バンドメンバーを増やせ
「バンドのメンバーを増やして欲しいのだよ」
カモネギネギ劇場のライブから2日目の朝、
宿泊先のトイレに入ろうとドアを開けたら88がいた。
「88、突然どうしたんっすか、っていうか漏れそうなんで
トイレから出てもらっていいっすか?」
俺っちが泊まっている部屋の中。
「バンドのメンバーを増やして欲しいのだよ」
左ひじをテーブルの上に乗せ頬杖をつきながら足を組み椅子に座っている。
正直言って気品があるし、美し過ぎる。88は本当に美しい。
だが、レニーの中のゴーストであるカズキが囁く。俺っちは真央ちゃん一筋だと。
「ボーカルとギターはすでにいますから、あとはベースとドラムっすね」
「ベースとドラム?とはどんな楽器だい?」
「ベースは低音を出すリュートみたいなものっすかね。
ドラムは説明が難しいっすけど打楽器を並べて細い棒で叩いて音を出すものっすね」
「ふむ・・・ベースに関しては少々心当たりがあるよ」
「レニーはドラムの奏者を探してくれよ。
見つかったらこの道具を使い連絡してくれよ」
88は上着の右ポケットからジッポライターのようなものを取り出した。
色は黒っぽい銀。表裏には数字の8の字が赤色でおしゃれに刻まれている。
親指でパチンとふたを開け
「ここにある赤いボタンを押してくれよ」
と言いジッポライターを俺っちに渡すと部屋のドアを閉めて、そして消えた。
突然の88の訪問で忘れていたが朝食がまだだった。
スーザンでも誘って何か食べながらバンドメンバーの件、相談してみるか。
時刻は朝の9時。スーザンの家へ行ってみたが外出中であった。
「スーザン?来てないわよ」
勤務先の教会に行ってみるが来ていないようだ。
「しゃ~なし、今日は一人でドラマー探しに行ってみるか」
何のあてもないし、どこから探してみればいいものやら。
サラダワンで聞き込みしても有益な情報は得られなかったが
呪いのぬいぐるみを売ったあの道具屋のおっちゃんからのアドバイス
「中央都市マダラスカルに行ってみたらどうだい?」
マダラスカルは貴族が治めるこの辺一体の中心的な役割を担っている町である。
時刻は昼前の11時くらい。マダラスカルまで疲れ知らずのサイボーグ馬が
牽引する馬車なら片道6時間 純銀貨3枚(3千円)。
3日前の俺っちなら払えなかったがライブのギャラと
呪いのぬいぐるみの販売益でそれなりに潤っている。
ここはサイボーグ馬でマダラスカルへGOでしょ!
サイボーグ馬での移動は楽ちんだな~。実家での仕事は徒歩が基本だったからな~。
サイボーグ馬、欲しいな~。金貨何枚必要なのだろう。
御者のおっちゃんに聞いてみよう。
「すんませーん、サイボーグ馬っていくらくらいで買えるんっすか?」
「新品で金貨300枚、中古で金貨50~150枚ってなところだな」
なるほど、新品で300万円、中古は50~150万円くらいってところか。
概ね転生前の自動車と同じ価格帯という感じだな。
しかし自動車も無いのにサイボーグ馬があるこの異世界はちぐはぐというか。
普通サイボーグの方が技術的に難しいだろう?っていう突っ込みは
この異世界生活を堪能できなくなるのでやめておこう。
「カスタマイズをガンガンすると金貨500枚以上、あとは青天井だな」
賞レースに出たりモンスター討伐で遠征したりするやつは
カスタマイズすることがあり高いらしい。
「この馬も金貨300枚したんっすか?」
「まさか、こいつは中古で金貨80枚くらいだよ」
「金貨80枚ってすごい金額じゃないっすか!」
「分割払いってやつだよ」
真紅のサーボーグ馬にまたがり青い月が輝く荒野を駆けている姿を想像する俺っち。
う~ん、かっこいいぜ。
空耳だろうか?ヴァンパイアハンターDと聞こえたような気がした。
街道沿いの畑で老夫婦が何やら布切れを畑にかぶせ
「ばあちゃん反対だでぇー」
と言っていただけだった。途中、モンスター注意など書かれた看板を見る。
「うわっ、モンスター出るんっすか?」
「この辺で出るモンスターはバッファローGOGOくらいかな。
こっちからちょっかい出さなければ襲ってこねーよ」
御者のおっちゃんがバッファローGOGOについて教えてくれた。
大きさは名前のとおりバッファローくらい。
両脇腹に英字のGOGOに似た模様があることからその名前がついた。
毛皮はこのGOGO模様が邪魔をしているせいで活用できる範囲が少ないが
肉は美味しいので狩りの対象となることがある。
普段は大人しいが興奮するとこのGOGO模様が白く光り凶暴になるため、
GOGOランプ、いや模様が白く光る前に仕留めるのが定石である。
マダラスカル到着20分前くらいだろうか。
街道から300メートルくらい離れたところでモンスターと冒険者の戦闘を見かける。
3人組のパーティで戦士、魔法使い、僧侶。
遠めなので詳細はわからないが一人はトラ獣人。あとの二人はヒューマンかな?
モンスターはバッファローGOGOが単独。
バッファローGOGOがガコっ!という鳴き声を発する。
GOGO模様が白く光ってきた。
興奮して暴れだしたバッファローGOGOに突き飛ばされるトラ獣人。
多分、トラ獣人が戦士だな。すぐに僧侶が回復魔法をトラ獣人に唱えている。
魔法使いが鎖の魔法でバッファローGOGOの動きを止めている。
回復したトラ獣人が2メートルほどジャンプし両手に手斧を握り一振り。
バッファローGOGOの首が跳ね飛んだ。勝利の雄たけびを上げるトラ獣人。
その姿はまさにトラそのもの。ある意味モンスターよりおっかない。
夕暮れ前の17時頃、某アライグマの名前のような町、中央都市マダラスカルに到着。
モンスターの進入を防ぐための高さ5メートルほどの石垣に囲まれた町だ。
貴族が統治しており、冒険者ギルドもある。
この周辺の町の中心的役割を果たしているだけあってか
中規模とはいえ大きな町である。
宿 フローネ 朝食付き1泊 トイレ風呂完備 純銀貨6枚(6千円)。
転生前で言えばビジネスホテル的な宿である。
金はある!よし、今夜の宿はフローネにしよう。ドラマー探しは明日からにして、
まずは町の酒場でマダラスカルのご当地料理を堪能しちゃおうじゃないか!
酒と料理の店 アンの赤毛亭。
20人~30人くらいが入れる空間。清潔なテーブル。期待できるかも。
「いらっしゃい!何にします?」
うさぎ耳の獣人のウェイトレスが注文を取りにやってきた。
「お勧めは?」
「フランダース風 小鹿の若草炒め になります」
いいね~なんか世界名作料理って感じで。
「じゃあ、それを注文するよ」
「ありがとうございます、マスター、フランダース入りまーす!」
改めて店内を見渡してみる。
「バニーちゃ~ん、もう1っはいちゅいか~」
店の奥では早い時間から出来上がっているシスターがいる。
「おっシスター様、いい感じで出来上がってるね、何か歌ってくれよ」
このくだり前にも体験したような。
「あらしヒック、ひろばん(一晩)でヒック、ちんか(金貨)25らい(枚)ヒック、
かせじゅ(稼ぐ)うらしめ(歌姫)ヒック、なんらからね~」
一晩で金貨25枚?スーザン発見!ここで何してやがる?
「いつもはヒック、おとものじゅうちゃ(従者)にばんそうこう(伴奏)
ヒック、させりゅんだけど」
お供の従者だと。いつ俺っちがお前の従者になったんだ。
「こんりゃ(今夜)はヒック、とくれつ(特別)にヒック、
あかぺらぺら(アカペラ)でうら(歌)ってあげりゅ~」
「お~こいつぁ~楽しみだぜ」
やめろ、おっさん!そいつを調子づかせるな、後悔することになるぞ!
「神父のあそこを蹴り上げろ!」
上げろ、げろ、ゲロ・・・フェードアウト。
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「ゲロゲロゲロゲロ~」
またも酒場の外でキラキラを吐き出すスーザン。
こいつ本当にシスターか?シスターのコスプレをしたただの酒飲みに見えてきた。
※BGM アライグマ ラス○ルのOP曲
「スーザン歩ける?」
「無理~」
「どこ泊まってんのさ?」
「フローネ・・・」
これも神のお導きってやつなのか。ありがとう僕の友達、スーザンに会わせてくれて。
ここ、ここ、マダ ラスカーーーーール!