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カモネギネギ劇場にて

「待ったかい?」

「いえ、大丈夫っす」

「ところで88(ハチハチ)さん、これからどこへ行くんっすか?」

「88でいいよ」

小声でスーザンが俺っちに耳打ちする。

「ちょっとレニー、彼女、むっちゃ綺麗なんですけど」

昨晩、スーザンを自宅まで送った後、俺っちは

グラディウス家が吟遊詩人の営業のときにいつも利用する

素泊まり純銀貨1枚(千円)の安宿に宿泊した。

午前中はブラブラと過ごし午後にスーザン宅まで出向いていった。

二日酔い気味で前夜の記憶がほとんど無いスーザンが来てくれるか不安だったが

88が魔族の可能性が高いことを説明した上で

ギャラが純金貨5枚であること、前金の純金貨1枚(10万円)を見せたら

「神のお導きです」

とあっさりとOKしてくれた。

シスターの仕事は月給金貨2枚(2万円)程度らしいが

教会からの現物支給などもあり何とかやっていけるらしい。

月給金貨2枚・・・あっさりと引き受けたのも理解できるがシスターのイメージが。

「では行くよ」

足元に大きな魔方陣が展開される。

光に包まれた瞬間、我々3名は別の場所へ転移していた。

「すごい、転移魔法なんて初めて見た」

驚いた表情のスーザン。スーザン同様、俺っちも初めてです。

魔法、モンスター、ギルドがあるこの異世界。

転移魔法は高度な魔法で習得するのは困難な魔法の一つである。

前方にステージが見える。どうやら俺っち達はステージの裏側にいるようだ。

小さい劇場の中のようだか、ここはどこだ・・・。

「ここって・・・カモネギネギ劇場じゃない」

ざわざわと観客席から声がする。どうやらすでに観客がいるらしいが何かが違う。

右を見ても魔族、左を見ても魔族。

「今夜は彼らの前であの曲を演奏してもらいたいのだよ」

冷たい汗が頬を伝う。遭遇率が低いはずの魔族が30人くらいはいる。

(こんな田舎町に魔族が出てくることは滅多にない)

とか言ってなかったかジョセフ。

結構いるじゃんこんな田舎町に。俺っち達は生きてここから帰れるのだろうか。

「ちょっとレニー、魔族の前で歌うとか私聞いてないんですけど~!」

「ギャラ純金貨5枚っすよ」

「シスターは度胸!これも神のお導き。やってやろうじゃない!」

金の力ってすごい。

「88、お酒持ってない?」

スイッチオンしたスーザンが88に聞いている。

「ヒューマンには少し強いがオーガーキラーなら用意できるよ」

パチンと指を鳴らすとタキシード姿のゴブリンが88の後ろからやってきた。

88の背後3メートルくらいで立ち止まり右手をお腹の位置に持っていきお辞儀する。

「お呼びでございますか、88様」

「オーガキラーを持ってきてよ」

オーガキラー、鬼ころ・・・。

「かしこまりました」

1分後に、カクテルグラスに注がれたオーガキラーを丸いお盆の上に乗せ

先ほどのゴブリンが帰ってきた。オーガキラーを一気飲みするスーザン。

「おいし~い、もう2杯!」

「調子に乗るなよヒューマン」

ゴブリンがスーザンを威圧する。

「彼らは今夜の主役だよ、持ってきてあげて」

転移魔法も使えゴブリンを使役する。88って実はすごい魔族なのか?

2杯のオーガキラーを瞬殺するスーザン。

「まろく(魔族)なんか怖くねぇ。

しすらー(シスター)をなめんな、いくぞおらぁ!」

おおお、スーザン頼もしいぞ!

「ロックンロールでやるしかねぇ!」

人生は一度きり!って、異世界転生で2度目だけど。

これが人生最後の演奏になるかもしれねーっ!

リュートに電流魔法エレキを流し、ギュイイイイイン!聞けこらぁ魔族ども。


神父のあそこを蹴り上げろ!

この世に神がいるのなら

神父のあそこを蹴り上げろ!

あの子とキッスがしたいなら

神父のあそこを蹴り上げろ!

お前と俺のディスティニ

神父のあそこを蹴り上げろ!

憎いあいつとこん畜生

神父のあそこを蹴り上げろ!

とまどい転がる我が人生


静まり返る劇場内。うわっやっちまった・・・これは死ぬやつだ。

どっかーん!湧き上がる歓声。

「こんな音楽、聴いたことがねぇ!」「魔魂まこんを揺さぶりやがる」

「アンコール」「アンコール」「アンコール」

片隅で様子を伺っている88。

手には単3乾電池ほどの大きさの透明な管を持っている。

管の中には1センチほどの赤い液体が貯まっていた。

右手親指と人指し指で管を持ち、中の赤い液体を見ながら

「ヒューマンより魔力の高い魔族の方が魔蓄管まちくかんの充蓄が早いね」

3回のアンコールに応え、ライブは無事終了した。

「ふーっ・・・何とか生きてる」

安堵の俺っちに一人のおっちゃん魔族が近づいてきた。

身長は150センチくらい。体型はドワーフに近い。

髪の毛はない。帽子をかぶっており、おでこあたりには大きめのゴーグル。

ゴーグルのレンズの色はサングラスのようにな感じ。

上半身は裸。ポケットの多いベストを羽織っておりガッチリとした筋肉が見える。

ポケットの多いニッカポッカのズボン。安全靴のようながっちりとした皮靴。

両手には厚手の手袋を装着している。肌の色は赤い。

そうだな・・・簡単に言うと、職人っぽい格好をした小柄な赤鬼って感じかな。

「ファンになっちまったぜ。これは俺様からのプレゼントだ」

と言いながら小汚い手のひらサイズのねずみのぬいぐるみをもらう。

「あざーっす、た、大切にするっす!」

「別に大切にしなくてもいいぜ。呪いを解除したときに手に入れたものだし」

呪いを解除とは・・・どういうこと?

「解除しても解除しても送ってきやがるからいっぱいあんだよ。

ヒューマンにはそれなりに値打ちがあるらしいから

お前さんにやるよ、ガッハッハッハ」

そんな呪いのアイテムを俺っちにくれるなんて・・・正直言って迷惑です!

迷惑ですけど魔族が怖いので仕方なく受けとることにした。

転移魔法で俺っちとスーザンを元の場所へ戻した後、

「またライブをお願いするつもりだよ」

と言い残し88は暗闇の中に消えてしまった。

その場でスーザンとギャラを折半し、手元には純金貨2枚と金貨5枚(25万円)。

観客は魔族だったが修行2日目にしてカモネギネギ劇場を満員にした俺っちの未来は

まずまずのスタートだ、ロックンロール。

「お前さんたち、これをどこで手に入れた!」

道具屋のおっちゃんが神妙な顔つきであの小汚いねずみのぬいぐるみを鑑定している。

それなりに値打ちがあるらしいから、とおっちゃん魔族が言っていたことを

思い出した俺っちはライブの翌日の朝10時、スーザンを誘って道具屋にいたりする。

「こいつぁ魔族の人形使いミッキー・マウ・ストーンの呪いのぬいぐるみじゃねぇか」

ミッキー・マウ・ストーンだと!って誰それ?知らないけど

区切るところを間違えるとデ○ズニーとかいう怖い人達に怒られる名前じゃん。

「これどういうぬいぐるみなんっすか?」

道具屋のおっちゃんは右手であごを摩りながら

「呪った相手のところへ行き、数々の嫌がらせをするのさ。

砂糖と塩を入れ替えたり、鍵穴に物を詰めたり、静電気を仕込んだり。

相手を殺す罠を仕掛けたりもするが、この大きさならそこまでは出来ねぇなぁ。

こいつは魂が抜かれちまってて動かねーから呪いとしては使えないが

ミッキーの呪いのぬいぐるみは一定数のコレクターがいてな。

結構需要があるんだよ。で・・・金貨2枚どうだ!」

「金貨7枚!」

強気にふっかけるスーザン。

「まいったな~、金貨3枚でどうだい」

「金貨6枚!」

「シスターさんにはかなわねーな~、金貨4枚でどうだい?」

「よし、手を打った!」

金にうるさい?頼もしいシスターのおかげで小汚いぬいぐるみが

金貨4枚(4万)で売れた。

実家で代々大切にされていた?リュートが銅貨5枚(50円)。

こんなわけのわからない小汚いぬいぐるみが金貨4枚(4万円)。

これが需要と供給のバランスってやつか。

「ちなみに動いているやつだといくらになるっすか?」

「動いてるやつだと5倍以上の高値で取引されるが滅多に手に入らねーな」

スーザンとぬいぐるみの代金を折半し手元には昨晩のギャラと合わせて

金貨にして27枚(27万円)がある。バカにできねー魔族のライブ!

当面の路銀を確保でき、少し有頂天気味だけど突っ張って行くぜ、ロックンロール!

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