18_オークリー天地返し作戦③
241019 段落修正
ラビットの面々が警戒を強め、基地上空で即応待機を続ける最中。
共和国戦艦プロテクトゥール―――帝国基準では巡洋艦に分類される程度のサイズ―――が採掘基地宇宙港から出港し、宇宙へ旅立とうとしたところで反転、艦の上下にそれぞれ搭載されているミサイルが基地宇宙港に向けて発射された。
基地に居る者たちの中で何が起こっているのかを即座に理解出来た者はいないだろう。
それでも機械によって制御されている防空設備は迫りくる大量の飛翔物に向け即座に対空ミサイルを発射、続けて対空レーザーの照射による迎撃を開始したが、ここでラビットが地下を爆発させて作り上げた浮遊瓦礫が対空レーザー照射の邪魔となってしまった。
弱い重力下に多量に撒かれた、オークリーの地下資源である金属を含んだ粉塵がレーザーを大幅に減衰させたのだ。
これによりレーザーの多くは飛来するミサイルに対して有効打となり得ず、辺境の採掘基地に備え付けられている貧弱な対空ミサイルの数では戦艦による一斉射をしのぎ切るに至らなかった。
結果、採掘基地の宇宙港はプロテクトゥールのミサイルによってその出入口が塞がれた。
だが幸いにもプロテクトゥールが艦の上下に備えている2門2連、計8門の重レーザー砲が基地に撃ち込まれることは無かった。
『始まったね』
「主砲が向けられるのを防いだとはいえ、半分は俺らのせいか」
『ラビットホームよりラビット1、2へ。
作戦上こうなることは織り込み済みだからね、被害は宇宙港のみ、許容範囲内です。
以降の作戦に変更なし』
ここに至り採掘基地から高強度のSOS信号が宇宙に向けて発信された。
まさか基地に招き入れていた傭兵から攻撃を受けるとは思っていなかったのだろう、基地司令の怒鳴り声と共に惑星上の通信量が瞬く間に多くなっていくが、宇宙港を潰されていては迎撃に上がることも儘ならない。
「―――来るぞ!」
共和国戦艦プロテクトゥールから6機の艦載機が発艦。浮遊する瓦礫の淵を舐めるよう、最低限の挙動でオキタとエリーに迫る。
「練度高ぇ! ラビットに向かわせるな、行くぞ!!」
『合点承知!』
『熱紋照合……近似する該当機種あり、共和国軍可変型VTSFヴェルニス。
最新鋭の量産機です、ご注意を』
『たぶん特務仕様だよ、ステルス性能にも注意して!』
共和国は帝国と比べると人口、支配領域といった国力は小さい。
もとより、帝国と比肩するほどの支配地域を持つ国は宇宙に存在しない。
それでも、共和国は帝国に対抗できるまでの軍事力を保有するようになった。
それは明確な敵のいなかった帝国とは違い、打倒帝国を掲げた故に。
帝国より早く、帝国より強く。
日々研がれた技術は遂に帝国軍の主力機と肩を並べる可変型TSFを生み出した。
その可変型VTSFシリーズの最新鋭量産機ヴェルニス。
それも特務仕様に改造されたカスタム機がオキタとエリーを撃ち落とさんと迫る。
可変機故に見た目はただのVSF。だが兵装はアウトランダーとは比べ物にならない。
共和国製の兵器は代々バックパックユニットを交換することで機体特性を変えられる仕様になっている。
これは帝国のように数と種類を揃えられない共和国が苦肉の策として一つの機体に何種類もの役割を持たせようとしたことに始まるが、素体の機体性能が上がるにつれ器用貧乏さは薄れていった。
そして今、ヴェルニスは二種類のバックパックを装備している。
ビームライフルよりも速度と威力に秀でた取り回しが可能なビームランチャーが機体上部に2つ。
バックパックの両端に固定されたビームキャノンが2つ。
機体下部に見えるビームライフルが一つ。
計5門のビーム兵器を搭載した長距離火力特化型が1機。
機体下部にビームライフルを一本。
ビームランチャーの代わりに取り付けられたスラスター一体型のウェポンベイに小型のHM3を多々搭載し、TSFでありながら単機でミサイルによる弾幕形成も可能な重機動型が5機。
ビームサーベル、VSF時には機首になる物理シールドといった基本的な兵装も勿論装備した最新量産機計6機が編隊を組んで飛来する。
『あの火力型……きっとアイツだ!』
「エリー2機連携を崩すな!」
『分かってるってば! ……囮役は任せたよ!』
快速を誇るアウトランダーに速度で劣るものの、総合力では完全にアウトランダーが勝てるはずもない。
それ故にオキタは囮役となって敵を誘引する。
浮遊する瓦礫によってアウトランダーは快速を活かせず、ヒット&アウェイという唯一の強みすらも失った状態で敵に後ろを取らせる危険な役回りをオキタは自ら志願した。
敵を墜とせる兵装がない自分が墜ちたとしても、エリーのセイバーリングが残っていれば何とかなると言って。
『墜とさせる訳ないでしょ……!』
幼い風貌に憤怒の表情を浮かべるエリー。
犬歯をむき出しにし、目はこれでもかと吊り上がっている。
その目には、同じく2機連携で上下左右から包囲しようと迫る敵機の姿をはっきりと捉えている。
この場に於いて、かつてないほどの激情がエリーを支配していた。
己を天才と自負しているが、それは戦場で敵と相成った時の話であり、作戦を立てられるほど知略に秀でている訳ではない。
出たとこ勝負が得意な分、どうしても御座なりにしてしまうことへの自覚はあった。
だから、オキタが堕ちることを前提とした作戦が決まった時も、瞬間的に沸き上がった例えようの無い怒りを表に出さなかった。
ハイデマリーが出した幾つかのプランを基にシズがシミュレーションし、全員の生存率、成功確率が一番高い作戦だということも納得した上で沸き上がる、腹の底でぐつぐつと煮えかえる怒り。
それは自分が認めた人間が死を受け入れたことに、何もしてやれない情けなさへの怒りだった。
ならここで全てぶつけてやる。
僚機は自分の名に懸けて絶対に墜とさせない。
誓い、操縦桿を強く握りしめる。
瞬間、セイバーリングの装甲が視認できない輝度で青く発光した。
エリーは自身のあずかり知らぬところで、そのコンディションは過去最高にまで高まり始めていた。
☆
戦艦プロテクトゥールのメインブリッジ。
その艦長席に座るヘックス中佐は、自分たちの前に立ち塞がるには貧弱に過ぎるラビット商会を冷めた目で見ていた。
「理解しかねますね。
リターナ中尉が哀れにも慈悲をくれてやったというのに隠れもせず、逃げることもせず、あまつさえ立ち塞がるとは」
既に稀少鉱物ΑΩは共和国に届けられ、解析が進められている頃だろう。
後は残っているΑΩを全て回収し、目撃者を全て消せば薄汚い辺境での任務も終わる。
与えられた任務の重要度に反して難易度はそれ程高くなかったこの任務が、自身を次なる地位へ押し上げるステップであるとヘックス中佐は自認している。
元来後方勤務であるが故に中佐の地位に甘んじているが、この部隊に於いて”自分は”生粋の共和国軍エリートである。
特殊部隊を束ねる戦艦の艦長として実績を積むことによって、前線の口煩い莫迦共も歯向かうことは無くなるだろうという下心もあった。
「しかしリターナ中尉の勝手な行いにも困ったものです。
上官の命令には絶対服従が軍隊の基本、部下の造反はいけませんが……まあ、仕方ありません。
いくら共和国に忠誠を誓い、身体を強化されようが所詮は帝国人です。
崇高な思想を持つ共和国人には近づくことすら出来ないということでしょう。
中尉のスパイ活動については戻ってからじっくりと……ええ、私自らの手であの身体に尋問してあげましょう。フフフ」
共和国帰還後の輝かしい未来に薄ら笑いを強めるヘックス中佐。
その眼前では部下のTSF部隊が2機の傭兵共を追い回している。
何やら複雑怪奇な挙動で瓦礫の中を飛び回っているように見えるが、部隊もその後ろに付いて回りHM3でのミサイル攻撃を加えている。
瓦礫が邪魔で有効打になっていないが、追い立て続ければ鬼ごっこも終わるだろう。
アレらも生意気な相手であったが、あの様子では自分の手で鉄槌を下すまでもない。
「敵輸送艦、浮遊する瓦礫の影に隠れます。
高速で飛来する熱源を探知……数4、ミサイルです!」
「対空砲火、撃ち落としなさい」
プロテクトゥールの対空砲火がミサイルを撃墜、爆炎が上がる。
たかが数発のミサイル、対空砲火を搔い潜った所で戦艦のシールドが破られることはなく、装甲の下のバイタルパートにダメージを入れるには程遠い。
「フム……こちらを沈めるには足りず、かといって無視されるのも困るという意図を感じますね。
大方時間稼ぎのつもりでしょうが、帝国軍が辿り着くまで時間的猶予はあります。
私の優位性は揺るぎませんが、ちょこまかと煩いハエを放っておくのは主義に反します。
観測班、空間に漂う金属濃度は主砲をどの程度減衰させますか?」
「オークリーの地殻は多分に金属を含んでおり、先立って捲られた辺り一帯の濃度は視界を遮るほどです。
艦主砲は敵艦に届きはしますが、装甲を融解させるまでの照射時間は従来より多く必要になります。
また照射中に大型の浮遊瓦礫を盾にされる可能性も考慮すれば、決定打とするには……」
「主砲はダメと。
では砲術長、艦の実弾兵装でサクッと沈められませんか?」
「こちらからもミサイルを撃ち込むことはできますが、何分瓦礫が邪魔でミサイルの軌道が制限されます。
数を撃とうにもこれでは……」
「フム……やるではありませんか、戦艦の攻撃力を一介の商人が封じ込めたのです。
このまま時間稼ぎが成功すれば、彼女らは勲章物ですよ」
艦長席で拍手をするヘックス中佐。
部下達は自分の仕事に集中しているフリで無視を決め込んだ。
中佐が他人を褒める時は決まって機嫌が悪い時だと、この任務中に彼らは理解している。
「瓦礫を避けながら微速前進。主砲を敵艦に撃ちなさい」
「はっ、しかし有効打には……」
「有効打になるまで撃ち続けなさい。
浮遊する金属が邪魔? 全て焼き払ってしまえば問題ないでしょう。
必要であればミサイルで瓦礫ごと吹き飛ばしなさい」
「了解しました」
プロテクトゥールのメインスラスターに火が灯り、前進を開始。
ラビットが潜む金属濃度が高い空域への侵入を開始する。
その行動こそ、ラビットが狙っていた作戦とは知らずに。
「敵艦……いえ、浮遊する大型の瓦礫に動きあり! これは……!」
「どうしたのですか? 報告は迅速かつ正確に行いなさい」
「て、敵艦が盾にしていた瓦礫が本艦に向けて向かってきています!
大型飛来物、なおも加速中!」
「なにっ!?」
久しぶりにユーザーホーム来たら色々変わり過ぎて勝手が分からなくて困ってました。今も予約投稿機能探して迷子になってました。見つけましたけど。
明日も投稿します@8/22
2章終わるまでは毎日投稿出来たらいいかなと




