始動 新生インフィニティ
「ここはどこだ?」
コロシアムの跡のようだが転移魔法で移動しているので
どの国のどの場所かわからない。
一緒に転移してきたと思われる蛾がヒラヒラと飛びながらコロッセオの観客席と
闘技場を隔てる壁にとまる。観客席にはすでに魔族がいるが満席というわけではない。
ざっと見1000人くらいか。魔族って結構いるんだな。
ふと思う。88はどうやって魔族を集めているのだろう?
「スーザン、ここはどこだ!」
「わかんないわよ、こんなとこ」
彩姫は観客席に向かい無邪気に万歳状態で手を振っている。
「おーっ、あんなところに知り合いが。懐かしいのう」
「オラどうしたんだべ。なんでこんなところにいるんだべ。記憶がないんだべ」
クワーマンは・・・そのままでいい。JBは、サラ鍋を持って固まったままだ。
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!
何か重たいものが登場ゲートから歩いてくる音がする。
俺っち、スーザンは登場ゲートの方を見る。
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!牛、いやサイくらいの大きさはある。
黒銀、光のあたり方によっては緑色にも見える。月明かりに照らされ現れたのは
ワニ・・・というよりコモドドラゴンに近い。
いや、ワニに進化する途中あたりの恐竜とでもいうべきか。
とにかくそんな感じだ。腰を抜かし地べたに尻餅をつき、震える声でスーザンが言う。
「何あれ・・・あんなモンスター見たことないわ」
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!何度か死に掛けたおかげで度胸がついたのかな。
魔族が絡んでいると色々なことが起こる。冷静に様子を伺っていると・・・
ん?誰か一緒に歩いてくる・・・ドラロンじゃん。と言うことは
「おーい!レニー、やっと出来たぞ」
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!俺っちの前で止まるモンスターとドラロン。
「DG3だ」
自慢げに宣言するドラロン。
DG1はゴリラ。DG2はゴリさんっぽいヒューマン。そしてDG3は
「今度は何に模して作ったんっすか?」
「よくぞ聞いてくれました!こいつはなぁ、ここからずっと南にある
アフリコ大陸の北部に流れるナブル川に生息するモンスター
ナブルモサザウルスを模したのよ~。ナブルモサザウルスはな・・・」
とドラロンがナブルモサザウルスについて説明してくれた。
コモドドラゴンのような体型。
恐竜のモササウルスの頭。
体全体はワニのようにゴツゴツしている。
体長は約3~5メートルに成長する。
「前回みたいな小さい劇場じゃ、こいつが入らなくてな」
「ドラロン、ここどこっすか?」
「ミノタウルス島のコロッセオだ」
ミノタウルス島だとぉ!って、知らない。どこよそれ。
ドラロンがミノタウルス島について説明してくれた。
ヨーグルッペ大陸とアフリコ大陸の間にある海ジナカ海の
真ん中あたりにある小さな島。現在は無人島。
島の中央にあるコロセウムではその昔、ミノタウルスと人との戦いが
行われていたことからミノタウルス島という名前がついた。
ドラロン博識~っていうか今回は説明要員してるぅ~。
「あと、こいつを持ってきてやったぜ」
ドラゴン・スナイパーだったラッパをレニーに手渡すドラロン。
「DG3の演奏者のJBはどこだ?軽く使い方を説明してやろう」
辺りを見渡すドラロン。
サラ鍋を持ったまま立って固まっているJBを見つけたドラロン。
「何かあったのか?」
「ええ、まあ、あとで詳しく説明するっす」
とにかく、ここはもう演奏して乗り切るしかない。
「ドラロン、DG3をドラムに変形させてもらえるっすか」
「JBがあんな状態で大丈夫か?」
「大丈夫っす!何とかするっす」
「よしわかった!変形させっぞ。チェンジ、ドラム!」
目が赤く光り掛け声に呼応するDG3。
尻尾側から縦半身に割れ始め左右に展開されていく。
頭部を残しコの字型に展開されると今度は足の上の胴体部分が回転し始めた。
そして4つの太鼓、ハイタム、ロータム、フロアタム、スネアドラムが現れる。
尻尾が外向きに横に動き45度で止まると先っぽが下向きに直角に折れ曲がる。
そしてガツっと地面に突き刺さった。
シンバルとキックペダルがないが今回はしゃーなし。次回付けてもらうことにしよう。
「スティックがないっすけど・・・」
ニヤっと笑うドラロン。残っていた頭部が真ん中から左右に割れると
頭部の中にスティックが1本ずつ入っていた。
「じゃあな。俺様は観客席で聞かせてもらうぜ!」
立ち去るドラロン。
「クワーマン、JBを運ぶの手伝え!」
「レニー、オラ、JBの店に入ったのは覚えてるだべが、途中から記憶がないんだべ」
「わかった、わかったから。その話は一旦忘れろ!いいから手伝え!」
クワーマンに手伝ってもらいJBをドラムの位置に配置する。
お玉とサラ鍋をスティックに持ち替えさせる。
お玉とサラ鍋はDG3の割れた頭の上に置く。
「JBはこれでよしっと。クワーマンはこれを持ってドラムの右側に立て」
ラッパをクワーマンに渡す。
「彩姫ーっ!」
「なんじゃレニー?」
「彩姫はスーザンの左側で魔琴ちゃんを・・・あれ?魔琴ちゃんは?」
「待っておれ」
右手の親指と人差し指で輪っかを作り口笛を吹く彩姫。
観客席から魔琴ちゃんが飛び出してくる。
そして犬が飼い主に全速力で走りよってくるように
魔琴ちゃんが彩姫の元までやってきた。
「ぐわしぐわしっ」
「おーよしよし可愛い子じゃあ~」
犬が飼い主にお腹を見せるようにゴロンと横になる魔琴ちゃん。
「スーザン!歌う準備は出来たか!」
スーザンを見るとすでに88が用意してくれたのだろうか。
前回のときに給ししてくれたタキシード姿のゴブリンが持ってきた
オーガーキラーをすでに4杯飲み干していた。
何も指示しなくてもバンドの中央にいくスーザン。
俺っちもスーザンの左側へ移動する。
「綾姫は何でもいいから一定のリズムで低音を4拍子で弾いてくれ」
「了解じゃ」
「クワーマンは息が続くまでラッパを吹き続けろ」
「わかっただべ・・・でもオラできっかな・・・」
「これができなきゃ村へ戻るだけだぞ、クワーマン!村へ戻りてーのか!」
「・・・まだ戻りたくないだべ」
「じゃあ覚悟決めろ!お前の肺活量をここで見せてみろ!」
「わかっただべ」
あとはJBだが・・・俺っちに秘策がある。
「あとは俺っちが何とかする!ぶっつけ本番、上等だぁ!」
吟遊詩人の修行の旅に出てから約2週間が経過した。
2週間で何回に死にかけただろう。
転生前は平和な国、日本で過ごしていたため死について深く考えたことはなかった。
人はいつか死ぬ、程度だ。
何度も死を隣に感じるこの異世界で俺っちは少し魔族について考え始めていた。
いつも俺っちの死のそばには魔族がいた。魔族とはいったい何なのだろう。
「シスターをなめんな、いくぞおらぁ!」
考えてもよくわかんねーか。今はこの場を切り抜けるしなねぇ!
「ロックンロールでやるしかねぇ!」
俺っちはステージ中央へ行き両手を上にあげて叩く。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
観客はまだ乗ってこない。乗ってこい、乗ってきてもらわねーと困るんだって。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
両手を前に出して、こっちへこいよのジェスチャー。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
観客席から聞こえる。
「ちゅ・う・か!」
よし、来た!まだこい。どんどんこい!
「ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
俺っちはJBの横に行き大声で叫ぶ。
「JB!聞こえるか!中華を呼ぶ沢山の声を!」
JBがピックっと反応する。そして、中華ハイのスイッチが入る。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「誰かが私を呼んでいる・・・」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「中華をつかめと轟き叫ぶ・・・」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「熱い情熱はまだ消えていない!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「私は何度でも立ち上がる。そこに中華を求める声ある限り」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「そう・・・私は・・・私こそが」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「中華フェニックスだああああああああああああああああああああ!」
中華フェニックス・・・カッコ良いのか悪いのかよくわらんねーけど
JBが復活したから良しとす。
JBが叫ぶ。
「ファイヤあああああああああああああああああああああああああ!」
サラ鍋から炎が縦方向へドーンと発射される。
チャーハンを作る動作とリンクして
JBのドラムから激しいビートが会場内に鳴り響く。
魔琴ちゃんから4拍子の重低音が弾かれる。
聞いたこともないような大きな音のラッパが鳴り響く。
そして俺っちのギターでリズムを整え~いけぇスーザン!
神父のあそこを蹴り上げろ!
この世に神がいるのなら
神父のあそこを蹴り上げろ!
あの子とキッスがしたいなら
おい、そこの犬、今こっちを見てただろ!
ララララ、ララララ、ラララララ
神父のあそこを蹴り上げろ!
お前と俺のディスティニ
神父のあそこを蹴り上げろ!
憎いあいつとこん畜生
おい、そこの猫、魚を咥えて逃げただろ!
ララララ、ララララ、ラララララ
神父のあそこを蹴り上げろ!
とまどい転がる我が人生
神父のあそこを蹴り上げろ!
こまったときには俺を呼べ
おい、そこの猿、神父のあそこを蹴っただろ!
ララララ、ララララ、ラララララ
おい、そこの犬、今こっちを見てただろ!
おい、そこの猫、魚を咥えて逃げただろ!
おい、そこの猿、神父のあそこを蹴っただろ!
ララララ、ララララ、ラララララ
ララララ、ララララ、ラララララ
ララララ、ララララ、ラララララ
会場の片隅で魔蓄管に貯まる液体を眺めている88。
「魔族の方が貯まる速度が速いね」
採血後に看護士が採血管を振るような動作をしながら
「今後は魔族だけではなく多種族も集め、効率良く魔力を集める必要があるね」
「アンコール!アンコール!アンコール!」」
よし!前回のカモネギネギ劇場同様、魔族のノリもいい感じだ。
もう一発ぶちかますぜ!
「JB!また千人分のチャーハンのオーダー入りまーす!
今度も爆速でおねやいしゃーっす!」
あれ、JBのドラムが始まらない。どうしたJB?中華ハイ状態が切れたか?
JBはよろよろと立ち上がり歩きだしたかと思ったら
その場にうつぶせに倒れてしまった。
「どうしたJB!」
「ま・・・魔力が吸われて力が出ない~」
顔が濡れて・・・ではないのね。あのドラム、魔力を吸い取るのか!
JBだったからよかったものを魔力の少ない者が叩くと死ぬんじゃねーのか?
しかし困った。JBがこの状態ではアンコールに応えることができない。
「JB大丈夫か!JB、JB!」
観客席から自然に声がする。
「ちゅ・う・か!」
声はだんだん増えてくる。そして大合唱へと発展する。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
登場ゲートから布切れを持ったタキシード姿のゴブリンがやってきた。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
布はアメリカ国旗に似た模様が描かれている。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
布をJBに被せるとゴブリンは背を向け登場ゲートへ戻っていく。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
数秒後、JBがヨロヨロと立ち上がる。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
両手をグリコのように挙げマントを払い落とす。
「ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!ちゅ・う・か!」
足元にふぁっさ~と落ちるマント。
「待たせたな~!中華フェニーーーーーーーーーークス!」
よっしゃ~何かわかんないけどJBが復活した!
「今なら1万人分、いや10万人分のチャーハンを作れる気分だぜ!」
何か目がいっちゃってるような気もするが、いつもの中華ハイだろう。
JBのドラムが鳴り響く。3回のアンコールに応え演奏は終了した。
コロシアムの闘技場では変形を解いてナブルモササウルスに戻った
DG3をドラロンがチェックしている。
ドラロンのそばには助手兼用心棒としてガンガンが立っている。
登場ゲート奥にあるコロシアムの選手控え室。
中央にレンガで作られた机と長いすがある。
長いすはちょっとゴツゴツ感はあるがちゃんと座れる状態だ。
俺っちの右となりがJB。
机をはさんで反対側の対面にスーザン、彩姫、クワーマンの順に座っている。
俺っちの右、スーザンから見たら左には88が立っている。
蛾が1匹迷い込んでくる。そして控え室入り口近くの壁に止まる。
「ギャラの純金貨50枚(500万円)だよ」
テーブルの上には純金貨50枚が入っている布袋が置いてある。
5人で割ったら一人当たり純金貨10枚(100万円)だ。
「私はこれで失礼するよ。帰りはドラロンに頼んであるから大丈夫だよ」
そう言うと88は控え室の片隅に出来ている暗闇の中に消えて行った。
「わらわは不要じゃ、ベイクドチーズケーキの代金として受け取るがよいぞ」
さすが魔族のおひー(姫)様、太っ腹、ありがたき幸せ。
「グワシ、キューン、グワシ、キューン」
クワーマンのから見て右側の部屋の片隅で
体育座りしている魔琴ちゃんが何かを訴えている。
「魔琴ちゃんはおなかがすいたようじゃ」
スーザンを見る彩姫。
「まさか私を供物として与える気!」
「冗談じゃよ。きゃはははは」
笑いながら魔琴ちゃんの方へ歩いていく彩姫。
「最近なぁ、スーザンを見ても魔琴ちゃんがあまり反応しなくなってきたのじゃ」
魔琴ちゃんが彩姫の耳元で何かをしゃべっている。
「ふむふむ、なるほどな」
スーザンをじっと見つめる彩姫。含み笑いをした後、
「確かにのう。じゃ、わらわも一旦帰るとしよう。楽しかったぞえ」
そう言うと転移魔法を展開し魔琴ちゃんと一緒に彩姫は帰っていった。
「ちょちょ、ちょっと最後の含み笑いは何よ!気になるじゃないさ」
何となく理由はわかる気がするが。
シスター好きの魔琴ちゃんがシスターに反応しなくなるってことは
「スーザン、シスター力が無くなってきてるってことじゃねーの?」
「何それ?あたしほどシスターなシスターがどこにいるの?」
どこからくるんだその自己肯定力。
クワーマンのギャラだがやつのハクション大爆発で
JB中華飯店が焼失していることを考慮すると
クワーマンのギャラを全額JBのギャラにしてもいいくらいだ。
そうなるとまた無職無銭のクワーマンが俺っちと一緒に過ごすことになる。
ここは妥当なギャラを払い、一旦村へ凱旋という形でお帰り願おう。
「クワーマンのギャラはくしゃみで壊した
ホテル代の備品の弁償代を差っぴいた純金貨9枚(90万円)な」
「りんごとハチミツがたっぷり入った色んなものが食べれるだべ?」
「あー食べれる食べれる。そしてこのギャラを持って村へ帰ろう」
「わかっただべ」
「スーザンのギャラは今朝貸した金貨3枚を差っぴいて
純金貨9枚と金貨7枚(97万円)だ」
「仕方ないわね。それでいいわ」
それでいいわじゃねぇから。俺の優しさでホテルに泊めてやってたんだよ。
毎朝ホテルのモーニング頼みやがって!
心残りはこれらをスーザンの体で回収できなかったことだが、
多分、数日後にすっからかんになって泣きついてくるに違いない。
これ以上スーザンにたかられないよう別のホテルに宿泊するか、別の街へ移動しよう。
俺っちの左隣でうな垂れているJB。
俺たちと関わってしまったばっかりに大事な店を失ったJB。本当に申し訳ない。
「俺っち達と地道にバンド活動してギャラを貯めて中華飯店を再開しましょう!」
ポンっとJBの肩を叩く俺っち。JBの体はゆっくりと傾きそのまま
岩の長いすから転げ落ち床に仰向けで倒れてしまった。
白目を剥いているがかすかに呼吸している。生きているが死んでいるように動かない。
「JB、どうした、JB!」
「復活のマントの副作用だな」
控え室に入って来るドラロンとガンガン。
「復活のマント?」
「ライブ中にJBが倒れただろ。そんときゴブリンが被せたアレだよ」
あの時のアメリカ国旗みたいなアレか!
ドラロンはポケットからスパナを取り出し壁目掛けて投げつけた。
スパナは壁にとまっていた蛾に命中する。
グシャっと潰された蛾が壁に貼りついたまま残っている。
「何だ、蛾か・・・誰かに見られている視線を感じだんだが・・・」
「半径5キロ以内にヒューマンと思しき生体反応が1個あります」
「ガンガン、確認してきてくれ」
「かしこまりました、マスター」
シュタッという音を出しガンガンが高速で走っていく。
「すぐに気力、体力が復活するんだけどな。見返りとして
未来の3日分の気力と体力を消費すんだよ」
マジか!何でそんな呪い系のアイテムを・・・あっ。
「まさかとは思うけど・・・」
「あー、アレも俺様が作った。演奏をまだ聞きたかったからよ、
ゴブリンに持たせて被せてこいって言ったのよ、ガハハハハ」
あの危機はドラロンのおかげで乗り切っていたのね。
「ある高齢の貴族が若い女に惚れちゃってな。
若き頃の気力と体力を復活したいというから作ってやったのさ。
マントを使った次の日、死んじゃったけどな、あのじいさん。
まあ、死ぬ前に気持ちいいことできて良かったんじゃねーか、ガハハハハ」
アンコールの度に使ってましたけど、あのマント。
元S級クラスの冒険者でありヒューマンよりも魔力が多く
長命のエルフであるJBだったから助かったのだろうな。
ヒューマンが使うと危ないアイテムではあるが使い方次第では
幸福に死ねるかもしれない。
晩年、俺っちのエクスカリバーが機能しなくなったとき、死と引き換えだが
復活のマントを借りるかもしれない。
遠く離れたある場所で恐怖で震えている人物がいた。
全身ピンクの戦闘タイツで身を包み筋骨隆々のヒゲ男。
「あのオートマターは・・・」
脳裏に浮かぶ恐怖の光景。
右手には頭を潰されたレッド。
左手には首の骨を折られたブルー。
後ろの壁には投げつけられたトマトのようにつぶれているイエロー。
目から出た光線で撃ち抜かれるグリーン。
そして、金玉を蹴り上げられているピンク。
時間にして3分もない。世界最強と言われたセーフティレンジャーが数分で壊滅。
あの危険な人形・・・レディー・ガンガン。私だけ、私だけ奇跡的に助かった。
セーフティレンジャーとして苦楽を味わった戦友たちと同時に失った男の勲章。
股間を押さえながら震えるピンク。
「落ち着け・・・落ち着きなさいピンク」
ドラロンにレディー・ガンガン、そしてドラロン作の楽器。
そして前回よりも多い魔族の観客。何かが動き始めている。
「教会に早急に報告しなくては!」




