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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
セクレト護衛契約
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106_観測対象


 警備部門への教導とクレアの護衛。ΑΩの資料片手に、時折やって来るアリアドネやJrとの会議。忙しくも楽しい日々が過ぎ、ラビット商会の帰還まで残り1日となった最終日。


 セクレト・アスティエロの秘密ドッグには修復を終えた俺の愛機、X-TSFデスペラードの姿があった。


 機体表面は綺麗な物だ。ミサイルの直撃を貰って出来た傷や焦げも消え、この間の戦闘など無かったかのような顔をしている。磨き上げられた黒の装甲を見ていると、今すぐにでも乗り込んで感触を確かめたくなってくる。


「動かすのは支払いを終えてからにして下さい」


「分かってるよ」


 そんな俺の空気を感じ取ったのか、Jrは呆れた様子で領収書と修理記録を差し出してきた。


「機体の電磁装甲板はダメージ部分を交換し、機体フレームの歪みは修正済みです。新型の携行レールガンと弾薬もグラナダ研から持ってきました。細かい調整など含めまして、費用は―――です」


「たっか!」


 思わず声が出た。0の数が見たことの無い数字になっている。


「X-TSFは実証機、且つワンオフ機です。グラナダ研の先進技術を惜しみなく投入しているので、これでもかなり割り引いた価格ですよ。中尉、セクレトのゴールド会員で良かったですね」


 Jrは軽口染みて言うが……うわぁ、これマジで払うのか? 傭兵なり立ての頃に買った中古のアウトランダーより高いぞ。開発計画時のヴォイド撃破ボーナスで貯蓄はあるけど、この価格には溜息しかでねぇ。被弾する度にこんな請求されたら、俺の財布なんかすぐに干上がっちまう。


「……ちなみに、俺以外が機体ごと買おうとすると、どのくらいになるんだ?」


「当然ですが、3桁億は越えます。機体フレームに用いている高効率情報伝達合金だけでも、傭兵に払える額ではありません。更に帝国軍艦にも使われている電磁装甲板、グラビティシールド発振器、ΑΩ。とてもではありませんが、一生掛かっても払える額ではありません」


 そんな機体を、開発計画の報酬とはいえタダで貰い、挙句に修理費や弾薬費まで割り引いて貰っている。セクレト、と言うより、クレアにおんぶにだっこな現実。持つべき者は権力者の友とはいえ、考えるだけで胃が重くなる。落ち着け俺、息を吸って、ゆっくり吐いてー。


「ふぅ……高い機体、大事に扱わないとな」


「いいえ、むしろもっと過酷な使い方をして下さい」


「俺を破産させる気か?」


 顔を歪めながらそう言うと、そうじゃないと首を横に振られた。


「機体限界まで使い潰してくれる中尉の戦闘ログは、我々にとって大変貴重です。我々の開発した機体を扱える人間は弊社にもいませんから」


 淡々と話していたJrの声が、興奮した様子で早口になっていく。


「必要に駆られない技術開発は遅れを生み、結果として新技術の停滞を招きます。現状を抜け出す切っ掛けは多ければ多い方が良い。今回のデータは、新型の量産機にも転用できます」


 ああ、そうだった。機体ログは回収するって契約だったな。

 教導で警備部門の連中を見てきたが、まだまだ俺の要求水準には達してない。あいつらの生存率が少しでも上がるのなら、いくらでも使って欲しいくらいだ。次会った時に見知った顔が居なくなっていた、なんてのは嫌だからな。


 ああそうだ、Jrに聞いておきたいことがあったんだ。


「そういや、シミュレーター上だけど新型の量産機見たぞ。デスペラードの面影は残ってたけど、だいぶデチューンしたんだな」


「当たり前です。認めたくありませんが、X-TSFは中尉にしか扱えない欠陥機です」


 Jrの声に、ほんの少し棘が混じった。デスペラードに絶対の自信を持っているJrからすれば、扱えない連中が悪いとでも思っているのだろう。


「一般兵でも扱えるように出力を下げ、搭載ENGも三基から一基に減らしました。その結果、運用出力の足りない統合打撃ユニットは外しています」


 Jrが手を振ると、ホログラムに量産機の機体スペックが表示される。


「素の状態では現場からの要求を満足できません。そこで、ヴェルニス・パイロットラインから得られた換装システムを移植しました。高機動ユニットと砲撃ユニットは既にロールアウト済。各銀河系の生産拠点で、機体更新に向けた生産が始まっています。

 ラビットⅡが帰還次第、ヴェルニス・パイロットライン用の砲撃ユニットも搬入させます」


 要するに、開発計画はもう次の段階に進んでいると。俺が実証した技術が、手の離れた所で形になり始めているってのは嬉しいものがある。


「けどいいよなー、新装備。デスペラードには何か無いのか?」


 新型の画像を見ていると羨ましくなってくる。別に今の機体に不満があるわけじゃないけど、新しい物に惹かれるのは何時だって変わらない。リタの機体だって、新型の換装ユニット一つで別物みたいになってるし。いつの間にかエリーの機体だって新しく改修されてたし、何かズルくね? と思う。


「そう仰ると思ったので、新型のレールガンを持って来たのです。これでデスペラードの火力は飛躍的に上がりますよ。オキタ中尉の射撃精度を鑑みるに、撃墜速度は理論上は3倍まで上がるはずです」


「3倍って何だよ。随分と俺のこと買ってくれてるんだな」


「私の機体を扱えるのは貴方だけなので。ある程度信頼は置いています」


「そりゃあ、嬉しいお言葉で」


 デスペラードの横、トレーラーに置かれた2本の長物を見ながらそう返す。


 それとあと一つ、どうしても聞いておかないことがある。


「なあJr、こんな事聞きたくないんだが……全力稼働した場合、機体はどの程度もつんだ?」


 少し言葉を選んで聞くと、Jrは眉を寄せて黙ってしまった。プライドの塊みたいな男だ、この沈黙だけでだいたいの察しはつく。


「正直に申し上げるなら、不明としか。ΑΩを起動させた際の機体出力は理論限界値を超えており、ログにも正確な数値が残っていませんでした」


 腕を組んだ指先が、トントントントンとせわしなく動いている。


「技術者の勘で言わせて頂くなら、今回のような起動は3分が限度と考えて下さい。それ以上は機体がバラバラになっても可笑しくありません」


「3分か……」


 短い。けど、乗っていてそれが限界な印象だった。機体が軋む感触、それを経験しているから分かる限界。データのお墨付きはないが、畑違いとはいえ経験豊富な俺たちの見解が一致するなら信用に値する数字だ。


 そう納得している俺を見たJrだったが、何を思ったのか軽く頭を下げて来た。


「こればかりは我々の落ち度です。グラナダ研は、ΑΩへの理解が全く追い付いていません」


「いいって。セクレトの最新鋭機でこれなんだ、どこも同じだろ」


 そう言ったが、Jrは納得していない顔をしている。


「そこが問題なのです。今のセクレトでは、オキタ中尉の全力を引き出すには力不足です」


 悔しさを隠そうとしているようだが、だから余計に分かってしまう。本気でやってる連中だけが分かる空気感とでも言えば良いのか、何か感じる所がある。


「情けなさすら感じます。グラナダ研の全てを結集し、その隔絶した機体性能から扱える者がいない欠陥機とまで言われた機体ですら、ΑΩと適合者の前では力不足なのですから」


 Jrはデスペラードを見上げ、俺もそれに釣られて見上げる。


「ですが、我々は必ず追い付きます」


 その力強さに思わず笑っていると、Jrは表情を引き締めてこちらを見た。


「ΑΩ搭載を前提とした、後継機開発プロジェクトが発足しました。我々が機体を用意し、中尉のパーソナルデータをX-TSFに合わせた急造品ではなく。中尉の戦闘データをフィードバックし、本当の意味で0から造る、中尉だけの専用機開発計画です」


「!? マジかよ、それは最高じゃないか!」


 後継機開発プロジェクトの発足、その事実に思わず声が弾む。

 デスペラードはセクレトの技術実証機だ。ΑΩを載せてはいるが、中央評議会の横槍で無理やり搭載させた、言ってしまえば急造品に過ぎない。当初の設計ではΑΩの搭載を想定していないのだから、そんな機体で全力稼働させたら無理が出るのは当然だろう。

 けど機体設計の時点からΑΩ搭載を前提とするなら、それも解消できる。しかも0からということは、俺の意志入れだって……ヤバいな、流石に顔がニヤついてきた。


「さすがセクレトだぜ。クレア主導か? おんぶにだっこが極まって流石に震えて来るけど、後で礼言っておかないとな」


「いえ、その必要はありません」


「……は? 何で?」





「クレア専務は、今回のプロジェクトに関与していません。

 本件は、現セクレト総帥―――エリアス・セクレト氏からの勅命です」




 その名前を聞いた途端、胸の奥に何か冷えた物を感じた。

 セクレト総帥、エリアス・セクレト。

 クレアの父であり、今のセクレトそのものと言っていい人物だ。俺が軽々しく関われる相手じゃない。なのに……この既視感は、いったい何だ?


「随分、話がデカくなったな。もしかして、お前ら暇か?」


 そう言うと、Jrはそんな分けないでしょうと小さく笑った。


「数年前から総帥は行方不明扱いでした。総帥が失踪しなければ、セクレトが割れることは……」


「割れる? どういうことだ?」


「―――いえ、忘れて下さい。私の口から話す内容ではありませんので」


 しまった、という顔。そこまで言われると気になるが、聞いた所でJrは喋ってくれないだろう。こいつはそういう男だ。


「総帥がどこから情報を得たのか、あるいはΑΩの発見を予見していたのかは不明です。ただ、本プロジェクトは“長年の技術蓄積”を土台にしているように思えます」


 Jrは静かに続けた。


「事実、私ですら知らない隠しフォルダの中に、ΑΩの基礎理論が存在しました。今の技術ではその触りすら解析することが出来ない、一研究所や一企業の手に負えない代物が、です」


「つまり、俺とデスペラードは―――?」


「既に”戦略案件”です。セクレトか、あるいは―――帝国か」


「……まじかぁ」


 はっきり言いきられ、俺は溜息を吐いた。

 適合者と言われた時から、何時かこうなることは覚悟していた。ただ、実際に言葉にされると重さが違う。こうなってくると、ΑΩがオークリーで発見されたことすら、なにか陰謀めいたものを感じる。


「後継機の話、俺はどこまで関われるんだ?」


「形式上はアドバイザーです。表向きは中尉の専用機ですから、要望は完全に聞き届けられるでしょう。ですが、その……実質的にはΑΩ適合者としての、観測対象です」


「……なるほど」


 観測対象、ね。便利で、無責任で、逃げ道を塞ぐ言葉だ。

 俺は実験動物なんだろう、エリアス・セクレトって人からすると。


「一応聞いておく。断るって選択肢はあるのか?」


「あり得ません。帝国で暮らしたくないと言うなら、話は別かもしれませんが」


 即答だった。俺は苦笑し、デスペラードを見上げる。

 黒い装甲は何も答えない。ただ静かにそこに立ち、俺の搭乗を待ちわびている。


「クレア……あいつは、この件を知ってるのか?」


「はい。正式発表の前に、既に」


「……だから、昨日から荒れてたのか」


 クレアが関わっていないはずがない。父と娘だ。直接告げられていても可笑しくはない。


「中尉」


 Jrが真剣な表情で言う。


「我々は、あなたを消耗品にするつもりはありません。ですが―――」


「分かってる。足りないんだろ、データが」


 それに被せるように先に言った。


「3分間。使いどころを間違えなきゃいい」


 今も昔も変わらない、それが俺のやり方だ。限界が分かっているなら、あとはそこまで踏み込むだけ。

 問題は、その”使いどころ”を俺が自分で選べるかどうか、だ。




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― 新着の感想 ―
オキタンもオキタンで喫緊の修羅場が待ち受けているんですけどね(・ω・`) 三分間逃げ回れるのか?なんて(ぉぃ
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