潜入、スペランカ洞窟
スペランカ洞窟最深部でうごめく物体。メルティピッグか?いや体の色が違う?
オレンジに近い赤のメルティピッグが炎を吐いている。
暗闇に浮かぶ顔。この顔は確か魔槍士ドグマに首を跳ねられた男だが様子がおかしい。
メルティピッグが吐き出す炎が照らし出したその体は
首から下がサラマンダータイガーになっている。
洞窟の奥ではサラマンダータイガーがサラマンダータイガーを襲っている。
襲っている方のサラマンダータイガーの上に人が乗っている?いや同化しているのか。
ドグマに気絶させられ紫色のうごめく物体を体内に入れられた男の上半身が
サラマンダータイガーの上に乗っかって同化している。
両手はサラマンダータイガーの顔と同化しており両手を前に突き出すと
地獄の番犬ケルベロスのようになる。3つの顔から吐き出される炎は
通常の3倍、いや相乗効果で何倍になっているかわからない。
業火となり別のサラマンダータイガーに襲い掛かる。
炎に体性があるはずのサラマンダータイガーの首から下は焼け焦げ黒い墨と化した。
焼け残った頭を拾い上げ、人間の胴体のお腹にくっつけると、
血管のようなものが絡み合い頭が人間の胴体と同化した。
それを見た人面タイガーは恐怖の表情を浮かべ反対方向へ走り出す。
何が起こっているのか?実験と言っていたがドグマはいったい
このスペランカ洞窟で何をしたのだろうか。
●
「あー死んじまったみてーだキー」
残念ながら女の子は死んでしまったようである。
「ゾンビにするにはまだ日が高すぎる」
上空を旋回していたキジキジが降りてきた。
「和尚!また洞窟に入っていきそうなパーティがやってきたキジ」
小高い丘から様子を伺う三三蔵蔵。
「ヒューマンの女二人と男一人、エルフの男、計4人か」
「女ぁ!女がいるブヒかぁ!」
ハッカイカイが鼻息荒く興奮している。
「女はやけに露出が高い服装をしてやがるな。男は何だ・・・吟遊詩人か?」
「露出が高い女ぁ!女ぁ!女ぁ!ブヒかぁ!」
「うるせぇ!黙ってろハッカイカイ」
「エルフは・・・どこかでみたことある顔だな・・・」
「女ブヒ!女ブヒ!女ブヒ!」
「思い出した!あのエルフ、鉄面宰相ジャックス・ブルーじゃねーか!」
「ジャックス・ブルーって誰キー?」
「知らねーのか。平和国家トリプルピース連邦国の宰相だった男だ。
魔法使いとしての腕はS級クラス。
小規模都市程度ならやつ一人で殲滅可能な実力者だ。
常に冷静沈着な男で感情を表に出さないことから付いたあだ名は鉄面宰相」
数年前に引退したと聞いていたが・・・ここに何しにきやがった。
まさかメルティピッグの肉を取りにきたってわけじゃあるまい。
女二人の服装も軽装過ぎる。吟遊詩人の若造も戦力とは思えん。
「女ブヒ!女ブヒ!女ブヒ!」
「うるせぇ!黙ってろって言ったろーがハッカイカイ!ゾンビにすんぞ!」
「す、すまねぇ和尚ブヒ・・・」
三三蔵蔵が怖いのか大人しくなるハッカイカイ。
あのパーティには何か嫌な予感がする。
「ジャックス・ブルーがいる時点で俺達に勝ち目はねえ」
「女がいるパーティはやらないブヒ?」
「ダメだ!最初に入っていったパーティを狙うぞ!」
洞窟内を歩くモモのすけ達、4人組。
先頭をモンモン、2番手をワンセブン、3番手をサゴチッチ、
4番手のしんがりをモモのすけの順番である。
先頭には明かりが灯っている球体が浮かんでいる。何かに気がつくモモのすけ。
「一体焼かれた。近くにいるぞ、警戒しろ」
ガルルルル~・・・トラのうなり声が聞こえる。
「モンモン、構えてくれ。5秒前、5、4、3、2、1、今だ!」
「伸びろ如意棒」
真っ直ぐに伸びていく如意棒。
曲がり角から出てきたサラマンダータイガーの眉間にガツンと当たる。
ニャーと猫のような鳴き声を上げ逃げ去るサラマンダータイガー。
「ナーイス!さすがモンモン、ドンピッシャ」
「殺さないのキー?」
「俺たちゃレッドちゃんを探しにきただけでモンスターハントしにきたわけじゃねぇ」
「無益な殺生は好まないワン」
「そういう事ぉ~」
「暑い・・・死にそうカッパ」
洞窟内は蒸し暑い。これはサラマンダータイガーがメルティピッグを捕食する際
サラマンダー級の炎を出すことで空気が暖まり、洞窟内にこもるからである。
モモのすけは額の汗をふき取りながら
「本当、お前は暑さに弱ぇ~よなサゴチッチ。使えねーやつぅ~」
「モモのすけ、水辺の近くを歩く時は背中に気をつけカッパ」
「そんな可愛い状態のサゴチッチに言われても全然怖くねぇ~ってか」
「おっ、また1体焼かれた。今度はもうちょっと深い階層だな」
「レッドとかいう女、いったいどこにいるんだワン」
●
「おかしい。メルティピッグとサラマンダータイガーに出会わないですね」
洞窟に入ってから約1時間が経過したと思われるが
俺っち達は今回の最大の目的であるメルティピッグに遭遇していない。
「何だあれは?」
前方に人型の白い物体が歩いている。背丈は140センチくらいかな。
ゆっくりと歩いては止まり、90度回転してまたゆっくりと動いている。
隅っこに行きぶつかりそうになると向きを変えて動いている。何かルンバみたいだ。
無造作に雷神子が持ち上げる。足を前後に動かし空中で歩いている。
そして地面に戻すとゆっくりと歩き出す。
「式神というやつですね。
東洋の島国ジャピンという国を旅した際、見たことがあります」
JBはジャピンも旅していたとはすごいねぇ~。
ジャピンと言えば彩姫の故郷ではないか。
そして多分、日本っぽい感じ。転生前と異世界ではどう違うのか興味がある。
一度は訪れてみたいところだ。
「どうやら先行パーティがいるようですね」
「先行パーティが全部モンスターをやっつけちゃったんじゃねーっすか?」
「可能性はゼロではないですがモンスターの数を考えると現実的ではないですね。
それと先行パーティが善だとは限らないから用心した方がいいでしょう」
「そのときはあたいらが蹴散らしてやんよ、うらっ!」
雷神子は回し蹴りを勢いよく繰り出した。
バチン!と式神に蹴りが炸裂し式神は消えてなくなった。
「あっ・・・やっちゃった」
てへぺろっと雷神子。
「まずいですね。今ので我々の存在が相手に伝わったかもしれません」
●
「ん?後方に放っておいたやつが一体消えた」
「サラマンダータイガーキー?」
「いや、なんつうーか刈り取られたっつーか、蹴りを食らったっつーか」
「レッドじゃねーのかワン?」
「可能性はある。前進する前にレッドちゃんかどうか確認する必要があるな。
式神をやったやつが善だとは限らないしな。
後ろを取られた状態で前進するのは危険だ。
まずは後方の式神をやったのは何なのかを確認してから先に進むぞ。
用心に越したことはねぇからな」
「モンモン、ワンセブン、いつものコンビネーションで確認してくれ」
「了解キー」「了解ワン」
モンモンは髪の毛を数本むしり取り口元にもってきて息を吹きかける。
すると髪の毛は猿へと変化した。
「行けキー」
号令とともに走っていく猿たち。
「万感鼻感」
鼻の感度を上げるワンセブン。万が一に備えて隠れ蓑を作っておくか。
腰袋から人型の紙を10枚取り出し
気毘団子を10個乗せ、顕現せよ!と術を発動するモモのすけ。
10体の人型の式神は5体ずつ分かれ、
内側の5体は左回りで、外側の5体は右周りで、
モモのすけ達のパーティの周りをグルグルと回りだす。
外側と内側の輪の距離は1メートルくらい。
「サゴチッチは俺の後ろに隠れてろ」
「すまねぇ、モモのすけ」
暑さでヘロヘロのサゴチッチ。
「モモ式陰陽道 桃色雲隠」
回っている人型の式神が桃色に光りだす。式神が高速で回り始めると
モモ色の光が大きくなりモモの形をしたドームが出来上がった。
「桃色雲隠、セッッット!」
モモのすけが気合いを発するとモモのドームは周りの景色に溶け込んでいった。
俺っち達は洞窟深部へと少しずつ降りていく。
先頭は風神子、2番目はJB、3番目は俺っち、4番目のしんがりは雷神子だ。
「まだ見つからないのかよ豚ちゃんは?」
後方でしんがりを勤める雷神子が退屈そうにしている。
「おかしいですね、ここはメルティピッグが多数確認されてるところなんですが」
先頭を歩いている風神子が何かに気が付く。
風の微妙な流れで物体や異常を感知するらしい。レーダーみたいなものだな。
「この先200メートル付近に4人組みのパーティがいるわ。
それと・・・まだよくつかめてないけど最深部あたりに数匹のモンスターがいるわ。
一体は・・・結構大きいわね。ここのボスかしら?」
「最深部まで行くんっすか?」
「心配すんなって、俺達姉妹にかなうモンスターなんか、この洞窟にいねーって」
JBがさらりと言う。
「監視されていますね」
「あら気が付いていたの、やるじゃないJB」
「こう見えても昔は冒険者として名をはせておりましたので」
雷神子は数メートル先の岩陰を指差し
「あの辺りに3匹いるな~、生命反応が微妙だから分身体か何かだな」
全然わかりません!会話についていけません!
襲われたら絶対真っ先に死ぬ役、主人公だけどそれが今の俺っちです。
岩陰に隠れて様子を見ているモンモンの分身体。
モンモンの分身体とリンクし、分身体の鼻を通じて遠くの臭いを嗅ぎ沸け、
立体的に感知する能力、それが万感鼻感である。
モモのドーム内。外側は桃色の壁に囲まれているが中から外は見える。
いわゆるマジックミラーというやつだ。
「ヒューマンが一人・・・若い男だワン。
それとエルフが一人・・・こいつも男だワン。
それと・・・この二人は種族の判別が付かないが・・・多分、女だワン」
「女! 若くて可愛いか?」
「そこまではわからないワン。あと数十メートルで俺たちと合流するワン。
5メートル、4、3、2、1・・・0」
先頭を歩く風神子がモモのすけ達が隠れているフロアーに姿を現す。
風神子の姿を視認した瞬間
「あとのことは頼んだぞ!」
モモのすけは桃色雲隠から飛び出し猛ダッシュで風神子へと向かっていく。
「モモのすけキー!」「モモのすけワン!」「モモのすけカッパ!」
ひょうひょうとしているが普段のモモのすけは
「用心に越したことはねぇからな」
が口癖の用心深い男である。この用心深さでパーティの危機を何度も乗り越えてきた。
そしてその判断力の高さからリーダーを任されているのだが・・・。
色白の若くて綺麗な女性にめっぽう弱いのであ~る。
風神子の体を左手で支え、斜めに抱かかえるモモのすけ。
「君のためなら死ねる」
「あらそう、じゃあ今死んで」
風神子はふっと息をモモのすけに吹きかけた。弾丸のような空気弾が発射される。
首を横に振って避けるモモのすけ。
右頬を掠めた空気弾が後ろの壁にぶつかりパチンコ玉くらいの穴があく。
「どわっつ!出会ってすぐに殺す系ですか!」
「あら残念」
JB曰く
「おや、ジャピンの侍のようですね」
本当だ、侍の格好をしている。東洋人のような顔立ちだ。
「しまった、いつもは慎重な俺としたことが
この色白の綺麗なお嬢様に思わず飛び出してしまったぁ!」
最後尾にいた雷神子がひょいっと現れる。
「誰だお前?」
「モモのすけと申します。
おお、こちらはギャル系ではありますがなかなかの可愛らしさ。
しかし、残念ですが俺の好みはやはりこちらの色白のお嬢様ですな」
雷神子の顔が引きつる。
「お前、面白いやつだな~」
バチン!バチバチン!雷神子の体から高圧電流が発せられる。
脇差を空中に投げ捨てながら瞬時に風神子から離れるモモのすけ。
空中に投げ捨てた脇差が避雷針代わりになり難を逃れるモモのすけ。
「どわっつ!こちらも出会ってすぐに殺す系ですか!」
「自分の方が好みじゃないと言われたくらいで
殺そうとするなんて野蛮ですわよ、雷神子」
「はぁ?お前もこのアホを殺そうとしてたじゃねーかよ、風神子」
「ほほう、風神子ちゃんに雷神子ちゃんというのかぁ~」
「これで私の方が綺麗なことが、また証明されましたわね、雷神子」
「何言ってやがる、双子なんだからどっちも綺麗に決まってんだろうが、風神子」
「いいえ、さわやかな風が気品となり綺麗さへとつながるのですよ、雷神子」
「お前なぁ~その上から目線の態度、前からムカついてたんだよな~、風神子」
「あらそう?私はあなたのその粗暴さが前からムカついてましたわ、雷神子」
んっ? 何? どうした? 何が起こってる?
空気が風神子の方に集まっていく。雷神子の周りでパチパチと音がしている。
「お嬢様達、俺のせいで言い争うのはやめたまえよ、ははは」
これから怒る惨劇も知らず能天気なモモのすけ。
風・雷「どちらが綺麗か今この場で・・・」
「決着をつけましょう、雷神子!」
「決着をつけてやんよ、風神子!」
スペランカ洞窟。こけるだけで死ぬかもしれないネーミングの洞窟。
どちらが綺麗かという些細なことがきっかけで始まった姉妹喧嘩により
スペランカ洞窟は今から地獄と化す。




