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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
17/91

16_オークリー天地返し作戦①

241019 段落修正

 

 リターナ中尉と別れた後、俺は急ぎラビットに戻ってきた。

 ハイデマリーは伝手を頼ると言っていたが、オークリーから通信が届く範囲に帝国軍の知り合いでもいるのだろうか。

 多くを知らない雇い主のコネを不思議に思いながらブリッジへ続く扉を開ける。

 すると、中で待っていたラビットの面々が深刻そうな面持ちで到着した俺を見てくる。

 普段は飄々とした連中が真面目な表情を浮かべているところが事態の深刻さを物語っている。

 そんな面々をあえて無視しつつブリッジのメインモニターを見上げたところ、ついこの間知り合ったばかりの帝国軍人と秘匿回線が繋がっていた。


『久しぶりだな、オキタ准尉。コロニーでの会談以来か』


「ガーデン少佐! オイゲン中尉も」


 ブリッジのモニターにはガーデン少佐とオイゲン中尉が映っていた。

 軽い敬礼をすると向こうも敬礼を返してくれる。

 復帰の誘いを断ったことに少し後ろめたさを感じてはいたが、向こうは気にしていないようで良かった。


「少佐の艦隊を捕まえられたのは運が良かったわ。

 とりあえず、ウチからあらましと連中の狙いは説明しといたで。

 そんで、これからどうするか? って話をしようとしとった所や」


 ほれこっちこっち、とハイデマリーに手招きされ、俺はモニター正面に立つよう促された。

 俺の居ない間に場を進めてくれていたハイデマリーに任せた方が話が早く進む気がするが、向こうも俺から直接話を聞くつもりらしく異論は無いようだった。


『貴官はほとほとトラブル体質らしい。

 こんな事なら早々に仕事を引き継いで帝都に向かっていれば良かったと後悔している所だが、そうも言ってられん事態だ』


「少佐、帝国軍は動いてくれるのか?」


 まず気になるのはそこだ。

 ΑΩに共和国、厄ネタが編隊を組んでやって来たようなものだ。

 この期に及んで帝国軍が動かないことは無いと思うが、大前提として確認しておかなければいけない。


『当然だ。既に私の艦隊が中継局となり、事のあらましは参謀本部へ報告済みだ。

 今も対応を協議している最中だろう』


「じゃあ、ボクたちはお役御免でオークリーから撤退して良いの?」


『勿論だ。ここから先は我々が引き継ぐ』


 ガーデン少佐の返答にブリッジは安堵の溜息で埋め尽くされる。

 皆が安堵する気持ちはよく分かる。

 正規軍と傭兵では戦力差が大きすぎる。

 これは数の差だけを示しているわけではない。

 傭兵の多くは―――懐事情もあるだろうが―――正規軍で使われなくなった払下げの中古品や、帝国軍のTSF/VSF選定計画でコンペ負けした企業の機体を使っている。

 企業の警備部門も軍に選定された場合はその軍用機を自企業の戦力として使うことは許されておらず、結果優秀な機体を民間組織が扱うことはほぼ不可能となっている。


 ラビットにある戦力で唯一この制約に囚われていないのが独自路線を貫くエルフ軍……つまりエリーのセイバーリングだが、エルフ軍やELFシリーズについてはあまり情報も無いので割愛しておく。


 そういった理由があり、正規軍同士の戦闘では木端傭兵の助太刀など意味がない。

 皆が安堵したのは帝国軍が出張ってくれると分かり、無駄に命を散らさずに済んだからだ。

 共和国特務隊とやらがどの程度の練度かは知らないが、戦艦1隻程度で帝国軍の正規艦隊を相手取れると思えないのも要因の一つだろう。


『……そう言いたい所だが、事はそう簡単ではないのだよエリー中尉』


 そこで話を一度切ったガーデン少佐。

 安堵したのも束の間、全員の顔が強張った。

 軍帽を外し、髪を整え直している少佐の姿を見て嫌な予感が過る。

 往々にして、こういう場合の嫌な予感だけは敵中するものだ。


『帝都にいる同僚からリアルタイムで情報を貰っているが、参謀本部は大慌てのようでね。

 何せ伝説上の産物でしかなかったΑΩの出土に加え、その一部は既に共和国に強奪されているというのは我々としても寝耳に水でね。

 参謀本部の職務怠慢の結果がコレとは、まったく笑えないものだ』


「オキたん、この少佐ホンマは情報局の人間やったらしいで。

 ウチが忠告した通りやったやろ」


「最近俺と関わる人、身分偽り過ぎじゃないか?」


 帝国情報局。

 名前だけは聞いたことがあるが、関わったのはガーデン少佐が初めてになる。

 戦術も戦略も取らないヴォイド相手に分析など意味がない……とまでは言い切らないだろうが、駐屯地に居た頃にその手の士官を見たことは無かった。

 ガーデン少佐のように身分を偽って居たのかもしれないが。


『私のことなど今の状況に比べれば細事でしかない、話を戻させてもらう。

 情報局の想像以上に評議会と参謀本部の動きが悪くてね。

 貴官らには関係のない話と思っていたが、つい先日共和国との境界面で小競り合いがあり、そちらの対応に艦隊を差し向けていた所にこれだ。

 陽動作戦の一環と見て間違いないだろう』


「内と外の呼応……現在起こっている小競り合いがどれほどの規模か存じませんが、帝国軍はそちらの対応で手一杯になっていると言うことですか?

 私達が置かれている状況はかなり不味いようですね」


「ははぁ、ここまで来れば何を言いたいか儂にも分かるぞ。

 ガーデン少佐よぉ……儂らに死ねと言いたいなら直接言ったらどうだ?」


 アレンとアンドー、二人ともガーデン少佐が言わんとすることが分かったのだろう。

 俺も察しがついた。

 少佐、もしくはそのもっと上の上位者たちはこう言っているのだろう。

 "死んでもΑΩを守れ"と。

 無茶苦茶なオーダーだ。

 共和国の戦艦1隻と特殊部隊相手に、民間の輸送艦1隻と2機だけでどう対処しろと。

 ここで逃げたところで誰も納得する詰み具合だ。

 もっとも、本当に逃げてしまえば帝国軍に銀河の果てまで追いかけられるかもしれないが。


『ΑΩを死守しろ、とまでは言わん。

 我々が求めるのはただ一つ、帝国軍がオークリーに到着するまでの時間稼ぎだ。

 そのための手段は問わない。

 本件に限り、君たちの裁量で必要と判断した行動の全てが、帝国法によって裁かれることは一切無いことを此処に宣言しておく』


「そないなこと言われても何を安心せえっちゅうねん!

 相手は戦艦持った特殊部隊やで?

 基地の防衛部隊と雇われ傭兵を加えたところで、ウチらなんて瞬きする間に撃ち落とされてまうわ!」


 頬を引き攣らせながらハイデマリーが言うが、ここにいる全員が同じことを思っているだろう。

 傭兵や企業の警備部門は装備が整っていない宙賊を相手にすることが本来の仕事であって、ゴリゴリの正規部隊を相手にすることは想定していない。

 全員の予想通り、戦闘開始から数時間もしない内にこの基地は更地に変えられてしまうだろう。

 当然、そこには俺たちの屍と破壊された艦や機体が横たわることになる。


『更に付け加えるなら、事が起こるまで基地戦力は宛てにしないことだ。

 帝国政府に黙ってΑΩを運搬し強奪された連中だ、最悪繋がっている可能性まで考えると信用しない方が良い』


「つまり俺とエリーだけで、共和国の1部隊とやりあってみせろと。

 エリーのセイバーリングはともかく、型落ちのアウトランダーに向かって無茶なこと言ってくれるな。

 少佐、アンタ正気か?」


『生き残るために状況を利用しろ。

 連中が本当に裏切っていないのであれば盾くらいにはなるだろう』


 アドバイスもクソもねぇよ、と返す気力も湧かなかった。

 貧乏くじここに極まるというか、お前の命日はもうすぐだと言われているようにしか思えない。

 しくじったなぁ、こんなことなら無理してでもTSFに乗り換えておくんだった。


「こんなこと言いたくないんだけどさ、帝国軍って今何してるの?

 時間稼ぎっていうけど、まさか見捨てるつもりはないよね?

 本当はもう近くまで来てるけど、共和国軍がボクたちをやっつけ終わって気を抜いた所を襲撃する作戦とか立ててないよね?」


『帝国軍ほど巨大な組織となると艦隊を動かす準備にも時間が掛かる。

 エリー中尉の言い分は分かる、耳が痛いことにそのような案が参謀本部で挙がっていることも確かだ。

 しかし、帝都では今も艦隊派遣の準備が進められている。

 なにせ、評議会の動きが悪いと見た貴族連が先んじて第2艦隊に出撃命令を下したのだからな』


「帝国軍第2艦隊? ……あまり表に出てこないところだよね。

 オッキーは知ってる?」


「たしか、貴族連の部隊だったはずだ。

 青い薔薇が部隊章で"帝国の怪人"が艦隊指揮を執っているとか何とか」


 青色と薔薇、帝国貴族の象徴である両方を部隊章として使うことを許されている貴族連の武闘派集団。

 貴族の中でも選りすぐりの武家を集めて構成された第2艦隊の噂は駐屯地でも耳にしたことがある。

 貴族が主力となっている部隊なだけあって普段は表立った艦隊行動を取らない彼らだが、帝国の最終兵器たる帝国近衛軍にも勝る練度を誇っているともっぱらの噂だ。


『君の雇い主もとんだ隠し玉を持っているものだ。

 情報源がラビット商会のハイデマリーと伝わった途端、間髪入れず全力出撃の命が下ったらしい。

 どんな伝手があるのかは知らんが、流石の私も驚きを隠せなかったよ』


「貴族連にはウチのお得意さんもおるからな。当然のことや」


 手でvマークを作るハイデマリー。

 それを見た面々は妙に納得した感じを醸し出しているが、どうやらラビットの面々も見知った客が貴族連に在籍しているのだろう。

 どんな伝手があるのかと思っていたがまさか貴族連の中に、それも艦隊を動かせるほどの権力を持った貴族に伝手があるとは思わなかった。


『とはいえ、第2艦隊がオークリーに到着するまで4日は掛かる。

 それまでにΑΩの最終ロットが見つからなければ良し。

 発見を遅らせるために採掘業務を妨害するも良し。

 とにかく艦隊の到着まで持たせれば我々の勝ちが確定する。

 その間の委細は君たちの手腕に委ねる』


「援軍が来るのは分かった。

 何をしてもお咎め無しな免罪符も貰った。

 だから4日は援軍が来ず、死ぬ間際まで時間稼ぎをしろって言われて納得できると思うか?」


 俺個人なら受けてもいい、命掛けの戦いなんて何時ものことだ。

 リターナ中尉が所属している共和国特務隊とかいう大それたネームバリューがどの程度やるのか、連中相手に俺がどの程度やれるのか気にもなっている。


 と言うか、ぶっちゃけ気に食わねえ。

 アレだけ挑発されたのに引き下がれるほど腐っちゃいない。

 相手を見て喧嘩を売るなんてダサいことは、ここまで戦ってきた俺のプライドが許さない。

 それでも、俺以外の命が掛かっているのなら頷くことはできない。

 仲間を俺の独りよがりに巻き込む訳にはいかないから。


「――――――ええわ、やったる」


「ちょっ、マリー本気!?」


「どの道逃げられへん、悪いけど皆にも覚悟決めてもらうで」


『ほう……商魂だけでなく、肝まで据わっていますか。

 ハイデマリーさん、私は少し貴方に興味を持ち始めましたよ』


「ただし! 帝国軍が傭兵ギルドや商業連合の組合員に命令できる帝国法や条例は無いんや。

 あくまでもウチらは雇われたってことにして貰う。

 加えて命張れいうんやから、天文学的に高いクレジット払ってもらうことになるで」


 モニター向こうの少佐を指さして啖呵を切るハイデマリー。

 エリーを始め全員驚いているが、正直なところ俺は良く言ったと褒めてやりたい。

 握った拳には自然と力が入る。


『百も承知している。

 それに、そこのオキタ准尉はこの程度の修羅場は何度も潜っている。

 存分に頼ると良い』


「共和国軍のB.M.I強化兵相手にどれだけやれるか、やってみないと分からないぞ」


『どうかな?

 戦場で強化されていると思しき共和国軍を見た私から言わせると、連中の練度はこの間の君と大差ない。

 つまり、大きく見積もってもせいぜいがVSFに乗っている君程度ということだ。

 辺境の英雄の二つ名、存分に発揮してくれたま――――――……』


『秘匿通信の限界時間です。

 これ以上の通信は傍受される危険があるので遮断致しました』


 ブリッジの通信が途切れるように切れたが、秘匿通信の限界時間らしい。

 この手の話題に入ってきそうなシズが何をやっているのかと思いきや、基地にいる他の連中やヘックス中佐たちにバレないように暗号化処理をやってくれていたようだ。


「今のオッキーMAXパワーが相手……うん、十分勝機はあるね。

 セイバーリングだって性能負けすることはないし、ボクは大丈夫かな」


「その言い方スゲー腹が立つ。

 けど今の俺じゃそう言われても無理ないし、実際お前とセイバーリングなら大丈夫だろうな。

 特務隊が何人いるか知らないが、連中が出てきたら半分引き付けてくれ」


「りょ!」


 くそ、アウトランダーの武装が貧弱なのが悪い。

 敵の搭載しているシールドにもよるが、艦首単ビーム砲1発で貫通させることは無理だろう。

 通用するとしたら連続してビームを当てた上でシールドを飽和させる方法だが、こっちは直線機動でしか運用できないVSFだから現実的ではない。

 他の武装……例えばミサイルは有効だろうが搭載数が少ない。

 この辺りはアンドーに相談してみるか。

 外付けでもいいから無理やり搭載できないか聞いてみよう。

 後は快速を活かしたビームブレードの轢逃げだが……さて、どこまで通用するのやら。


「ほな、戦艦はウチが相手しよか」


『正気の沙汰とは思えません。

 ご再考をお願いします、ミス・ハイデマリー』


「正面からやり合って勝てんのは百も承知や。

 でもウチの頭にはあるで、一か八かの綱渡り。奇天烈な作戦がな」



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