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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
稀少鉱物争奪戦
15/91

14_鉱物採掘基地_挿絵有

241019 段落修正

 

 資源採掘惑星オークリー。


 オークリーは帝国黎明期から存在が確認されていた惑星だが、人が住むには低過ぎる重力、大気の薄さと水資源の少なさに加え、同じ星系内の惑星で多数の入植が始まっていたことから開発の価値無しと判断された田舎惑星だ。

 そう軽んじられてきた惑星だが、ある程度帝国の支配が盤石となった際に調査された結果、オークリー表面の地下は密度が低いことが分かった。

 調査を進めるうちに地下空間が網目状に広がるスカスカな惑星であることが判明し、帝国にとっては最早無用な長物へと成り下がってしまった。

 それがオークリーの評価だった。

 そのため宇宙から見捨てられていたオークリーだったが、とある採掘企業が惑星採掘権の安さに目を付けて再調査を実施したところ、多数の鉱物資源がスカスカだと思われていた地下空間に眠っていることが突き止められた。

 その資源を採掘するために運営されるこの一大拠点は、鉱石を多分に含んだ惑星の表面に作られている。

 基地周辺には巨大な採掘機が数多く設置され、地表を掘り返しては潤沢な鉱物資源が取りつくされるまでこの採掘基地は運営されるのだろう。


 そんな採掘基地の宇宙港にラビットが着艦した後、ハイデマリーとデカシズ、アレンは取引のために責任者に会いに行った。


 3人を見送った後、基地に着いたことで待機任務も終わっていたこともあり、俺はシャワーでも浴びて軽く寝るつもりだった。

 だったんだが、丁度シャワールームから出たところをエリーに見つかってしまった。

 何でも、基地の中を探索したいから一緒に来いとのことだ。

 もうシャワーも浴びたことだし、待機でまともに眠れていないからと一度は断ったものの、来ないのなら一人でも行くと言われ……トラブルメーカーを一人で行かせることもできず、仕方なく一緒に基地探索をする羽目になったんだが―――


「妙に活気に溢れてないか? ハイデマリーは劣悪な環境だって言ってたよな」


「油汚れとかで壁は汚いし、すれ違う人も何かよく分からない臭いでクッサいけど皆イキイキしてるね。

 何かあったのかな?」


「大きい鉱脈掘り当てたとかで、ボーナスでも出たんじゃないか?

 惑星を丸ごと引っ繰り返そうって基地なんだ、鉱物だって山のように採れるだろ」


「それだけでこんなに活気が出るぅ?

 クレジット貰った所で、こんな所じゃ使い道ないじゃん」


「戻れば大金持ちになってるかもしれないなら、俺は頑張れるけどな」


 調整されているはずの基地内の空気は埃っぽく、機械の油や何かの臭いが鼻につく。

 それでも重力の利いた通路をすれ違う人たちの表情は妙に明るい。

 事前に聞いていた話と違い、基地の中はソワソワというか、浮足立っているような雰囲気だ。

 すれ違う人は服がヨレヨレだったり洗濯を忘れたのかと思うほど汚い服を着た人もいたが、疲れた表情の中にも笑顔が浮かんでいる。

 むしろ今の俺の方が疲れた顔をしている気がする。

 張りつめていた気が緩んだせいかとても眠い。

 帰って寝たい。


 そうやってあーでもないこーでもないと、特に見るものもない基地内で取り留めのない話をしながら基地内の売店を目指すことにした。

 何か珍しい物でも売っていたらお土産にするつもりだとエリーは言うが、そんなものが採掘基地にあるのだろうか。


「あ、あそこだよ! って、誰かいるね?」


 エリーが指さす方向に居た背の高い男性と、女の人が立っていた。

 少し距離があったがエリーの声が聞こえたのか、女の人はこちらを振り向いてきた。

 耳が良いんだなと思いながら歩いて行き、漸く視線が合う距離まで近づいた時に、背筋に何かが走ったようなゾワッとした感覚を覚えた。


「なんだ……?」


「どうかしたの?」


「いや……よく分からん。湯冷めでもしたんだろ」


 俺やエリーと同い年くらいだろうか。

 青髪の女はまだ俺を視線に捉えて離さないが、背筋の嫌な感覚も治まったので放っておくことにした。


「どうかしましたか中尉……おや、見かけない顔ですね。

 もしやあなた方ですか?

 あのウサギのような船でやってきた商人というのは」


 眼鏡を掛けた背が高い、如何にも神経質そうな男が話しかけてきた。

 鋭い眼つきと相まって冷たい印象を受ける。

 小奇麗な恰好からは採掘基地の人間と思えないが、事務方の人なのだろうか。


「そうだ。アンタらは?」


「……フン。傭兵ですからね、まあ多少の無礼は許しましょう。

 私は傭兵、戦艦プロテクトゥール艦長のヘックス中佐です。

 こちらには採掘基地護衛任務で雇われていますが、覚えてもらわなくて結構」


挿絵(By みてみん)



「彼女は部下のリターナ中尉です。

 中尉、挨拶をしなさい」


「リターナ・ベル。中尉」


挿絵(By みてみん)



 "アンタ"と言われたのが気に食わなかったのか、眉を顰めるヘックス中佐。

 後ろのリターナ中尉とやらは無表情で何を考えているのかさっぱり分からないが、ヘックス中佐に歓迎されていないことは分かる。が、それは置いておいて。


「ラビット商会所属の傭兵、オキタだ。階級は准尉」


「同じくエリー。階級は中尉だよ」


 俺はピシっと、エリーはだらりとした敬礼をヘックス中佐に返した。

 傭兵に礼儀もへったくれも無いとは思うが、階級には最低限の礼儀は示す必要があるだろう。


「よろしい。

 ではエリー中尉、私は少々欲しいものがありましてね。

 ここには粗悪品しか売っていないので困っていた所です。

 直接話がしたいのですが、貴女の主は今どちらに居ますか?」


「今は運んできた荷物の取り引きに行ってるから、それが終わったら船に帰るんじゃないかな?

 基地もたいして見るところが無いし」


「ではそちらの用事が終わってからで構いません。

 プロテクトゥールまで連絡を入れて頂くよう頼まれてくれますか?

 通信コードはこちらです」


「分かった、伝えておくね」


「頼みます。リターナ中尉、行きますよ」


 すれ違うように去っていく二人。

 妙な視線を向けてくるリターナ中尉に困惑しながらも脇によけて通路を開けるが、リターナ中尉が急にグラっとふらついたように俺の方へよろけて来た。


「っとと、大丈夫か?」


 至近距離で視線が絡み合い、吸い込まれそうな瞳に意識を持っていかれそうになる。


「……大丈夫、ありがとう」『―――後で』


 リターナ中尉のボソッと囁くような、密着した俺にしか聞こえないような声が耳に届いた。

 柄にもなくドキドキしてしまったが、支えた際に小さく折り畳まれた紙の様なモノを握らされたことで急速に萎えてしまった。

 何だろうか、厄介ごとに巻き込まれそうな予感がしてならない。

 女っ気のない生活を送っている俺の気持ちを返して欲しい。


 とりあえずこの場では聞かない方が良いだろうと察し、そのまま去っていく後ろ姿を見送る。

 ポケットの中に入れた用紙が単純な逢引きとかだったら嬉しいんだが、あの態度からしてそんなことは無いだろうと思うと虚しくなってくる。


「……なんだよ」


「べっつにぃ~?

 抱きつかれたくらいで嬉しがっちゃって。これだから童貞は」


「経験あるぞ」


「え? ……ええ!? ウソ! え!? なんっ、だれと!?!?」


「さぁてね。俺みたいにエースでパイロットな男は結構モテるんだよ」


 嘘に決まってんだろ、プロ軍人(ドーテー)舐めんな。

 小規模とはいえ、週の半分はヴォイドの迎撃か間引き作戦に出る。

 そんな生活を3年間続けたんだぞ?

 恋人なんか作る暇は無いし、出撃回数がおかしい俺に美味しいイベントなんて起こるはずがないだろう。

 普通にドン引きされるか労わられるかで誰も寄ってこなかったわ。

 というか、結構頻繁に駐屯地に来ていたのだから、エリーも少し考えれば分かるだろうに。


 ただの強がりから咄嗟に出たデマカセだが、エリーの反応が面白いのでこのまま放置しておこう。


「ここの基地で買うモノ、全部オッキーの驕りだからね!」


「はぁ? 何で「キ ミ の お ご り だ よ」


「お、おう……」


 襟首掴まれて睨みつけられた。怖くて了承してしまった。


「よろしい。あと、船に戻ったら全部吐いてもらうから」


 それだけ言い放ち、エリーは基地の売店に入っていった。

 揶揄い過ぎたと思いつつ、周囲に誰もいないことを確認してポケットの中から折りたたんであった紙を取り出す。


『本日23時に港湾部第8ブロック。命に関わる』


 広げた紙には基地内部の構造と集合場所が示された地図が映し出された。


「これはマジモンの厄ネタだろクソッタレめ……」


 紙を再度ポケットに戻す。さて、どうするべきか。

 この基地で何が起こるのかは知らないが、俺たちは気付かない内に"命に係わる何とやら" に巻き込まれているらしい。

 ハイデマリーに報告して急いで逃げるのが吉だろうが、こっちも仕事で来ているのがネックだ。

 判断材料が何もない今の段階だと決められないし、カーゴへの鉱物搬入作業の方が"命に係わる何とやら" が起こるより早く終わり、運よく逃げ切れる可能性もある。


 何なら、この基地を離れること自体が危ない可能性だってあるわけだ。


 ダメだ。可能性ならいくらでも想像できるが、確信のない行動に繋がるのは良くない。

 まずはリターナ中尉から話を聞くしかなさそうだ。そう判断して、俺はエリーの後を追った。


「このシルバーアクセって幾ら?」


「30万クレジットだよ、お嬢ちゃん」


 何よりも先にあのエルフを止めねば、俺の財布が干上がる。


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