それぞれの道、そして転生
ある人物が人間関係の要だったりすることがある。
その人がいることでつながっている人間関係。
集団の中にその人がいることによって成り立つ和。
そんな人間が俺っちの親友の明男ことアッキーだった。
「俺、バンド辞めて田舎に帰ることにした」
アッキーの実家は昭和時代から続く老舗の和菓子屋でアッキーは長男だった。
「親父が病気で倒れちゃってさ。おふくろ一人じゃ店を切り盛りできねーんだ。
妹もいるし、弟はまだ中学生、長男の俺が家業を継がないと。
俺も来年30になるし、いつかこういう日が来るかもと思ってはいたんだ」
「でもよ~アッキー、ロックンロールじゃねぇよ」
自己紹介が遅れたけど、俺っちはこの物語の主人公レニー・グラディウスの転生前、
名前は斉藤一樹、通称カズキ。
アッキーと出会ったのは調理の専門学校。アッキーは家業の和菓子店を継ぐため。
俺っちは特に何の目標も無く手に職を付けておくか程度での入学だった。
何度か話しているうちに意気投合。お互いバンドに興味もあった。
俺っちはギター、アッキーはドラムでバンドを組んだのがお互い19才のときだった。
専門学校卒業後は仕事を転々としながらバンド活動を続ける日々。
アッキーの人柄なんだろうか。気がついたらボーカルとベースが加わり
4人になったのは俺っちが21歳の時。このときバンド名を無限大という意味の
インフィニティにした。途中、ボーカルの入れ替えがあったが
バンド活動10年目にしてのアッキーの引退宣言だった。
今じゃ全員30代手前。メジャーデビューは遥かかなた。
俺っちもいつかこういう日が来るかもと思ってはいたけど今じゃねーだろ・・・。
「家業継いでもバンド活動できんだろ?」
「カズキ、お前にはわかんねーんだよ、代々続く家業の重みってやつが」
「アッキー、ロックンロールじゃねぇよ」
「お前さ、何かにつけてすぐロックンロールって言うけど意味わかってんの?」
人間関係の要であるアッキーが抜けたインフィニティの和が乱れる。
「ほかのバンドから誘われていてさ」
といいながらベースの男性が抜けていった。
「私、今晩同伴出勤だから無理~」
ボーカルの女の子もキャバクラのバイトが忙しいとかで来なくなり
2ヵ月後、インフィニティは自然消滅してしまった。
夜の歓楽街をギターを背負ってトボトボと歩く俺っち。
反対側の歩道で10代の男の子が一人で路上ライブをしている。
「あんな時代もあったな~」
バンドとは全然関係ないけど俺っちはアイドルの
尾張田 真央ちゃんの大大大ファンだったりする。
アッキーとのこんなやり取りを思い出す。
「真央ちゃんはいつまで経っても可愛いよな~」
「ばーか、真央ちゃんだっていつかはババアになんだよ」
「真央ちゃんは年を取らねーからっ!」
車のクラクションや雑踏の音。
メインストリート沿いの化粧品店の横を通る。
化粧品店の大きなショーウィンドウの中にはいくつかの化粧品と一緒に
真央ちゃんの大きなポスターが貼ってある。
ルージュの広告。ぷっくり唇に真っ赤なルージュ。
俺っちが真央ちゃんの大ファンになったのは10才の時。
その時の真央ちゃんは15才。あれから約20年。
今年で御歳35才の真央ちゃんはどうみても10代でもいける。
「アッキー、やっぱ真央ちゃん、年取らねーって」
俺っちも29才。今まで通りバイトを掛け持ちしながら音楽活動するのも楽じゃない。
定職についてリーマンやって落ち着いてそういう人生あり・・・じゃねぇな!
「終われねーっ。こんな形じゃ終わらせねえ」
真央ちゃんのポスターを見つめ決意する俺っち。
「バンドメンバーを集めインフィニティを再結成するしかねぇ!」
飲酒運転の乗用車がブレーキ音を出さずに化粧品店に突っ込んでくる。
眩しい光が俺っちの視界を包む。