11_商会の仕事
241019 段落修正
誤字報告ありがとうございます。全適しようとして間違えて全削除してしまいました。良い機能がついていても使う人間がポンコツだと意味がない、という言葉を体現してしまいました。
報告上げてくれた方、大変申し訳ないです。
「鉱物採掘基地に民生品の販売に向かう?」
「せやで。あくまで大口顧客のおる帝都、バレンシア星系に行くまでの繋ぎやけどな」
ハイデマリーの招集連絡が館内放送で流れ、俺たちは一度ブリッジに集まった。
通信担当アレン、索敵担当エレンの双子エルフ。
メカニックのアンドー。
TSFパイロットのエリー。
アンドロイド義体で操艦を担当するデカシズと、ハイデマリーの補佐をするミニシズがラビットの面々だ。
「商業連合のニューラルネット掲示板に依頼があってな。
今おる星系で捌ける仕事の中ではこれが割高やったし、帝都に繋がるスターゲートの使用予約までもう少し先や。
シズ、説明頼んだ」
『はい、ミス・ハイデマリー』
促されたシズが端末を弄ると、ブリッジのメインモニターにはこの星系で受託可能な商業連合の依頼リストと、スターゲートの使用予約日時が表示された。
ニューラルネットワークは宇宙版インターネットみたいなもので、商業連合や傭兵ギルドなどの組織では組合事務所に行かなくても依頼を受けられるようになっている。
「大口の仕事じゃないのが残念やけどな。
ちょいと入り用でクレジット使うこともあったし、ここらで少し小銭稼ぎでもしようかと思っとる」
そういって俺に視線を向けてきたハイデマリー。
月80万クレジットの給料払いが負担になっているのだろうか。
だとしても、1クレジットも下げてやれない貧乏な俺を許してくれ。
VSF維持費もバカにならないんだよ。
「別にそれは構わないんだけどさ、ボクたち何を届けるの?
掘削用ドリルとか?
カーゴスペースになかったけど今から買い付けるの?」
「いや、そんなん持ってった所でアッチが本職やし売れへんやろ。
生鮮食品と酒、あとは娯楽用品やな。
ふた月前に飛び込み営業した商人の書き込みを見た限りやと結構劣悪な環境らしくて、日用品が好まれとるって話や。
どっかで使えるようにって冷凍しとる食品類とか、高級嗜好品を出来る限り詰め込んどるカーゴが幾つかあるやろ? あれを吐き出そう思うとる」
「行きは分かった。じゃあ帰りはどうする?
直接帝都に向かうにしても、カーゴスペースに空きができるのは勿体なくないか?」
『はい、ミスター・オキタ。
貴方の心配はごもっともですが、今回は既に先約が決まっています。
事前に採掘基地へ連絡を入れたところ、先方からは帝都にある企業本社まで鉱物資源の運搬依頼をご提案頂きました。
食料品や嗜好品を販売して空となったカーゴには鉱物を詰め込み、極力無駄を省く予定です』
「待ってくれ。妙な話だろう、それは。
採掘基地の規模がどれほどのものかは知らんが、運搬が儘ならない程の量が取れるとも思えん。
ハイデマリー、お前さんまた危ない橋を渡るつもりか?」
確かにアンドーの言う通り妙な話だ。
採掘基地を運営する企業だったら鉱物運搬船や連絡船くらい持っているだろうし、わざわざ個人経営の商会に物品の輸送を頼むだろうか。
ネコババする連中だって出てくるかもしれないのに。
それと、また危ない橋を渡るのか? だって?
そう言えば、アンドーは前にもそんなことを言っていた。
ハイデマリーの商売は結構危ないこともするし、それが原因で俺の前任だった傭兵が星屑になったと。
「危ない橋を渡るつもりなんてあらへんよ?
行き先の採掘基地が帝国軍の哨戒ルートから大きく外れとるんと、基地を所有しとる企業の船が何隻か沈められとるくらいや」
「おいおい……企業だって馬鹿じゃないだろう。
金にモノを言わせた警備部門が護衛に付いていたはずだ。
それが何度も沈められるってことは、大規模な宙賊がいる可能性があるぞ」
「たぶんな。ウチもそう睨んどる」
「うげぇ~……マリーが拾ってくる仕事って、なんで毎度こうなのかなぁ」
「ハイデマリー氏……貴女はどうしてこう、クレジットが絡むと残念な人に成り下がるのですか」
マジかよと、俺を含めた全員が天を見上げた。
危ないと聞いていたが、危険と知りながら行くのは半分くらいは自殺行為だ。
とはいえ、個人の商会が利益を上げるには危険に身を晒すしかないのも確かだろう。
でもなぁ……これが毎度の話なら、アンドーがエリーだけだと船が心配になると言った気持ちが分かる。
というか、俺が増えたところで囲まれたら一巻の終わりな気もするが。
「え~? むしろ稼ぎ時やと思うとるけどなぁ。
他じゃ知らんけどこの星系での仕事やし、案外ウチの新人君見たら逃げていくんじゃない?」
「……俺か? いやいや、宙賊が逃げ出すわけないだろ。
おい、何でお前らそんな曖昧な顔してるんだ?」
何で事あるごとに俺に変な顔向けるんだよお前ら。
なんだよ"分かってる分かってる"って。俺が分かってねえよ。
「と言うわけで、ウチはそれほど心配しとりませーん。
Hey,シズ。採掘基地までの移動方法を教えて」
『かしこまりました、ミス・ハイデマリー。
では常識に疎いミスター・オキタが加入されたこともあるので、宇宙を移動する方法についてご紹介をしましょう。
①銀河系と銀河系を繋ぐスターゲートを使って銀河を渡る方法。
スターゲートとは、帝国の支配する銀河系でそれぞれ定められている首都惑星付近に作られた交通の要です。
稀少なΑΩ鉱石が使われた建造物であり、遠く離れた銀河系であっても極僅かな時間差で移動することを可能にさせている、いわゆる巨大ワープ装置ですね。
使用するには結構な額のクレジットが必要になるので、一般人が人生の内で使うことは殆どありません。
②恒星間を超光速で移動できるハイパーレーンを使用する方法。
恒星間を繋げる、例えるなら宇宙のエスカレーターです。
宇宙を流れるレーンの上に艦を乗せるだけで、艦の性能に依らず自動で次の惑星まで連れて行ってくれます。
もちろん途中で乗り降りすることも可能なので、利便性では宇宙随一でしょう。
また銀河系の端っこ同士が繋がっているため、理論上はハイパーレーンだけで宇宙を行き来することも可能です。
使用料は高いですが、商人や傭兵であれば問題なく払える範疇でしょう。
③単艦によるワープ航法。
艦に搭載されているENGの性能に左右される移動方法ですね。
スターゲートを用いず単独ワープが可能という利便性の良さはありますが、長距離を跳べるENGは現在に至るまで存在しないため、ワープを繰り返すことで移動距離を稼ぐ手法となっています。
ラビットや強襲コンテナにもこの機能が搭載されていますが、空間座標の予約→固定→ワープの手順が必要になるので、座標の予約と固定が不十分だと意図しない場所へ行ってしまうのが玉に瑕です。
ミスター・オキタ、ご理解できましたか?』
「ご理解できましたかってお前、俺だってそれくらい知ってるからな?
……おいエリー、言いたいことがあれば言えよ?」
「べっつにぃ~? オッキーの頭でも理解できるんだなぁなんて、これっぽっちも思ってなイダダダダダ」
ニヤニヤ顔を浮かべながら隣に立っているエルフがとても失礼だったので、アイアンクローを掛けておく。
この際だからはっきり言っておくが、俺もそこまで馬鹿じゃない。
『ワープ可能なENGを搭載していない場合は、亜光速ブースターを使ってのんびりと移動する方法もありますね。
これが一番庶民的な方法です。
ちなみにミスター・オキタの搭乗機アウトランダーにもオプションで取り付けられていますが、ご存じでしたか?』
「当たり前だろ! なんならこの前の戦闘で戦艦相手に使ったわ!」
『普通は戦闘に使いません。常識という言葉を勉強して下さい』
「いちいち腹立つなお前!?」
「イタイヨー!?」
「あ、わり。力入った」
アイアンクローを外すと涙目で睨んでくるエリー。
恨むなら俺の手にフィットする小顔な自分を恨んでくれたまえ。
「はいはい、話続けるで。
ほんでシズ、今回は②と③の組み合わせでええね?」
『はい、ミス・ハイデマリー。
星系内の移動の上、ラビットのワープだけではスターゲートの予約日時に帰ってこれません。
採掘基地のある宙域に最も近い惑星まではハイパーレーンで向い、その後はワープの繰り返しで問題ありません。
しかし最も近い惑星で降りると言っても、そこから採掘基地まではかなりの距離があります。
艦のENGを酷使することになりますね』
「最近はラビットも重整備しとらんからなぁ……アンドー、どう思う?」
「直ぐにどうにかなるような状態じゃないのは確かだが、何処かで一回見といた方がいい」
「ほな今回の一件が終わったら考えよっか。
エレン、採掘基地の座標確認は?」
「ハイデマリー氏の話が始まってすぐに確認しましたが、ニューラルネットワーク上の星系図と基地座標との整合性が確認できました。問題ありませんよ」
「よっしゃ、ほな行けそうやな。他に質問ある人は?」
俺を含めた全員質問が無いようだ。
軍に居た頃はこの手の会議にあまり参加したことがなかったから何を聞けば良いのか分からないってのもあるが、皆ちゃんとしているんだなと感心した。
前までは『小難しいこと考えずに突っ込めば何とかしてやる』 としか言われなかったから……なんかこう、新鮮味を感じて楽しい。
「まずは近くのハイパーレーンから採掘基地方面に向かうで。
ハイパーレーンを降りたら帝国法は守ってくれん無法地帯領域や。
宙賊に捕捉される確率がグンと上がるさかい、エリーとオキたんはコンテナで待機な。
あとは状況次第や。シズ、ラビットの操艦任せた」
「了解」「りょーかい!」『承りました』
ブリーフィングも終わり、この場は解散となった。
俺にとってはこれがハイデマリー護衛の初仕事だ、気合入れて行こう。




