Mutual Pining
この物語は、文化放送のラジオ番組「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」内の企画「ゆいこのトライアングルレッスンM」に応募したショートストーリーです。
“両片思い”という言葉がある。
“両思いの二人が、互いに片思いであると勘違いしている状態”のことを指す言葉らしい。
それがその通りの意味ならば、俺の幼馴染であるユイコとタクミは、その“両片思い”の状態にある……のだと思う。
「ねえ、ヒロシ……タクミにあんなこと言っちゃって、嫌われてたらどうしよう」
ーーそんなに、さめざめと泣くな。心配しなくても、お前とタクミは両思いだよ。
「なあ、ヒロシ。ユイコにあんな風に言われて、俺、嫌われてんのかな」
ーーしょんぼりするな、らしくもない。お前がユイコに嫌われてるわけないだろ。
こんな風に、かわるがわる呼び出されては、ユイコとタクミ、それぞれから思いの丈を聞かされている。
はっきり言って、不毛なことこの上ない。俺を中継機にしないで二人で直接話せば、さっさと解決する話なのだ。
いっそ、それぞれの気持ちをバラしてしまおうか……そんな衝動に駆られることもあるけれど、流石にそれは野暮な気がして、頑張って堪えている……というわけ。
そして今。
俺は通学路にある小さな公園で、ユイコを待っている。
いつものように、話を聞いて欲しいと呼び出されたのだ。
「ヒロシ」
不意に声が降ってきて、俺は顔を上げる。
真剣な目、固く結ばれた唇……ユイコが、俺の前に立っていた。
「……今度は何、どうしたの」
つい、呆れたような声が出てしまう。
「……今まで、ありがとう」
「は?」
「これから、タクミに会う」
「!」
「呼び出した。今度はちゃんと伝える……自分の、本当の気持ち」
そして、ユイコは表情を緩めた。
「うまくいくように、祈ってて」
それだけ言い残して去ろうとしたユイコの腕を、俺は、無意識に掴んでいた。
ユイコがびっくりして俺を見る。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった俺は、自分のしでかしたことに気が付いて、慌ててユイコの腕を放した。
「ヒロシ……?」
ユイコの訝しげな視線に、俺は思わず目を逸らした。無理やり笑顔を作って、俺は顔を上げる。
「……途中で挫けて戻ってきても、もう、話は聞いてやらないからな」
「ヒロシ」
「背水の陣だと思って、思い切って行けよ」
「……ありがとう。行ってくる」
ユイコの背中を見送りながら、俺は思う。
“両片思い”って、結局“両思い”と同じじゃないか。“片思い”なんて、ややこしい単語を組み込まないでほしい。
ーーだって、本当の片思いって、今の俺みたいな状態のことを言うんだろう?
「ひとりぼっちは俺だけ……か」
呟くような俺の声が、空に向かって消えていった。