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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
20/91

19_オークリー天地返し作戦④

241019 段落修正

 

「共和国戦艦増速を始めました、浮遊瓦礫密度の高いこちら側へ進行中」


「トラクタービーム継続照射中、瓦礫を捉え続ける。質量弾はいつでも発射可能」


 索敵、通信担当の双子が上げる報告を聞き、ハイデマリーは一つ安堵の深呼吸をした。

 ここまでは順調だ。

 戦闘前に採掘基地から書き集めた爆発物を使って地殻を捲り、大気中の金属濃度を大幅に上げることで戦艦のビーム/レーザーといったメイン火力を奪う。

 ラビットは瓦礫を盾にしながら敵艦へ牽制をし、その間にエリーとオキタは敵TSF部隊へ強襲。

 これを打ち破り、ラビットと合流した後に敵艦を撃破する。

 大筋の流れそのままに共和国軍は術中に嵌ってくれている。

 今も踏ん張ってくれている二人のエースパイロットに戦艦の砲火を向かわせず、ラビット総出で作ったバトルフィールドに敵を誘引して叩く……作戦の第一段階は無事に成功した。


「皆、気合入れぇや。こっから先は一つのミスも許されへんで」


 ハイデマリーの言葉にブリッジの全員がそれぞれの方法で気を引き締める。

 民間の輸送艦が軍隊の戦艦を相手にする、ここから先は文字通り命を懸けた時間稼ぎ。

 一つのミスが生死を分けることになる。

 背中を走る悪寒と呼べる感触に、ハイデマリーの表情も自然とこわばってしまう。

 何か一つでも起こってしまうと、恐怖から決壊してしまいそうなナニカが艦橋を支配しようとしていた。


『何も問題ありません。作戦は至って順調に継続中です』


 そんな戦場の雰囲気に吞まれてしまいそうな空気を破るように、何食わぬ顔でハイデマリーの傍に控えるミニシズが何時もの抑揚の無い音声を発する。

 序でハイデマリーの顔を覗き込むように言う。


『敵艦は決め手の無い輸送艦を放置し、部隊の相手をしているお二人へ向かうことも出来たはず。

 ですが、迷わずこちらへ向かってきました。

 ラビット程度、直掩無しに墜とせるという確信的な油断があるからです。

 私達はその油断を逆手に取る準備をしてきました。

 必要な作戦を立てて実行し、私達は今、生き残るためここにいます

 私達は負けません。生き残る確率は100%です』


 あるいは、こちらを無視できない程鬱陶しく感じたか。

 と、普段は付け加える”無駄口”を飲み込んで淡々と勝利宣言をするシズに、ラビットの面々はキョトンとした後、各々含み笑いを浮かべた。


「ほな……やるか!」


「「『はい!』」」


「質量弾、目標敵共和国戦艦! トラクタービーム、牽引射撃始め!!」


 大型瓦礫をそのまま質量弾として発射、すぐさま次の瓦礫の影へと隠れていく。

 ラビットもまた、戦艦相手の鬼ごっこを開始した。




 ☆




 ラビットの放った質量弾がプロテクトゥール搭載の主砲による連続照射によって砕かれる。

 だが、それでも砕き切れなかった瓦礫が艦のシールドを破り直撃する様を、オキタは錐揉みのロール回避を行うアウトランダーの中で垣間見た。

 作戦の第2段階、トラクタービームを用いた質量弾による砲撃が開始、その初撃は見事に戦艦プロテクトゥールの装甲にダメージを与えることに成功していた。

 オキタが目撃した瞬間と同じく、直撃した瓦礫の質量故に艦が流されていく様を捉えた共和国可変VTSFヴェルニスは瞬間、VSF状態からTSFへと変形し足を止めてしまう。


『よそ見!』


 待ってましたと言わんばかりに、足の止まった一機目掛けてセイバーリングがアサルトライフルのHE弾を浴びせ掛ける。


『しまっ…!』


『ハーネス!』


 ヴェルニスのパイロット、ハーネスは咄嗟に機体を逸らして回避しようとするが避けられず、機体表面に張られているシールドにHE弾が直撃。

 ビームライフルを持っていた腕ごとシールドを抜かれ、爆発の衝撃で機体が大きく揺れた。


『糞! あのエルフ野郎!!』


 右腕はそのまま爆散、主力兵装を損失するも戦闘継続は可能な状況だとシステムは表示している。

 すぐさまバックパックのミサイルをばら撒くが、当のセイバーリングとアウトランダーは既に瓦礫と金属雲に身を隠しているため捉えることができず、ミサイルは空を彷徨った後に自爆した。


『クッソ、徹底してヒット&アウェイかよ。

 しかも並の腕じゃねぇ、限定された空間とはいえ、俺らがこうも捉えられないなんて』


『何なのよあの2機。

 莫迦みたいな速度で瓦礫に突っ込んで行くなんて……命が惜しくないの?』


『泣き言を言うなJ.B。

 リターナ中尉、重ねて聞くがあの二人はB.M.I強化手術を受けていないのだな?』


「エルフの方は知らないけど、オキタ准尉は受けてない。それは確実」


 自分たちは共和国軍の特殊部隊であり、数多くの作戦を成功させた実績と能力を持っている。

 B.M.I強化手術を受け、人類を超越した最高の精鋭部隊であることに疑いの余地はない。

 割り当てられた機体は最新鋭の量産型をカスタマイズした、エースパイロットの専用機に匹敵しているのだ。


 にもかかわらず、型落ちのVSFとTSFにあしらわれる始末。


 視界不良の上に瓦礫が浮遊する局所的な閉鎖空間という慣れない環境での戦闘。

 まんまと作戦に乗せられ母艦が危機に瀕している状況を加味しても、お前たちはその程度の腕しかないのだと突き付けられている。

 先ほども僅かな油断から隊員が一人殉職する間際だった。

 直撃を受けなかったのはセイバーリングの兵装がヴェルニスのシールドを破るのに僅かに時間を要したことと、当たり所が良かっただけに過ぎない。

 ここに至り、隊を預けられている副長はオキタとエリーの脅威度を数段上げなければならないと確信した。


『リターナ中尉。貴様の攻撃頻度が少ないようだが、何故連中を撃たない』


「私は当たると思った時しか撃たない。知ってるでしょ」


『けっ、相変わらずお堅い奴だぜ。関係なくぶっ放せばいいだろうが』


『黙れハーネス。

 中尉、あいつ等はお前の()()を越えた動きをしているのか?

 確かに連中は速いがそれだけだ。

 隊長にも当てられるお前の狙撃だ、無理とは言わせんぞ』


「この金属雲だとビームランチャーでも減衰が入る。

 アウトランダーは兎も角、セイバーリングのシールドを破るには数発必要」


『ならVSFを狙え。お前たちもそれでいいな?

 これ以上の遅延は隊長との合流にも響く。

 残りのΑΩを回収したい中佐の欲も分からんではないが、時間が無いのはこちらも同じだということを忘れるなよ』


『チッ、せっかくの獲物を隊長に獲られるわけにはいかねぇ。

 癪だが辺境の英雄と腰巾着のエルフを認めるしかねぇか』


『オキタ准尉のVSFを執拗に狙え。

 幸い上層は金属濃度、瓦礫密度共に低い。

 有視界戦闘下で型落ちに負ける道理などないのだ、追い詰めてキルゾーンに誘い込め』


『『『了解』』』

「……了解」


 VSFへと変形し、5機がオキタとエリーを追い掛けるため浮遊する瓦礫の中へと飛び立っていく。

 それとは別にリターナは上昇を開始、金属雲を抜けた先でTSFへと機体を変形させる。

 手頃な瓦礫に身を潜めた状態で、TSF時には背部に折り畳むように収納されていたビームランチャーを1丁肩越しに構え、狙撃体制を取る。


(結局こうなる……撃ちたくないのに)


 言葉には出さない。レコーダーに残れば造反を疑われてしまう。

 いっそ外してしまおうか、僅かに頭をよぎった考えをかき消すようにスコープサイトを覗き込む。

 指揮官機と同様に備え付けられている一本角のレーダーサイトが眼下の機体を捉え続けている。


 上下左右、狭い空間を縫うように鋭い挙動で駆け抜ける2機の機影は敵機。

 後ろを突いている2機は味方機。反対側から追い立てるように2機も味方機であるとIFFは示している。

 本気になった特殊部隊を相手に良く逃げている、リターナは二人の戦闘機動に心から感心した。

 B.M.I強化手術もなく、旧式の機体で良くもここまで……時折追い立てているはずの味方機がブレイクするのは反撃を避けているのだろう。

 そして下からの奇襲にも対応し、囲いのない惑星上空へ向かって上昇を始める2機。

 まさしくエースの所業。

 共和国に居れば間違いなく専用機を与えられ、対帝国の尖兵へ迎え入れられるだろう。


「それでも……私に撃たせたのは、アナタ」


 ――――――当たる。


 確信のまま、自身の体に刻まれたB.M.Iの予知した先にビームを置く。

 吸い込まれるようにアウトランダーへと突き進むビームの奔流。


 任務終了。

 空虚な心なまま呟こうとした口は、放ったビームが、アウトランダーが展開したビームブレードによって切り裂かれると同時に別の言葉を発する。


「っ、これだから…!!」


 エースは落ちない。


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