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JB中華飯店

「う~・・・気持ちわるぅ~」

時刻は正午過ぎ。宿屋フローネの前でスーザンと待ち合わせる。

「スーザン、教会行かなくていいのかよ」

「いや~何か教会へ行って働くのがバカらしくなってさぁ~、あはははは」

大金が入った人が仕事をやめ働かなくなる姿を目の当たりにした。

しかもそれをシスターで。

「バンドメンバーを増やすよう88から依頼があってさ。探すの手伝ってよ」

「え~、面倒くさい~、あたしこれからエステに行くんだけど~」

「ライブが好評だったから次回もお願いと言われてさ。

スーザンはやる気がないみたいだからヴォーカルもついでに探すことにするわ。

あーあ、次回のライブのギャラ、金貨何枚かな~」

目を閉じて神に祈るポーズを取りながら

「神のお導きのままに。さあ、レニー、探しにいきましょう」

あの夜、金貨を受け取ったあの夜からスーザンの信仰する神は

金貨になったに違いない。

さて、マダラスカルに来てみたものの何のあてもないわけで。

「スーザン、何かいい案、情報はないの?」

「あるわけないじゃーん、あたしただのシスターだし」

ドドパパドドパパ、ドドパパドドパパ。

ん?どこからか美味しそうな臭いとドラムを叩くような音がする。

ドドパパドドパパ、シャシャッシャ。

もしかして、このリズムは!

頭の中で俺っちのエレキリュートとセッションさせてみる。

「いたぁ!ドラムできそうな人、いたぁ!」

「ほらみなさい。これも神のお導き。シスターの私のおかげですから!」

「絶ってー違う!」

JB中華飯店。音はこの店から聞こえてくる。

中華ってあの中華料理のことか?異世界でも中華料理ってあるのか?

しかし、こんなところにドラマー候補がいるとは・・・。

このリズムを刻んでいるのは一体誰なんだ!

ドドパパドドパパ、チーン、チーン。

店内はごくごく一般的な町の綺麗な中華料理店だ。店内を見渡すが該当者がいない。

「JB、チンジャオロース頼む」「アイヨー」

「JB、こっちもチンジャオロース頼む」「アイヨー」

ドドパパドドパパ、チーン、チーン。

どうやらこの音、厨房から聞こえてくる。覗いてみると・・・マジかよ。

「エルフ!エルフの中華料理人だと!」

身長180センチ。緑がかった銀髪のロンゲのエルフの男性が

中華料理人が着用する調理服を着て中華包丁で野菜を高速で千切りにしている!

ドドパパドドパパ、ドドパパドドパパ。

エルフが中華包丁で肉を叩き切っている!

ドドパパドドパパ、ドドパパドドパパ。

エルフが中華なべを振りながらお玉でかき回す!

ドドパパドドパパ、チーン、チーン。

馬鹿な!ファンタジーの基本要員、弓でぴゃーって、魔法をちゃーって、

精霊にまつわるエトセトラ、美男美女のエルフが中華料理を作っているだとぉ!

あの音・・・チンジャオロースを作っていた音だったの~っ!

「JB、こっちはチャーハンたのむわー」「アイヨー」

「うめぇ・・・やっぱりJBが作るチャーハンは最高だ」

背後で背中を震わせながら料理をほおばり満面の笑顔を浮かべているのは

昨日バッファーローGOGOの首を跳ねたトラ獣人の荒くれ冒険者。

食べる姿はまるで子猫じゃねーか。

食べさせてもらおうか。トラを子猫にするチャーハンとやらを。

ドラムの話を切り出す前に、まずはJBのチャーハンを堪能だぜ。

「チャーハン2つ」「アイヨー」

チャーハンをほおばる俺っちとスーザン。満面の笑みを浮かべ~

レ「うまっ!」ス「うまっ!」

チャーハンを食べ終わった俺っちは早速スカウトに乗り出すのだが

「ドラム?何だいそれは?打楽器?バンド?今の私にはこの店がすべてだよ」

JB曰く、もう100年ほど前になる。

東方の中華鉄健珍民てっけんちんみん共和国、略して中国を旅したときに、

とある飯屋に入って食べたチャーハンに感動した。

「こ、こ、これは何という食べ物ですかっ!」

その店にそのまま弟子入りし、1年くらい経過した頃・・・。

「この食材はこの調味料が合うと思います。

こうやって魔法を使って混ぜると効果的ですよ」

適切に店主に指示を出すJB。

「もうお前に教えることは何もないっていうより

最近はお前から教わることの方が多くね?って・・・ね。

もう国に帰って自分の店をやっチャイナっなーんてね」

スーザンが小声で

「店主をあっという間に追い越しちゃったから多分面白くなかったのでしょうね」

俺っちもそう思う。

「エルフの寿命が長いことを考慮した師匠の温情だったのだろう」

うん、エルフの寿命とは全く関係ないけどJBがいい方に捉えているから良しとす。

「こちらに帰ってきてからすぐに中華料理の店をオープンしたかったのだが、

族長をやらされ、災害級のモンスター討伐をやらされ、とある国家の宰相やらされ、

と仕事が忙しくてね。4年前やっと引退させてもらえてね。念願のJB中華飯店を

4年前にオープンしたのさ。

私が味わった中華料理のあの感動を皆さんにもお届けしたい!」

チャーハンを食べ終わったトラ獣人が満足気に

「この店のチャーハンを食べるためだけに冒険しているな」

こりゃ~JBをドラマーにスカウトするの結構むずいぞ。

異世界で見つけたドラマーは宰相までした凄腕中華料理人でした。

おっ、なんか異世界タイトルっぽい長さ。で、どうしたものか~。

「スーザンみたいに金で心を動かすことはできないだろうな~」

「ちょっとあんた、心の声だだ漏れよ!」

スーザンはトラ獣人に向かって

「あんた、あいつの首を跳ねてちょうだい!シスターの私が許すから」

バッファーローGOGOの首を豪快にぶった切ったのに

「シスターさん、俺、そういうの苦手なんっすよ」

とりあえずドラマー候補が見つかったことだけでも僥倖ぎょうこう

今日は一旦宿屋に帰り今後の対策を考えるとしよう。

「スーザン、一旦宿屋に帰って打ち合わせしようぜ」

「はぁ?あたしこれからエステ行くんですけど」

「その格好でエステ行って問題ないの?一旦ホテル戻って着替えたら?」

「シスターのあたしがシスターの格好しなくてどうすんのよ、バカじゃないの?

シスターの格好は私のアイデンティティなの!」

宿屋フローネの俺っちの部屋。

とりあえずドラマー候補が見つかったことだけでも88に連絡するとしよう。

二人掛けソファーに座り8の字の描かれたジッポライターを

ズボンのポケットから取り出し親指で蓋をパチンと弾き開け赤いボタンをポチっとな。

たらりらりらーん、りらりららーん(※コンビニの入店音のような音が鳴る。)

   ●

どんよりとした今にも雨が降りそうな空。時々鳴る雷鳴と稲妻。

カラスにこうもりに~と誰がどう見ても魔王のお城ってな感じの西洋風なお城。

エントランスの大広間。半月形の階段が左右から中央に伸びる。

「いらっしゃいませ、メルト様」

「やあ恵比寿丸えびすまる

タキシード姿に犬神家のあの白いマスク、かすれた声。魔王城の執事にして管理者。

名を恵比寿丸という。身長は185センチくらい。すらっとした体型。

タキシードから見える両手はどうやら義手のようである。

「メルトの名を呼ぶことを許した古き友人よ」

「メルト様、魔王城にいかような御用事で」

「ちょっと人探しにね。ほら、あの娘、なんて言ったかな。

君と同郷の東方から・・・」

綾姫あやひめ様でございますか」

「そうそう、彩姫。あの娘、彩姫という名だったのか」

「彩姫様は現在、故郷に帰省しております。呼び戻しますか?」

「いや、私の方から東方に出向いて・・・」

たらりらりらーん、りらりららーん。

「急用が出来た。恵比寿丸、やっぱり君が彩姫を呼び戻しておいてよ」

「かしこまりました。」

「じゃ~ね~」

魔王城をあとにする88。

「魔王様に挨拶も無しとは無礼な。あれが88か」

恵比寿丸の背後から巨漢の魔族が現れた。身の丈は恵比寿丸の3倍。

ミノタウルスの頭部にトゲトゲした肩パット。黄色のピチめの全身タイツからは

がっちりとした筋肉が浮かび上がっている。

「どれほどの強さか知らぬが魔族超強武道会3度優勝、

スリー・タイムス・チャンピオンの我輩ほどではあるまい。

8式とやらも噂のたぐい。スリータイムスチャンピオンの我輩が

蹴散らしてやるわ、グワッハッハ」

「イエロビッチ殿、魔王城を管理する者として一言ご忠告しておきます。

魔王城で88様を挑発するのはくれぐれもおやめください」

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