルを乱射しながら接近してくる。

 共和国部隊が派手にミサイルを放ったせいか、一帯の金属濃度は減少を続けている。

 そのためビームライフルも本来の仕様を取り戻しつつあり、当たれば致命傷となることは必至な状況。

 アウトランダーのサイドブースターを吹かして直線機動から乱数機動に変更、掻い潜るように回避する。

 その後ろから飛び出すように前へ躍り出たセイバーリングが、正面の2機に向かってビームとHE弾をばら撒く。

 2機は深追いすることなく散会するが、オキタとエリーは別の逃げ道を求めて金属濃度の高い低空を目指すしかなくなった。


『このままじゃ囲まれちゃう! ボクが前に出て突破口を開く!!』


「ダメだ! 奴らの狙いは墜としやすい俺だ! お前は攻撃後の隙を狙え!」


『でも!』


「作戦このまま! 全員で生き残るにはこうするしか……っ、またミサイルアラート、下からだ!!

 ダメだ上昇しろ!」


 下降中に+90°、無理やり機首を立たせるようにして急減速。

 G抑制システムの許容量を超えた急制動に、アウトランダーの翼は空気抵抗によって軋んだ悲鳴を上げる。

 そのまま機首を入れ替えるように+90°回転し、再度ブースターを吹かして急上昇する。

 ちらりと目で振り返った先にはピッタリと張り付いたように追従するセイバーリング。

 こんな状況でも離れることのないウイングマンを頼りに思いつつ、逃げ道を探すため索敵レーダーとヘッドアップディスプレイに視線を走らせる。


 見上げた空の左右からはそれぞれ2機のヴェルニスが下降してくるのが見えた。

 だが包囲が甘く、僅かに直上への逃げ道が空いているのが見えた。

 直感に従いメインブースターを全開、垂直に上昇を始めて包囲網を突破する。


 包囲を抜けた。


 その先から、赤い閃光がコックピットに迫る――――――


『――――――!!』


 エリーの声にならない甲高い悲鳴がインカムを通して響く。

 追い立て、追い込み、罠として作られた逃げ道の先から放たれる狙撃。

 これ以上ないタイミングで放たれたそれは、


「舐めんな――――――!!!」


 より理不尽な機動によってねじ伏せられた。


 赤い光が見えた瞬間に機体を捻る。

 それでは直撃コースから外れない。

 ならば回避を諦め、機体で受けるまで。

 搭載された武装の中から最適解を選択、可変式ビーム翼を展開。

 ビームランチャーの奔流を真ん中からぶった切るように翼をぶつける。


 ビームを切り裂いたアウトランダーは勢いそのまま、狙撃したヴェルニスに向かって突撃する。

 再度狙撃を試みるよう銃口を向けてくるヴェルニスだが、これ以上撃たせはしない。

 ビーム砲を2連、次いでミサイルを斉射。

 瓦礫に半身を隠していたヴェルニスは回避のため宙に機体を晒し、逃れるようにそのまま横へ機体を滑らせる。

 させじと後方に控えていたセイバーリングがビームライフルを予測される回避経路へ乱射。

 続けて挟み込むようにアサルトライフルを発射、逃走を阻害されたヴェルニスは逃げ道を失い、瞬間、その足を止める。

 間髪入れず、アウトランダーはそのままヴェルニスへ突撃。

 錐揉み回転、軌道を読ませないため翼を捻じるようにして斬りかかるアウトランダー。

 逃げられないと悟ったヴェルニスはビームサーベルを抜き、近接格闘戦での迎撃を試みる。

 アウトランダーのねじり切るような翼の軌道に合わせてビームサーベルを叩きつける……が、速度の乗った一撃はヴェルニスの腕を弾きとばし、機体の態勢を大きく崩した。


 生まれた千載一遇のチャンス。

 そこへセイバーリングがビームサーベルを抜いて斬りかかる。

 狙いはコックピット、エリーが明確な詰みを確信した上で振るった一撃は、弾き飛ばされた衝撃そのままに手足を振って宙返りをしたヴェルニスによって、片足とバックパックの一部を斬り飛ばすだけに留まった。


「これで墜とせないのか!?」


『躱された!?』


『あぅ……っ!』


 三者三様の感情が零れる。

 オキタは2機で攻めたてたのに墜とせなかったことへの驚嘆を。

 エリーは機体挙動だけで躱されたことに戦友の影を見た。

 リターナは自身の確信を裏切られた驚愕と、猛攻を凌ぎきったことへの安堵を。


「っ、おいおい勘弁してくれ、ここでイエローアラートは不味いって、なあ!?」


『オッキー大丈夫!? クソ、アイツらまだ来る!!』


 損傷しているヴェルニスは推進器にダメージを受けてたのか、小さな爆炎を上げながら落下していく。

 反転し、続けて残りの5機へ向けて再突撃を掛けようとしたアウトランダーのMIDに左翼損傷の表示が灯る。

 連鎖するように機体各所のチェックランプが灯り、機体損傷のアラートがコックピットに響く。

 無理な機動やビームランチャーを切り裂いた代償として、アウトランダーは限界を迎えていた。


『オッキー逃げて!!』


 庇うように前へと突出するセイバーリング、そこへ群がる3機のヴェルニス。

 2機はその脇を通り過ぎるようにアウトランダーへと迫る。

 アウトランダーは先程ミサイルを撃ち尽くし、ビームブレードは片側が損傷し使い物にならない。

 唯一無事のビーム砲は機首を向けなければ使えず、今の機体状況では全開加速すると機体がバラバラになりかねない絶対絶命の危機。


『二人とも! 上空にワープ反応!』


 危機的状況の中、インカムにラビットからの通信が届く。

 すわ、帝国軍が間に合ったかと安堵したのも束の間。


『面白そうな連中がまだ生きているじゃないか。俺とも遊んで貰おうか』


 オープンチャンネルで響く誰かの声と共に、先日追い払ったはずの宙賊の母艦4隻と、追加の共和国軍ヴェルニスが新たに1機、戦場に現れた。




 ☆




「敵艦、主砲を斉射しながらこちらへ近づく。尚も増速中……ミサイル来ます」


「質量弾、速度が乗る前に迎撃されています。

 初弾以降に目立ったダメージは与えられていません」


「シズは回避優先! 双子はそのまま状況注視!」


『承知しました。ですが』


「分かっとる、このままじゃジリ貧やけど切り札はまだ使えん。

 第二艦隊の到着まで何とか時間を稼がんと……」


 まだ隠し手はある。だが、文字通りの最後の手段をいつ切るか。

 第二艦隊の到達予想時間まであと僅かと言う所で、ラビットはプロテクトゥールからの猛攻に抑え込まれていた。


「フフフ……私をコケにした報い、死で償って貰いますよ」


 瓦礫を盾にするのであれば、その瓦礫ごとミサイルで砕いてしまえばいい。

 金属濃度が高いのであれば、レーザーで金属雲ごと焼き払ってしまえばいい。

 乗艦に傷を付けられたヘックス中佐は頭に血が上ったまま、攻撃の手を緩めるなと命令を下す。


「逃がしてはいけません。

 たった1隻の民間船に傷を付けられたとあっては共和国の恥部として記録されてしまうでしょう?

 記録ごとアレを沈めねば、帰るのも帰られません」


 しかしながら、小回りの利くラビットはシズの操艦によって巧みに瓦礫の隙間を縫って後退していく。

 お返しとばかりにトラクタービームで引き寄せた瓦礫を飛ばし、その影となるようにミサイルを追従させるように発射するが、戦艦の対空防御を抜けられず迎撃されてしまう千日手。

 そして、ラビットが後退するにしても限度があった。

 採掘基地の辺り一帯を地殻から捲ったとはいえ、それだけのエネルギーを持った破壊を更に広範囲へ及ぼすには採掘基地の爆薬類だけでは到底足らず、加えて用意したバトルフィールドの半分はオキタ達の戦場となっている。

 時間限界まで逃げ切れるかは、最早分の悪い賭けへと傾いてしまった。


「皆、後ちょっとや、後ちょっとで救援がくる。だから最後まで諦めんなや!」


「しぶといですねぇ。いい加減諦めてくれれば良いと、そうは思いませんか?」


 それぞれが互いの艦長席で、真逆の言葉をクルーへと投げかける。

 その間にもミサイル数発が瓦礫の間をすり抜けてラビットのシールドに直撃、中和しきれなかった衝撃が装甲を揺らしていく。


『すいませんミス・ハイデマリー、おめおめと直撃を受けてしまいました』


「そんなんええから!

 主砲の照射でも、この金属雲のお陰で数秒ならシールドと装甲で耐えられるさかい気にせんでええ!

 まだまだ逃げるで! 逃げて逃げて足掻くんや!!」


 艦を揺らす衝撃と恐怖から目に涙を浮かべ、震える声を張り上げる。

 退避ルートを必死に探し、敵艦からの攻撃を見逃さないよう集中を切らさない双子。

 人間では不可能と思われる、巧みな操艦で僅かな隙間に艦を滑らせるシズ。

 ラビットの面々はまだ誰も諦めていない。

 危機的状況においても全員で生き残る……作戦目標を誰も忘れてはいなかった。


「――――――本艦直上にワープ反応!!」


「二人とも、上空にワープ反応! 注意して!」


 帝国軍の増援が到着した!

 そう考えたハイデマリーは跳び上がるように席から立ちあがり、最後の一手を切る指示を出そうとしたところで、


『面白そうな連中がまだ生きているじゃないか。俺とも遊んで貰おうか』


 ラビットを逃がさないため上空へと現れた4隻の宙賊船に見て、腰が抜けたように艦長席へと崩れ落ちた。



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