グルビック山の奇跡の真相
「毒殺姫!湖を解毒しとけよ!ったく・・・油断も隙もありゃしねぇ・・・。
ええっと何の話だったっけ?」
「自走式にして欲しいのだよ」
「自走式だぁ」
「持ち運ぶのが面倒だから自分で歩けるようにドラムを改造して欲しいのだよ」
「簡単に言いやがって」
「どうせ暇だろ」
「暇じゃねえよ!こう見えても庭を手入れしたり道具メンテしたりやることあんだよ。
メルト、お前と一緒にすんな!」
「魔琴ちゃんみたいに贄を使って魂を定着させればいいのでは」
「ぐわし、ぐわし」
「はぁ~、相変わらず気色悪いよな、あれ」
気分が悪そうな顔で彩姫の後ろを付いて回る魔琴ちゃんを見るドラロン。
「通常、あの手の動くやつは贄を必要とする」
「あの~ニエってなんっすか?」
「生贄のことさ」
「呪いのぬいぐるみを知ってるだろ?あれも使ってるのさ、贄を」
マジ?あれ生贄で動いてんのかよ。
「簡単ないたずら程度ならネズミくらいでいいんだけどよ。殺人までこなすとなると
人間の贄が必要になる。魔琴ちゃんの場合は人間の贄を20人ってところか。
ただ人間は感情が豊かなため魂を定着させるにはレアアイテムが必要なんだよ」
魔琴ちゃんを連れた彩姫がこちらにやってきた。口角を少し上げ得意げに
「わらわの3月3日の誕生日を祝って父上がこしらえてくれたものじゃ。
謀反を起こした将軍とその妻、3人の官女、5人の侍、7人の農夫。
そして特別に5体の血染めの白馬を生贄とし怨嗟の布で閉じ込めた一品。
怨嗟の布が紅白なのは誕生日という祝い事ゆえの父上の粋な計らいじゃ」
うれしそうに話す綾姫をドラロンは苦いお茶を飲んだときのような表情で見ながら
「魔琴ちゃんの場合、怨嗟の布がレアアイテムにあたる。
しっかし野蛮だね~、俺の美学に反する」
おっかね~・・・魔琴ちゃんって20名近い人間が生贄になってるのかよ。
「森へ散歩に行ってくるのじゃ」
「言っておくが森に毒を散布しやがったら魔琴ちゃんをぶっ壊すからな!」
魔琴ちゃんを連れて森の方へ歩いていく彩姫。
彩姫の後ろをついて回る姿は大型犬の散歩のようにも見える。
「通常はコスパを考え贄は猿止まりだが猿の中でもやっかいなのは・・・」
ゴソゴソっと1階にある庭の草陰で音がする。
ドラロンはズボンのポケットに手を入れスパナを取り出し
音がした場所めがけて投げつけた。草陰から飛び出し逃げ去る呪いのぬいぐるみ。
「ちっ、はずしたか。あれは猿を贄にしたやつだな。猿は避けやがるんだよ」
呪いのぬいぐるみは脇に木の実か何かを抱えている。
「ガンガーン」
「はい、マスター」
ガンガンの両目から光線が解き放たれる。呪いのぬいぐるみは脇に抱えた木の実を
投げつけ逃げようとしたがガンガンの放った光線は
木の実ごと呪いのぬいぐるみに命中した。
キキーっと猿の鳴き声を発し黒こげになった呪いのぬいぐるみはその場で灰になった。
「あっ、持ち帰りたかった?」
「いえ、いいっす・・・」
ガンガンにあんな武器が仕込んであるとは、ガンガン怖ぇ~。
「今、木の実を投げつけてたろ。あれは猿の中でもやっかいな抱きかかえ猿だな」
「抱きかかえ猿?」
「逃げるときに近くにあるものを抱きかかえ、逃走のときに利用すんだよ。
道具を使うんだよ道具を。それだけ知能が高いってことよ。更にやっかいなのが、
ほら、お前たちヒューマンにもいるだろ、百万人に一人とか、そういう単位での
天才ってやつが。猿にもいるんだよ、百万匹に一匹みたいな天才猿が」
「天才猿を贄にした呪いのぬいぐるみは超やっかいってことっすか?」
「その通り。まあ一番やっかいなのは人間を贄につかった呪いのぬいぐるみだけどな」
呪いのぬいぐるみにも色々あるのね、とこのときは呑気に思っていたが
数日後に起こるある事件で俺っちはその天才猿に恐怖することになる。
「武器や防具ならイエチェで十分だが自走式となると
最低でもブルチェが1個は必要だ。
ガンガンのような知性があるオートマターならレッドチェは必須。
ちなみにガンガンはレドチェを2個使っていてな、完成に100年を要したぜ」
「ドラロン、ブルチェって何っすか?」
ドラロンはブルチェについて丁寧に説明してくれた。
チェッペリンはドラゴンが死に魔鉱石に結晶化したものである。
イエローで10年、ブルーで100年、レッドで500年以上
必ず結晶化するわけでもなく、その大きさもまばらである。
イエローチェッペリン(イエチェ)について。
市場に出回っている。大きさはピンポン玉くらい。
時価ではあるが概ね純金貨千枚(1億円)。
ブルー・チェッペリン(ブルチェ)について。
市場には出回らない。大きさはピンポン玉くらい。
イエローチェッペリン千個分(一千億円)の価値がある。
100万人規模のヒューマンの都市のエネルギーを百年まかなえる。
レッド・チェッペリン(レドチェ)について。
市場には出回らない。大きさはビー玉くらいと小さい。
価値が計れない。国家予算レベルと言われている。
「何個あればいいんだい?」
「そうだな・・・自走するのにブルチェ1個。変形を制御するのにイエチェ1~2個。
音を出す調整にイエチェ1個。全部でブルチェ1個にイエチェ3個だな」
「じゃあ、これでいいかい?」
88は青い魔鉱石を4個テーブルの上に置いた。
「ブルチェ4個とは気前がいいな」
「それからこれは私からの依頼料だよ」
そういいながら88はピンポン玉くらいの大きさの
赤い魔鉱石を1個テーブルの上に置いた。
赤いルビーのようでもありアメジストのようでもあり。
「レドチェじゃねぇか!しかもデカイ!。マジでいいのか!」
椅子から転げ落ちそうになるくらい驚いた顔のドラロン。
これがビー玉くらいの大きさで国家予算レベルと言われるレドチェかよ。
ピンポン玉くらいのレドチェって、いったいいくらするんだよ。
「千年ものだよ。もう一体ガンガン級のオートマターを作りたいと言っていただろ」
「返せって言われても返さねーぞ!」
「別に構わないよ。私が持っていても使い道がないからね」
千年前のあの日。
「退屈だ、退屈で仕方ないよドラロン」
沢山の魔族の屍の上で悲しそうに言うメルトの姿をドラロンはふと思い出していた。
メルト・・・今のお前、少し楽しそうだな。
「今後も色々と無茶なことを頼むことになるからね」
「メルト、おめぇが言うとすげぇ怖えんだよ!」
「ところでドラロンはなぜこんな山奥に住んでるんっすか?」
深い意味は無く流れというか軽い世間話程度で聞いてみただけなんだが
ここで俺っちが11才の時に起こった
グルビック山の奇跡の真相を知ることになるとは。
「4年くらい前はマダラスカルに住んでいたのよ。
ほら、あのチャーハンのお店、なんっつったかな~」
「JB中華飯店っすか」
「そうそう、それよそれ。あそこのチャーハンにはまってな~」
なるほど、それで今でもJBの店からテイクアウトしてるのね。
「製作中の剣に仕込んだ武器の調整にちょいっと失敗してな。
グルなんとか山を吹っ飛ばしちゃたのよ」
開けたところで剣を振ったドラロン。右後ろにはガンガン。
前方にあるグルビック山が二こぶラクダのような形になっている。
爆風を受ける二人。
「あーちょっと火力上げすぎちゃったかな~」
「イエス、マスター」
マジか!あれはドラロンの仕業だったのか。
「みかん畑が結構あったみたいでよ~、全部無くなっちまったのよ」
なるほど、あの時みかんが高騰したのはこのせいだったのか。
「悪いと思ったから匿名で賠償金支払ってみかん農家とは示談が成立したんだけどよ。
数日後に、世界安全保証教会と名乗るやつらがやってきて、
俺様の武器を見せろ、調査させろ、ご安全に、ご安全にと毎日押しかけてくるのよ」
安全保証教会?なんだその交通安全の業界団体みたいな名前は。
「あいつらすんげぇしつこくてさ。頭に来て製作中の剣で
リーダー格のやつの頭をこついたらスパっーっと真っ二つになっちゃって。
次の日にセーフティなんちゃらとかいう5人組の戦闘部隊を連れてきてよ。
面倒だったからガンガンに相手してもらっている間に転移魔法で
今の場所に戻ってきたってわけよ。本当、あいつらしつこかったぜぇ~」