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宇宙の傭兵SF冒険譚  作者: 戦慄の大根おろし
セクレト護衛契約
105/112

101_逃がしたくないから

まだまだクレア視点です


 シミュレーターのハッチが開き、次々と部下たちが身体を引き摺るようにして降りてくる。

 まるで、生まれて初めて重力という概念を知ったかのような歩き方。脚は言うことをきかず、床に降りた瞬間にそのまま座り込む者もいる。

 いきなり現実の重さに引き戻された身体は、私の想像以上に正直のようだ。


 何だかその姿が少しだけ……本当に少しだけ面白い。

 そんな不謹慎な感想が浮かんでしまうくらいには、彼らの様子は極端だった。


「……生きてる?」


 誰かが、半ば確認するように呟く。


「生きてる……と思う」


 返事はあったが、確信はないらしい。


「俺、さっき十回目で墜ちたあと、何も考えられなかったんだけど」


「正常です。それが正解です」


 自嘲気味な声に、別の誰かが力なく笑う。

 彼らのこんな姿を見るのは、たぶん初めてだ。

 警備部門所属とはいえ、私が直接関わる事はない。訓練後の軽口や冗談が飛び交う光景は、私にとって少し新鮮だった。


「はいはい、じゃあ昼休憩なー」


 その沈黙を、何事もなかったかのように破ったのはオキタ様だった。


「飯は各自。罰ゲーム対象者は、ちゃんと覚悟しとけよ? 逃げたら倍だからな」


「鬼だ……」


「あれだけやって、何で平気……?」


「でも、腹は減った……」


「それは否定できない……」


 誰かがそう呟いた瞬間、堰を切ったように笑いが漏れ、張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩む。

 笑っていいのかどうか分からない。でも、笑わなければ息が詰まる。


 私はその様子を、少し後ろから眺めていた。


 汗に濡れた髪。

 疲労で伏しがちになった視線。

 それでも、どこか晴れた顔。




 ―――ああ。こうやって、彼らは戦ってきたのか。




 ふと、オキタ様と目が合った。


「……何ですか?」


「いや?」


 彼は一瞬だけ口角を上げて、すぐにいつもの軽い調子に戻る。


「ほら、クレアも来いよ。見てるだけじゃ腹は満たされねぇぞ」


「……はい」


 胸の奥に、まだ説明できない感情を抱えたまま、私は彼らの昼休憩に合流した。


 辿り着いたアスティエロの食堂は、私という存在が居るにしては妙に騒がしかった。


「結果発表ーーーー!」


「おい、誰だ最初に墜ちたの」


「俺です……三分でした……」


「早っ!? 早すぎない!?」


「開始の挨拶が終わる前にロックされました!」


「それはもう事故だろ!」


 トレイを抱えたまま、あちこちで指差しと笑い声が飛び交っている。さっきまでの訓練が嘘だったみたいに、彼らはよく喋り、よく笑っている。


「はいはーい、罰ゲーム徴収タ~イム!」


 オキタ様が、やけに楽しそうな声で宣言する。


「一番最初に墜ちた三分くん、まず一品出せコラ」


「ちょ、それ俺の唐揚げなんですけど!?」


「知るか。戦争だ」


「ここ平時ですよね!?」


「精神的には戦時だな」


 意地の悪い顔をしたオキタ様と、必死な隊員の仕草にどっと笑いが起きる。

 奪われた唐揚げは、抵抗する間もなく全員の皿へと分配されていった。勿論足りない分は追加で購入させられていた。


「次、二番目!」


「自分です……」


「はい、じゃあその卵焼き」


「それ、母の味なんですが……!」


「なら尚更だ。戦場で情緒は死ぬ」


「中尉ひどすぎる!」


 文句を言いながらも、誰も本気で怒っていない。奪われたおかずを惜しむ声すら、どこか楽しそうだった。


 私は少し離れた席から、その光景を眺めていた。


 食堂に満ちる匂い。金属製のトレイが擦れる音。くだらない言い合い。

 これが、戦場帰りの兵士たちの昼食。


 ふと、誰かが言った。


「でもさ、生きてる時間長くならなかった?」


「分かる……」


「俺、九回目くらいから、撃墜される前に『あ、来る』って分かった」


「それ成長してるってことじゃん」


 一瞬、空気が止まった。


「……じゃあ、またやる?」


「やるわけねぇだろ!」


「昼飯返せ!」


「死ぬ!」


「もう死んだ!」


 再び笑いが弾ける。


 私はその様子を見ながら、静かに息を吐いた。

 これが彼のやり方。叩き壊して、笑わせて、それでも何かを残していく。


「クレア」


 一人離れた場所に座る私の前に、オキタ様がアリアドネを伴って座った。


「どうかされましたか?」


「俺じゃなくお前だよ。さっきから全然食ってねぇじゃん」


 言われて、自分のトレイに目を落とす。箸はほとんど動いていなかった。


「……オキタ様のお皿は、凄い量ですね。見ているだけでお腹いっぱいになりそうです」


「ふーん?」


 彼は一瞬だけ私を見て、それから皆の方へ視線を戻す。


「まあいいや。じゃあその分、デザートは俺が貰うな」


「えっ」


「戦争だから」


「今それ便利な言葉になってません?」


「なってる」


 ニヤリと笑う彼の隣で、アリアドネが笑っている。

 私はその輪に加わることなく、ただその中心にいる彼を見つめていた。


 やはり、彼の居場所はここなのだろう。

 私の隣ではなく、戦場の中と外の、そのちょうど境目。



 なら、私は――――――彼を逃がさない。


 そう、ただそれだけだ。

 どこに居ようと、誰の元に戻ろうと、最終的に選ばせる先は私。

 好意など、今さら数える必要もない。身体も、時間も、言葉も、すでに私の手の内にある。

 足りないのは名前と契約だけ。それを与えるかどうか、それを決める権利もこちらにある。


 彼は戦うことしか知らない。

 それがどれだけ危ういか、ヴァン・サイファーとの出会いで測れたのは都合が良かった。


 なら、守る場所を与えればいい。

 帰る場所を与え、役割を与え、”ここに居ていい”という理由を積み上げる。

 気付いた時にはもう遅い。


 私はそういうやり方が一番得意なのだから。




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>「やるわけねぇだろ!」 残念、昼休憩なんだなぁ…(・ω・`) 次は夕飯か…
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