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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
16/91

15_リターナ・ベル_挿絵有

241019 段落修正

 

 如何にも場末惑星の採掘基地と言うべきか、基地には大した娯楽施設もなく、あったのは安さとエネルギー効率のみを考えてそうな食事を出す食堂だけだった。

 上空からだと結構な広さを持っているように見えていた採掘基地も、中に入ってみれば殆どが機械と採掘された鉱物の置き場だらけ。

 基地の殆どは倉庫が占めていることが分かった。

 とまあ、ここまで何もなければ人間の欲望なんて3つに集約されるわけで。

 生足魅惑の珍エルフを見かけた連中からの熱いプッシュを華麗に回避しつつ、威力偵察も兼ねて企業の警備部門や雇われ傭兵が集まっている場所に押し掛けてみた。

 案の定そこでも一悶着あったわけだが、少し時間が経てば内股で腰を曲げ、悶絶している尊い犠牲の前に尻込みするのが数人。

 おっかねぇと呟く連中と漸くコミュニケーションが取れた頃には、俺たちはすっかりその場の連中と意気投合できていた。


 その勢いのまま浮ついた基地の雰囲気について聞いてみたが、確定した情報は誰も持っていないようだった。

 金の鉱脈を見つけたとか、稀少鉱物の層に当たったとか、惑星の原生生物を地中で見つけた、なんて与太話しか出てこない。


 しかし、ここ数か月で何かがあったのは確かだと、その場にいた連中は言っていた。


『商人付きのお前さんらにゃ関係ないだろうが、稼ぎ時と引き際の潮目を見誤るなよ』


 年配の傭兵からありがたい言葉を貰い、俺とエリーはラビットに戻ってきた。




「―――で、何でお前は俺の部屋にいるわけ?」


「暇!」


 ラビットに帰ってから仮眠を取っていたが、ガサガサと聞こえた音に目を開く。

 するとどうしたことか、見知った顔がドアップに広がった。

 部屋の鍵は閉めていたはずだとか、何で俺の部屋に我が物顔でいるのかと寝ぼけた頭で考えるが……


「とりあえず、ベッドから降りろ」


 よく驚いて叫ばなかったな、俺。

 素直にベッドから降りたエリーは椅子に座ってこちらを見てくる。

 まるで自分の部屋のようにしているが、ここ俺の部屋で間違いないよな?


「リターナ中尉と何話してたの?」


「開口一番それか……聞こえてなかったのか?」


 それを聞くためだけに寝起きドッキリを仕掛けた……んだろうなぁ、そういう奴だし。


「うん。全然聞こえなかったからちょっと気になっててさ。

 ラビットに帰ってくるまでオッキーの様子がちょっと変だったから、何かあったのかなって」


「俺ってそんなに分かりやすいか?」


「割と」


 マジか。エリーに気取られるのは少しショックなんだが。


「ちょっと呼び出されてるんだよ。

 デートの誘いにしちゃあ、物騒だと思わないか」


 ポケットに入れたままだった紙切れを取り出してエリーに渡す。

 さあ鬼が出るか蛇が出るか、出たとこ勝負と行きますか。




 ☆




 オークリー採掘基地港湾部第8ブロック。

 物置になっている宇宙港の1ブロックが呼び出された場所だ。

 空調こそ整備されているが、普段から誰も使っていないのか照明も最低限しか点いていない。

 重力制御や荷物管理も満足に行われていないせいか浮遊物も多い。

 内緒話をするには丁度いい塩梅だろう。


「こんばんわ、オキタ准尉」


「どうも、リターナ中尉」


 ブロックの奥を進むと特徴的な青髪の女性が立っていた。

 引き込まれそうな目は暗闇に紛れて見えないが、暗がりの中に浮かぶシルエットはリターナ中尉のそれだろう。


「姿が見えないんじゃ内緒話もできないし、もう少し近づかないか?」


「少しなら構わない。……そこで止まって」


「おいおい、物騒だなっ!」


 スッと流れるような動作でレーザー銃をこちらへ向ける中尉に、俺も念のために持ってきていた銃を構えた。

 構えただけで俺から撃つつもりは毛頭ない。

 生身の戦闘が得意じゃない俺が当てられるとも思えないから、こんな白兵戦紛いな真似は勘弁して欲しい。


「早速で悪いが、呼び出した理由を聞かせてもらおうか」


「ヘックスは貴方の主人と商談中。

 意識がこちらに向いていない今なら話せる」


「ん? ああ、俺の主人と中尉の上司は今頃商談の真っ最中だろうよ。

 だから俺も気軽に来れた」


 確認を取るように尋ねてくるが、一体どういうことだ?

 監視でもされているような言い方に疑問が尽きない。


「私は元帝国貴族、現傭兵のリターナ・ベル。

 でもそれも仮の身分。

 だから改めて自己紹介をする。

 私は共和国軍特務隊所属のリターナ・ベル中尉。

 資源惑星オークリーには採掘された鉱物の調査、もしくは奪取が目的で来た」


「共和国軍!?」


 おいおい冗談キツイぞ。

 オークリーはド田舎扱いされているとはいえ、立派な帝国の支配領にある惑星だ。

 国境線を越えなければ、こんな帝国の奥深くにまで来られるはずがない。

 お互いの艦隊が睨みあっているはずなのに、どうやって侵入できたんだよ。


「少数精鋭でやって来たってか?

 よく帝国軍の探知範囲外にワープ出来たもんだ。

 国境線から跳べる範囲内は帝国軍が展開していたはずだ」


「探知されない場所まで一気に跳べばいい。

 共和国は国境線から帝国軍の探知範囲外まで長距離ワープが可能なENGを開発した。

 だから私達はここにいる」


「マジか……それにしても、よくもまあ元軍人相手に機密を喋ってくれるじゃないか。

 それで? 遠路遥々やってきた中尉たちは何の鉱石が目的なんだ?

 レーザー兵器とか戦艦装甲材のレアメタルか?」


 冷汗が出る。

 どこを切り取っても一介の傭兵が聞いていい情報じゃないだろ。

 全部話し終わった後にバン! ってやられるのは嫌だぞ。

 そう思うと銃を握るグリップにも自然と力が入る。


「ΑΩ」


「……はぁ?」


 考えてもみなかった単語が出てきたせいか、思わず力が抜けた声を返してしまった。

 よりにもよってΑΩだって?

 超巨大戦艦とか、超巨大ビーム砲の建造用レアメタルって言ってくれた方がまだ信憑性がある。


「ΑΩはスターゲートの核に使われているって噂の鉱石だろ?

 今更こんな惑星から出るわけない……と言うか、ΑΩ自体存在しているのか怪しい鉱物だろ。

 間違いじゃないのか?」


「ΑΩ。別名AtoZ。始まりと終わりを冠した鉱物。

 古代にエルフの支配星系でしか取れなかったスターゲートの核。

 オークリーで採掘された情報を得たからこそ、私達はここに来た。」


「いや、だから嘘……じゃないんだな? 本当に?」


「確定情報。

 共和国と帝国の戦力差が縮まり始めている今、スターゲートが建造できるΑΩは必ず火種になる。

 私達はその尖兵」


「クソッタレ、マジで聞くんじゃなかった」


 頭が痛くなる。軽く俺の許容範囲を超えてくるんじゃないよ。

 こういうのは情報将校とかが聞いて対処する話だろう。

 TSF乗れてハッピー☆としか考えてない俺に話したところで何の意味があるんだ馬鹿野郎。


「共和国の情報将校が噂の出処を精査していた時、興味深い話を見つけた」


「あ? もうお腹いっぱいだから何も話さないでくれ」


 銃を降ろしたリターナ中尉を見て、俺も構えを解く。

 俺に何かさせたかったのかもしれないが、聞いた所でどうしようもないし正直付いて行けない。

 話が終わったらラビットに帰って直ぐにここを発とう。

 それが皆の身を護るには一番安全だと分かった。


「宇宙に穴が空いた話。当事者の貴方が一番よく知っているはず」


挿絵(By みてみん)



「……続けろよ」


 思いもよらない角度から出た話だな。

 俺が帝国軍を辞めることになった切っ掛けの話となれば、無視することはできない。

 何より当事者の俺ですら知らないことが多い一件だ。

 一連の事件について情報を持っているのであれば、それだけでも聞く価値はある。


 宇宙に穴が空いたあの現象は何だったのか。

 何が原因で起きたのか。

 俺は何も教えて貰えなかったのだから。


「共和国は帝国との全面対決に向けて戦力調査も行っている。

 その一環でイレギュラーと成り得る存在はリサーチ済み。

 だから辺境とはいえエースだった貴方のことは共和国上層部の耳にも届いている。

 ヴォイドの前線で戦っていた3年間の戦績も、宇宙に大穴を空けたことも」


「それで?」


「ΑΩがオークリーで初めて採掘され、秘密裏に皇室へ運搬されたのが5ヶ月前。

 帝国皇帝が帝国技術廠に勅命を下し、老練翁伯爵の専用機がロールアウトされたのが2ヶ月前。

 そして、貴方が老練翁伯爵の専用機で大規模破壊現象を引き起こしたのも2ヶ月前。

 照らし合わせてみれば、ΑΩが搭載された機体が理由なのではないかと見当がつく」


「よくそこまで調べられるな。貴族連の情報は全部機密扱いだろうに」


「帝国内にも共和国のシンパは大勢いる。貴方が居た駐屯地にも。

 それでも確信の持てる情報は得られなかったから、その点は誇るべき」


「無理に褒めなくていい」


 背中を預けた仲間にはスパイはいないのか。それは嬉しいことだ。


「話を続ける……ΑΩはそれ単体ではただの貴重な鉱物でしかない。

 でも、事実として大規模破壊現象は起きた。何故か?

 今や歴史上の産物となったΑΩが引き起こした超常現象に対し、共和国は幾つかの仮説を立ち上げた。

 その中の一つが、同じ超常現象であるP.Pとの親和性によるもの」


「超常現象のP.Pと歴史上の遺物ΑΩの親和性か。まるでファンタジーだな」


「P.PとΑΩの親和性は遥か昔から提唱されていた話。

 重要なのは仮説が立証された可能性があること。

 誤解を恐れずに言うのであれば、貴方のせいで共和国は動き始めた」


 随分勝手な仮説を唱えてくれているが、何一つ真実とは思えない。


「その仮説は誤りだ。

 ΑΩについては俺も知らないが、少なくとも伯爵の機体にP.P兵装は搭載されていなかった。

 伯爵と上司に確認した話だ、あの二人はP.P兵装による暴走を否定していた。

 加えて言うなら、俺にP.Pを発現させることはできない。

 だからこの状況は、お前たちの仮説から出た異常な侵略行為に他ならない!」


 俺は銃をリターナ中尉に向けた。リターナ中尉も当然構えなおしてくる。


「貴方の言い分なんてどうでもいい、事は既に起きてしまった。

 共和国はΑΩを使ったTSF戦力を増強する計画を立て、その為にΑΩの奪取作成を立案した。

 そして、次に採掘されるであろうΑΩがこの惑星で取れる最終ロットとの見通しも、採掘基地の司令官から直接聞いている。

 私達は最後のΑΩを奪う際に基地を破壊し、関係者は全て抹殺する。

 関係のない貴方たちは早くここから去るべき。無駄な犠牲は出したくない」


「言ってくれるじゃないか。まるで俺たちじゃ相手にならない言い方だな」


「貴方が強いことは承知している。現に私達は一度失敗している。

 だから、今度は私達が直接相手になる。

 そうなれば勝ち目はない」


「一度? ……道中で襲ってきた宙賊は、お前たちが裏で操っていたのか!?」


「金で雇える連中は命が軽くていい。

 それに、採掘基地所長が帝国政府に黙って企業向けの研究試料として送った幾つかは強奪し、既に共和国に送られている。

 止めるにはもう手遅れ」


「最悪だなこん畜生……けど今度は俺とエリー、この基地全部が相手だぞ?

 共和国の特殊部隊とはいえ、たかだか数人の戦力に勝てないと思っているのなら舐めすぎだぞ」


「貴方たちは勝てない。

 私達は時代遅れの帝国式とは違い、共和国式の最新B.M.I強化手術を受けているから、ただの人間と比べて格段に反射神経や思考能力が優れている。

 だから断言できる。

 B.M.I強化手術を受けず、TSFにも乗っていない貴方程度じゃ相手にもならない」


 リターナ中尉がそう言うと、彼女の肌に白いラインが浮かび上がるように発光し、目が赤く染まった。

 B.M.I強化手術を受けた者特有の現象だ。

 まるで魔法陣か何かの模様のようにも見えるそれを、俺も駐屯地に居た頃に何度か見たことがある。

 ただ、駐屯地に居た頃に見たそれとは模様の数がまるで違う。


「……ここまで教えておいて、結局俺をどうするつもりなんだ?

 ここで殺しでもするか? そのレーザーなら苦しまずに済みそうだ」


「殺しはしない。

 ……3年前、まだ帝国にいた私はコロニーを襲ったヴォイドに殺されかけた。

 貴方はそれを助けてくれた。

 命の恩に報いるには、命の恩しかない。だから教えた。

 貴方は軍を辞めて、傭兵という自由を経た。私が得られなかった自由を。

 だから、貴方はこんなところで死ぬべきじゃないと判断した。

 これが最後のチャンス。何を選ぶかは貴方たちに任せる」


 そう言ってリターナ中尉は港湾ブロックから姿を消した。

 それを見送って、俺は一つ溜息を吐いた。

 想像以上に話のスケールが大きく、自分ひとりじゃ何から手を打てばいいのか分からない。


 それでも、今の俺には頼りになる仲間がいる。

 ポケットに入れていた端末のスイッチは入ったまま、それに向かって話しかける。


「――――――だそうだ。全員聞いてくれてたよな?」


『モチのロンや、ちゃんと聞いとるで。

 あー……ほんま、どないしよ?』


「もう商人や傭兵の出る幕じゃない……とは思う。

 帝国軍に通報して連絡を待つってのはどうだ?」


『それしかないか……ウチの方から伝手当たってみるわ。

 とりあえずオキたんも戻ってき』


「了解、帰還する」


 ヴォイド相手に戦って、宙賊相手に戦って、今度は共和国軍の精鋭が相手になるかもしれないって?

 軍に居た頃よりもハードな人生を送ってるじゃないか。

 傭兵生活も儘ならないな。


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