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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
18/91

17_オークリー天地返し作戦②_挿絵有

241019 段落修正

 

 俯瞰しろ


 刹那的な勝ち負けに意味はない


 俯瞰しろ


 最後に立っている者を見極めるために


 俯瞰しろ


 勝ち馬に乗るために。敵味方は存在しない、商人のあるべき姿のために


「鉱石と備品の殆どを買い占めたけど、財産の半分近くが無くなってもたか……たは~、後で帝国に補填してもらえんかったら破産やな」


 幼少期、ハイデマリーは商人としてのイロハを両親から教わった。

 それから十数年。

 親元を離れ、自分の商会を立ち上げ、それなりの稼ぎも出るようになった彼女の楽しみは、いつしか物への投資から人への投資へと移りつつあった。

 星系間貿易を進めている所にアレン、エレン、エリーと出会った。

 次にアンドー、今はもう居ない一人の男。

 彼女は自身が見極めた人材を雇い入れた。

 両親の教え通り、勝ち馬に乗るための人材投資だ。

 優秀な人材を手元におくことは、欲しいモノが物から人に移った彼女にとっても望むところだった。


 そして始まる日々。

 順調な仕事、貯まり続けるクレジット。

 調整した安全マージンの下で冒険し、管理された刺激のみを甘受する。

 それに特段の不満があるわけではない。

 けれども何時からだったろうか、彼女たちがそんな日々に飽き始めていたのは。

 頼れる仲間との日々がただの作業に感じ始めたのは。


 エリーはそんな日々に嫌気が差したのか、軍の依頼を受けるようになった。

 アレンとエレンは斜に構えて何も言わない。変わることを恐れているように。

 アンドーは長年連れ添った一人の友人が離反しても、雇い主に文句を言わなかった。

 シズは製作者である彼女の全てを肯定するだけ。


 彼女はそんなメンバーの気持ちも理解できた。

 長い年月を生きるハーフリングやエルフの祖先が、何故自分たちの母星を離れてまで宇宙に出たのか。

 彼ら彼女らは日々の安定を保つために危険な宇宙に旅立ったわけではない。

 長い人生の中で刹那的な喜び……独善的で傲慢な「自分のやりたい事をやる」ことがDNAに刻まれているたった一つの真実。


「負けたら冥府、勝っても破産。

 死ぬ気でやって初めて見える好機。

 ウチを焚きつけた働きはして貰わんとなぁ」


 本気で生きることを諦め掛けていた日々に出会った、本気で"やりたいこと"のために生きている人間。

 長い年月を生きる彼女からしたら、子供のような年齢の人間を仲間に加えたことでラビットの空気は変わった。

 失敗すれば死ぬ戦いに命をベットする。

 商人には荷が重いが、ハイデマリーはそれでも引くつもりはなかった。

 有史以来ヒトの心から生まれる力の源泉、刹那的な「やりたいこと」という欲望を叶えるために。


「無理無茶無謀とか関係あるかいな。ハーフリング魂見せてやんよ」


 基地にある大量の鉱石、地殻発破用の爆薬、基地防衛用のミサイル。

 全て搔き集めた上でようやく勝負のテーブルに乗ることが出来る。

 花火みたいに一瞬な、ヒリつく勝負を前に人知れず喜色満面の笑みを浮かべた。



















「まさか地下採掘場に潜れるなんてな」


『それだけ管理がユルいってことでしょ?

 渡すもの渡せば好きに鉱物も採って良いとか、普通ありえないよ』


「ΑΩのお陰で気が緩んでいるんだろう。お陰で工作作業が捗っているんだが」


 オークリー地下採掘場。

 地下資源を採るために掘り進められた空間に、俺とエリーはそれぞれの機体に乗って来た。

 地下と言っても、掘削ドリルやレーザーで掘り進められているお陰で、地下とは思えない巨大空間があちらこちらに広がっている。

 またオークリー地下特有の網目状の、細い柱で支えあって出来ているように見える空間には手が付けられていない箇所が多い。

 少しでも傷つけると天井になっている地面が丸ごと崩壊する可能性を考慮したからだろうか。

 重力が非常に弱い惑星とはいえ、押しつぶされる危険を冒してまで触ろうとは思わなかったのだろう。


「ガーデン少佐とのやり取りから3日。

 遂に明日Xデイを迎えるわけだが、ここまでは予定通り順調に来れたな」


『マリーの作戦聞いた時は遂に頭イッちゃったかと思ったよ。

 オッキーだって、ハイデマリーの作戦が巧く嵌るかは半信半疑なんでしょ?』


「いくらシズのシミュレーションを何度も通したと言ってもなぁ……。

 まあ、出来る事をやるしかないだろ」


 細い柱、太い柱、地面や天井etc。

 シズが算出したポイント全てに爆薬やミサイル等の爆発物を設置するのに3日も掛かった。

 どれだけ爆発物仕掛ければ気が済むんだとか、一つ爆発したら連鎖して死ぬかも、なんて思いながらエリーと作業を続けてきたが、それもようやく終わりが見えてきた。


『基地が休業中なのも運が良かったよね。

 何してるか気になった人もいるだろうけど、マリーが提供したお酒と食べ物に夢中になってるし。

 "赤字やー!"って叫んでたけど』


「この爆薬も基地の備蓄ほぼ全部だろ?

 帝国軍に後払いして貰うクレジットの額がとんでもないことになりそうだ」


『それもΑΩが守れたらの話だけどねー。

 ホント、ΑΩが埋まってる箇所を探索出来ればよかったのに』


「流石にそれは許可されないだろ。

 警備部隊が24h体制で張り付いているし……帝国軍が居たらそいつら殺してでも地面埋めろって命令されるだろうけど」


『そんなことしたら、今度はボクらが企業に睨まれる切っ掛けに成り兼ねないからね。

 ΑΩは明日に全部取り出されるんでしょ?

 警備部門の人たち全員出払ってるらしいし……ほいっ、取り扱い要注意のブツ設置完了。

 上がってトラクタービームの準備しよっか』


「そうだな―――こちらラビット2。ラビットホーム聞こえるか?」


『こちらラビットホーム、アレンです。どうぞ』


「最深部の仕込み完了。

 これからエリーと地上に出てから第一段階を始める予定だ。

 傭兵や警備部門への言い訳は任せた」


『そちらはお任せを。二人の任意のタイミングで発破して下さい』


 通信モニター越しのエリーと頷き合い、複雑に掘り進められた地下を脱出していく。

 通り過ぎた地下空間の全てには俺たちが3日掛けて仕掛けた爆発物がタイミングを待っている。


『行くよ~……3,2,1、発破ー!』


 地上に出たタイミングでエリーが仕掛けられた爆薬を爆発させた。

 空に居る俺たちでも分かるくらい、オークリーの地面が大きく揺れ始める。


「爆発で地面が捲れあがるぞ!

 作戦通り、トラクタービームは飛んでくる大型の瓦礫だけに照準合わせろ!」


『合点承知!』


 爆発によって捲れあがった大小様々な瓦礫。

 つい先ほどまで大地だった塊が爆発の余波でほぼ無重力に近いオークリーの空へ打ち上ってくる。


『ちょっ、数多いって!

 って、気付かない内にシールド残量減ってるんだけど!?

 想像以上に危なくないコレ!?』


「規模合ってるんだろうなあのポンコツAI。

 上層部は比較的軽いから注意して下さいって言ってたが、砕かれていない破片なんてまんま質量弾じゃねえか!」


 機体とほぼ同じ大きさの瓦礫までは全て無視。

 そのまま宇宙空間まで飛んでもらっても良し、滞空してくれても良しだ。

 大抵の瓦礫は機体のシールドに弾かれて終いだが、ある程度大きくなるとシールドは役に立たない。

 打ち上って来た大きい瓦礫にだけトラクタービームを当て、瓦礫の慣性力を打ち消していく。


「なるべく均等になるようにばら撒けよ。

 この辺り一帯を戦場にするんだからな」


『うい~』







 ☆






 やはりと言うか、地下採掘場を爆破して瓦礫を空中に打ち上げたのはやり過ぎたらしい。

 訳あってラビットへ着艦できない俺とエリーが宇宙港に機体を着陸させたときには、オークリー付近の無線が喧しいことになっていた。

 もちろん俺にも多数の通信やらメールやらが飛んできたが、クレームは全部ラビットに送ってくれと言って切り捨てた。

 今頃はラビットにかなりのクレームが入っているだろう。


 機体から降りてきたエリーと合流し、一緒に基地の中へ入る。

 この後はアウトランダーに追加兵装を装着させて、明日に備えるだけだ。

 基地内部に繋がる狭い通路の扉を開くと、見知った人物が待ち構えていた。

 共和国軍のリターナ・ベル中尉だ。


「――――――何で逃げなかったの」


挿絵(By みてみん)



「共和国の耐Gスーツか? 似合ってるな、リターナ中尉。

 かなり不機嫌みたいだが、カルシウム取ってるか?」


 不機嫌そうなリターナ中尉。

 敢えてヘラヘラと返してやると、無表情ながらも不機嫌そうな雰囲気を隠さずこちらを睨み付けてくる。


「私は忠告したはず。明日にはこの基地は更地になるのに、何で逃げないの?」


「その節はどうも。

 けど決めたんだわ、俺とエリーで共和国の精鋭ぶっ潰そうってな」


「B.M.Iだか精鋭だか知らないけど、ボクらを墜とせる思ってるなら思い違いも甚だしいよ」


 エリーが一歩前に出て啖呵を切った。

 俺の位置からは表情が読めないが、エリーもエリーでだいぶアガッてきているようだ。


「セイバーリングとアウトランダーの性能は把握している。

 その上で忠告しているつもり」


「そこまで言うなら聞かせてもらいたいな。共和国の機体性能ってやつをさ」


 見たこともない機体と初見で戦うのは避けたい想いで発した一言だが、リターナ中尉は首を横に振る。


「明日には分かる。……出来れば貴方を殺したくはなかった」


「そりゃ俺も同じだ。中尉みたいな美人を墜とすのは気が引ける。

 あれだけ情報もくれたんだ、今からでも寝返っていいんだぜ?」


「バカ言ってる場合じゃないでしょ。オッキーがやらないならボクが墜とすから」


 脇腹に肘撃ちを入れてくるエリーを宥めつつ、リターナ中尉とすれ違う。


「残念だよ……本当に、残念だね」


 それはこっちのセリフだ。

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