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異世界転生

目を開けると知らない西洋人のおっさんとキレイな女性が俺っちを覗き込んでいた。

「おおっ、可愛いレニー、パパでちゅよ~」

「目元はあなたそっくりね」

断片的な記憶。アッキーの笑い顔。赤いルージュの真央ちゃん。

目の前を包む眩しい光。よくわからないがなんだか眠い。

とにかく今は何も考えずこのまま眠ろう。

3才の時。

鏡に映っている姿は中世ヨーロッパのような衣装に西洋人の顔。そして金髪。

可愛い男の子だ。何気に椅子の上に置いてあったリュートを流暢に弾いてみせた。

両親はびっくりした表情をしていた。特に父親のジョンは大変な喜びようだった。

「天才だ!この子は我がグラディウス家最高の吟遊詩人になるかもしれん」

どうやらグラディウス家は代々吟遊詩人の家系であり音楽を生業としているようだ。

夢の中にいるのか?それともこれは現実か?

3才の頭では深く考えることはできなかった。

4才の時。

母親のカレンが絵本を読んでくれた。内容は悪さをした子供が魔族に食われる

という恐ろしい話だ。いたずらをしたり言う事を聞かないと

「魔族に食ってもらうぞ!」

というのがこの異世界での子供に対する典型的な脅し文句だったりする。

「ママは魔族に会ったことがあるの?」

「ママはいい子だから魔族に会ったことはないわ」

5才の時。

少し記憶が安定してきた。どうやら俺っちこと斉藤一樹、通称カズキ29才は

交通事故に会い死亡、そして異世界へ転生したらしい。

リュートが弾けたのは転生前のギターの記憶というか体が覚えていたというか。

エレキギターみたいにならないかとリュートに雷系の魔法をイメージして流してみた。

ギュイイイイン!おっいい感じ。雷系の魔法を無詠唱で発動した姿を見たジョンは

「天才だ!この子は我がグラディウス家最高の吟遊詩人になるかもしれん」

と言っていたがこれ以上俺っちの魔法の才能が開花することは無かった。

異世界転生ものでよくある才能開花後、可愛い女の子に囲まれるハーレム生活は

俺っちには約束されていないようだ。

あるのは転生前の記憶とギターの弾き方、ちょっとした楽器の知識。

この世界には存在しない転生前の楽曲をいくつか知っているくらいだ。

しかし、このリュートに雷系の魔法を流しエレキギターのように弾く能力こそが

俺っちに与えられた転生ボーナスであることを知るのは15才になってからだった。

6歳の時。

隣の空家に同じ年齢の女の子が母親と一緒に引っ越してきた。

名前はマリン。おさげの栗毛、目の色は淡いブルー、白い肌、可愛い子だ。

マリンとは歳が一緒ということもあり、すぐに仲良くなった。

マリンの母親はかなりの美人だった。ジョンはいつも鼻の下を伸ばし、

いやらしい目をしながらマリンの母親を見ていたっけ。

マリンの母親は貴族の愛人らしく、時折キレイな格好をして出かけていった。

この世界の女性の結婚は早く12歳で結婚する女性もいるらしい。

「ゆ~や~けこやけ~の赤とんぼ~っと」

夕暮れ時、近所の小さい丘のベンチに座りリュートを弾いて赤とんぼ歌っていると

「いい歌だね」

俺っちの左隣に座りながら言うマリン。

「お母さんは出かけちゃったの?」

「うん・・・」

ご近所さんのよしみでマリンの母親の外出中は

我が家でマリンを預かることにしていた。

12才で愛人かも。今この場で押し倒して俺っちのものにしておけ。

転生前の俺っち、カズキがささやく。

しかしレニーの鞘付きのエクスカリバーは岩にガッツリ刺さったままで

まだ機能しない。

魔界村っぽい中世の甲冑を着たおっさん騎士が岩の前で体育座りをしている状態だ。

ああ、もどかしい。精神年齢は29才だが体は6才。体は子供、頭脳は大人。

あの有名子供名探偵もこんなモンモンムズムズな気持ちだったに違いない。

「さっきの曲はレニーが作ったの?」

「違うよ、僕の故郷の歌なんだ~」

「レニーの故郷?レニーの故郷ってここじゃないの?」

やばっ、何とかごまかさないと。

「あはっ、ごめん間違ったぁ~」

電流魔法エレキ、俺っちはそう名付けたよ。

エレキをリュートに流しギュイイイイイイン!

「うわっ、すごい音だね」

「すげぇだろ、ロックンロール!」

「ロックンロール?何の意味?」

「特に意味はわからないけど、なんとなく、ね」

「意味わからないのに使っているの?面白~い、きゃはは」

マリン、笑顔がとってもキュートっす。

『お前さ、何かにつけてすぐロックンロールって言うけど意味わかってんの?』

アッキーもそんな事言ってたな~。アッキー元気にしてっかな。

7才の時。

この頃から吟遊詩人としての本格的な修行が始まった。

吟遊詩人なら誰でも知っている勇者の歌を最初に覚えるのだ。

魔力を込めて勇者の歌を歌うと何かいい感じにパーティの能力が向上していくらしい。

300年前、勇者が魔王に戦いを挑んだ。

戦いは10日、20日と続き、そして30日目に決着。

勇者が魔王を倒し石碑に封印ラララララ、みたいな内容で歌い終わるまで

30分かかる・・・7才で覚えきれるか!歌というより古典落語に近いわ!

紹介が遅れたが俺っちには5才年上の兄、グラディウス家長男のジョセフがいる。

俺っちと違いジョセフは聡明だったが残念なことに音痴で顔が不細工だった。

12才のジョセフは自分に吟遊詩人の才能がないことに早くから気がついていた。

俺っちはそんなジョセフとは反対に可愛く、そしてリュートを弾くのが上手かった。

そんな俺っちを父親のジョンはよく

「天才だ!この子は我がグラディウス家最高の吟遊詩人になるかもしれん」

と言っていたが、ジョセフはそれを暗い顔をして聞いてたっけな~。

そんなジョセフを母親のカレンは

「あなたにはきっと活躍できる才能があるわ」

と励ましていた。異世界でも母親は優しい存在なのだ。

8才の時。

転生前の記憶も結構はっきりとしてきた。転生前のヒット曲やら童謡やら

何気にリュートで演奏しているとジョセフが紙に何かを書いていた。

「レニー、今のところもう1回演奏してみてくれる」

ジョセフのこの紙に何かを書く行為が後に

グラディウス家最高の富をもたらすことになる。

9才の時。

15才になったジョセフが旅に出て3日後に帰ってきた。

そして部屋に引きこもり出てこなくなった。

グラディウス家では15才になると吟遊詩人として独り立ちするために

1年ほど家を出て修行することが慣例となっているらしい。

ジョセフはその修行に失敗したことですっかり自信をなくしてしまったのだ。

そんなジョセフを父親のジョンは3日で帰ってくるとは情けない。

一族の恥だ、お荷物だ、とけなしていた。

母親のカレンはジョンのジョセフに対する態度に憤りを感じていたが

亭主関白なジョンに逆らうことができず心を痛めていた。

そしていつものようにジョセフに言うのだった。

「今は耐えなさい、ジョセフ。あなたにはきっと活躍できる才能があるわ」

母親の励まし。これがなければジョセフの才能はきっと開花しなかったことだろう。

ちなみに15才になると冒険者ギルドへ登録できるらしい。

そしてパーティーを組み仲間と一緒に修行の旅へGOってなもんよ。

それと適正さえ合えばギルドで転職が出来るらしい。

俺っちも早く15才になってギルドへ登録し、吟遊詩人という職業から

戦士や魔法使いなどの華やかな職業へ転職し、この異世界を満喫しちゃうぜ。

なーんて能天気に考えていたわけだが、なぜジョセフが3日で帰ってきたのか。

吟遊詩人特有の悲哀を知るのは俺っちが15才になったときであった。

10才の時。

「これからの吟遊詩人は歌うだけじゃ駄目だ。笑いも取り入れないとな」

代々吟遊詩人の一家とはいえグラディウス家は単なる地方の芸人一家だった。

なぜ、冒険に出かけてモンスターやらお宝やらで稼がないのか?とジョンに尋ねてみた。

「我が家には我が家のやり方がある」

の一点張りで話をそらしまくるジョン。

さて、今日は父親のジョンにつれられ、ある結婚式についてきている。

グラディウス家の収入の多くを占めていたのは冒険ではなく結婚式での演奏だった。

新郎の功績をひたすらヨイショ、新婦の美しさを誇張した歌を演奏しているジョン。

演奏が終わったタイミングでジョンが言い放つ。

炎竜えんりゅうとといて吟遊詩人とときます」

「その心は~どちらも りゅう が入っています、ポキーンジャンジャン」

なぞかけ?いや、どちらも(りゅう)って何もかかってない。

なぞかけにもなってねーんだけど。ポキーンジャンジャンも意味がわからん。

殺意すら感じる冷たい空気で満たされる結婚式の会場。

やるしかねぇ、ここはあの手法をやるしかない!

「なんでだろう~、なんでだろう~」

と言い俺っちはリュートを演奏しながらところ狭しと動き回った。

今日の天気が雨なのは何でだろう~。ジョンのギャグが面白くないのは何でだろう~。

どっかんどっかん起こる笑い。式は大いに盛り上がる。

俺っちの活躍でいつもより多くのおひねりちゃんも得ることもできた。

式場の関係者からは次回もこんな感じでお願いしますよ、と好印象。

「ポキーンジャンジャンの面白さがわからないとは時代がまだ私に追いついていない」

ジョンは不満げに話していた。式場の隅っこでこれを見ていた一人の男がいた。

ジョセフである。引きこもりのジョセフをジョンが無理やり連れてきていたのだが

ポキーンジャンジャンでだだすべりしているジョンを冷静な目で分析していた。

そしてリュートを演奏しウケまくっている俺っちを。

「僕ならもっとうまくやれる」

この出来事がジョセフの運命を大きく変えることになる。

ジョセフは探し求めていた。音痴で不細工。自分の個性を発揮できる何かを。

2ヵ月後の結婚式の営業でジョセフはリュート漫談を披露する。

「あーあやになっちゃったポキーンジャンジャン」

ジョセフの不細工な顔とギャグがまいっちんぐマッチング。

どっかんどっかん起こる笑い。次回もジョセフさんでお願いします。

「天才だ!この子は我がグラディウス家最高の吟遊詩人になるかもしれん」

一族の恥、お荷物とジョセフをけなしていたくせに手の平返しがすごいぞジョン。

ジョンの吟遊詩人も笑いを取り入れるべきという方向性は合っていた。

笑いもとれる吟遊詩人。吟遊詩人がメインで笑いはおまけ。

ジョンが残念だったのは最終到達点が吟遊詩人だったことだ。この発想が

ジョンを吟遊詩人に押し留め時代が追いつくどころか時代に取り残されるのである。

そして時代はジョンにかすりもせずジョセフに追いついたのだった。

リュート漫談という唯一無二の武器を手に入れたジョセフの本当のすごさは

実はもう一つの才能にあった。覚えているだろうか?俺っちが8才の時の出来事を。

紙に何かを書いていたあれを。ジョセフはリュート漫談の傍ら、

俺っちが何気に弾いたり歌ったりした転生前のヒット曲を楽譜に起こしていた。

ジョセフは吟遊詩人としての才能はなかったが耳で聞いた曲を楽譜に起こす能力、

そして他人に歌わせることで楽曲を管理する才能にたけていた。

グラディウス家の本当の天才は俺っちではなくジョセフだったのだ。

後年こうねん、ジョセフの活躍によりグラディウス家は

吉○興行とエ○ベックスをたして2で割ったような巨大企業へと変貌を遂げるのだが、

これは俺っちの物語なのでジョセフの話は一旦ここで終わりとする。

「ポキーンジャンジャンを考えたのは私だ」

ジョンは死ぬまで言ってたっけな~。

11才の時。

夜中に大きな地震が起きた。遠くの山が赤く燃えている。

俺っちが住んでいる町は人口は約1万人程度の田舎町でサラダワンという名前だ。

中央都市のマダラスカルとサラダワンの間にはゴツゴツした山肌が露出した

グルビック山という山があった。

標高は高くはないがゴツゴツした岩肌が行く手を阻むため

隣町の中央都市マダラスカルに行くためにはグルビック山を迂回する必要があった。

そのためマダラスカルとサラダワンの往来は馬車で数日を要するのであった。

そのグルビック山が今赤く燃えている。

ジョンは慌てて避難の準備をしていたがジョセフは

「あの山は活火山ではないから噴火の恐れは無い」

と冷静に言っていた。ジョセフの言ったとおりグルビック山は噴火しなかったが

夜が明け朝日に照らされたグルビック山を見た人々は我が目を疑う光景を目にする。

グルビック山の高さは半分になり、2こぶラクダのコブようになっていたからである。

神の身業、魔王復活の狼煙、様々な噂が巷を駆け抜けた。

奇跡的に死人が出なかったことで、この件は

グルビック山の奇跡 と呼ばれるようになる。

2こぶラクダの谷間を整備したことで隣町のマダラスカルへ直線で行けるようになり

馬車で数日を要したマダラスカルとサラダワンの往来は大幅に短縮され

サイボーグ馬車で1日で行き来することが可能となった。

グルビック山の奇跡以降、サラダワンはマダラスカルの

ベットタウンと化し発展していく。

よくわからなかったのは、この時にみかんが高騰したことだったが

俺っちがことの真相を知ったのはこれまた15才になってからである。

12才の時。

マリンとの突然の別れがやってくる。

「私、ある貴族の愛人ってやつになるんだ・・・」

女の子の成長は男の子の成長よりも早い。

マリンは6才の頃と比べると背丈も伸び12才には見えないほど美しく成長していた。

「お別れにあのときの歌、歌ってくれない?」

「あの時のって?」

「ほら、夕焼け小焼けの」

「ああ、赤とんぼか」

俺っちはしっとりとしたメロディーで赤とんぼを歌う。

なんだか涙が溢れだしてきた。赤とんぼの歌詞って何だか悲しい・・・とかじゃなく

これから始まる幼馴染とのあんなことやこんなこと。

もう、駄目なんだぞレニーとか、私のことだけ見なさいよとか。

幼馴染とのツンデレイベントは無しってやつですか!悲し過ぎるぅ~。

「歌・・・ありがとう。それじゃ、元気でね、レニー」

そう言いながらマリンは俺っちのほっぺにキスをした。

「あっ、こういうときは・・・元気でね、ロックンロールだったかな」

そう言い残し母親と一緒に迎えの馬車に乗って行ってしまった。

「マリンちゃんも元気で、ロックンロール」

転生前のカズキの頃からを通じても一番美しくピュアな思い出。

さようならマリンちゃん、さようなら俺っちの異世界の初恋。

13才の時。

ジョンが我が家に代々伝わる家宝のリュートを見せてくれた。

「いいかレニー、これを持ち出し売ろうなど絶対に考えるなよ」

14才の時。

「いいかレニー、これを持ち出し売ろうなど絶対に考えるなよ」

しつこいほど持ち出すなというジョン。これは何かのフリだろうか?

14才にもなると色んなことがわかってくる。子供の頃に悪いことをすると

魔族に食われると脅されていたがこの歳になるまで実際に魔族に会ったことがない。

迷信に近いのかとも思ったが、勇者の歌の魔王は史実らしいのだ。

「魔族?会ったことはないぞ」

とジョンは言っていたがジョセフ曰く

「こんな田舎町に魔族が出てくることは滅多にないが魔族は危険だ。

遭遇したらとにかく逃げろ」

15才の時。

身長も175センチになり細身でスラッとした体型に成長した俺っち。

ロックンローラーなら長髪だろうけど、ここは異世界。

色々と不便なこともあり長髪は手入れが大変なので短髪にしている。

さて、独り立ちするため1年間修行の旅に出ることをジョンに言い渡された。

グラディウス家の慣わし、ジョセフが3日で帰ってきたやつだ。

吟遊詩人の仕事の厳しさを身をもって知るため、なのだそうな。

わずかばかりの路銀、食料、商売道具のリュートを持ち俺っちは実家を旅立った。

ジョセフはこの修行に失敗し3日で実家に帰り引きこもりとなったが

リュート漫談に成功した彼は今や一家の稼ぎ頭だ。

人生どうなるかわからない好例だな。

しかし純銀貨5枚でどうしろっていうのよ。そりゃ~ジョセフも3日で帰るわ!

簡単にこの世界での貨幣価値とやらをざっくりと説明しておこう。


銅貨 1枚=10円

銀貨 1枚=100円

純銀貨1枚=1000円

金貨 1枚=1万円

純金貨1枚=10万円

印刷技術は未発達なのでお札は無し。


つまり純銀貨5枚は日本円にして5千円に相当する。

続けてこの異世界の様子をざっくりと説明しておこう。


異世界の世界地図は転生前の世界地図とほぼ同じ。

国家名も人種も似ており少し国境が違うがほぼ同じ。

貨幣価値、平均給与、経済の規模もほぼ同じ。

ファンタジー要素は定番の異世界ものとほぼ同じ。


ちなみに、俺っちが住んでいる場所はヨーグルッペ大陸のドルチェ国。

転生前の世界だとヨーロッパ大陸のドイツあたりかな。

こちとら転生前はロックンローラーよ。

職業、吟遊詩人を名乗りながらクソだせぇ歌なんか歌ってられるかよ。

『カズキ、お前にはわかんねーんだよ、代々続く家業の重みってやつが』

アッキーごめん、代々続く家業の重み、俺っちわかんねー。

この修行の旅で実家のしがらみとはおさらばってなもんだ。

1年どころかもう帰らねーからよぉ。

『いいかレニー、これを持ち出し売ろうなど絶対に考えるなよ』

はい、持ち出しました~。

もう帰らねーから実家に代々伝わるリュートを売っぱらってもなーんも問題なし。

「銅貨5枚?」

「そう5枚」

俺っちは今、サラダワンの町の道具屋にいる。銅貨5枚ということは日本円で50円。

「何かの間違いじゃないっすか?だって家宝のリュートっすよ」

「ボウズ、こいつは偽物だよ。ジョンに一杯食わされたな」

「偽物?そんな馬鹿な・・・」

「なぜわかるかって?

そりゃ、ボウズ、お前のおっとうのジョンもその昔同じ手に引っかかってんだよ」

あのくそ親父!自分が受けたトラップを息子にもやるのか!

「ジョセフも同じことをしたんっすか?」

「いや、ジョセフはやってねーな~」

うおっ、ジョセフはやってないとな。ということは俺っちはジョンと同じ思考回路か。

異世界に転生した際、ジョンの遺伝子の一部を引き継いだか・・・何気にむかつく。

「需要と供給ってわかるかい?

この周辺で吟遊詩人しているとのはボウズんところのグラディウス家くらいなもんだ。

リュートの売り先は限られている。つまり売れねーんだよ」

「じゃあ何で銅貨5枚なのさ」

「俺の優しさだ、カッカッカッカ」

持ち歩くのも面倒だ。グラディウス家の悪習は俺っちの代で終わらせる。

「銅貨5枚でいいっす」

   ●

「吟遊詩人以外の職業には就けませんね」

若く綺麗な受付の女性がにこやかに言い放つ。

俺っちはサラダワンに1件しかない冒険者ギルドに来ている。

ギルド登録したことでステータス画面を展開することができるようになり、

さっそく目の前に俺っちのステータス画面を展開してみると

職業欄に吟遊詩人と書かれてあり、一つ空白をあけて固定と書かれてある。

「職業選択の自由は?」

「残念ながらありません。

ちなみに吟遊詩人以外のステータスは伸びないようになっていますね」

奥に座っていた40代くらいの女性スタッフが驚愕の事実を教えてくれる。

「あんた、知らないのかい?グラディウス家は何の因果かわからないが全員・・・」

息をのむ俺っち。

「全員・・・吟遊詩人にしかなれないのさ」

『カズキ、お前にはわかんねーんだよ、代々続く家業の重みってやつが』

アッキーごめん、代々続く家業の重み、俺っちなめてましたあぁぁぁぁー。

いや、待て!これは重みなのか?むしろ呪いだろ。ということは

俺っちは一生、吟遊詩人として生きていくしかないのかよ・・・。

あれ?ランクが空白になっていて何も表示されていない。

普通、AとかBとか書かれてね?

「ランクに何も書かれてないんっすけど」

受付の女性がにこやかに応える。

「ギルドの依頼を地道にこなしていけばその内ランクが表示されますよ」

なるほど、この辺はよくある異世界ものの流れという奴か。

ここは冒険者ギルドだ。ちゃちゃっとパーティーを組んでレベルを上げて

これから起こる楽しい異世界冒険ライフを堪能するのもいいかもな。

俺っちの左隣で冒険者登録をしている俺っちと同じ年齢の男性に右手で握手を求めながら

「吟遊詩人のレニーだ。ここで会ったのも何かの縁。パーティー組もうぜ」

「いや、吟遊詩人はちょっと・・・」

そそくさとその場を去っていく男性。右隣で登録をしている女性に

「吟遊詩人のレニーだ。ここで会ったの」

強めの口調で

「間に合ってます!」

その場を去っていく女性。

パーティーを組もうというオーラを発するだけでギルド内で孤立する俺っち。

なるほど・・・ジョセフはこのプレッシャーに勝てなかったのか。

確かにな~吟遊詩人ってゲーム序盤で普通選らばないもんな~。

ゲーム終盤である程度パーティが強くなったら、ちょっと使ってみるか、

てきな、てーきーなー職業だもんな~。

そんな吟遊詩人にしかなれない俺っち。

パーティーを組んでもらえずこれから先・・・どうする?

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