46.ドアを開けるもの
いつもの村より十キロ程度行くかいかないかくらいの場所にアルゴン村はあった。雰囲気はいつもの村とそこまで変わらなかったが、少しだけ大きな村だった。その村は麦畑だけでなく牧畜も行われているようだ。牛や羊と頻繁に目が合った。実際に見ると結構かわいいなと感じた。
俺たちは村の入り口に来た。二人の大柄な男性二人が駆け寄ってきた。
「何の用だ?」村人はこちらを睨む。
「もうすぐ日が暮れてしまうのでこの村に泊めていただけないかと思いまして。」ロスが冷静に対応する。
「村長に確認してくれ。」男はそう言うともう一人の門番がどこかへ走っていった。
しばらくするとOKが出たらしく俺たちは迎え入れられた。
女性比率が半分なのと俺が弱そうなことから盗賊だとは思われなかったようだ。
明らかに疲れた顔の村長曰く”たまたま家が一つ空いた”ようであり、俺たちはそこに泊まることができるようになった。
家財や寝床などもそのままだ。いきなりの来訪者に対しては不自然なほどの高待遇だった。
そして、俺たちにはこの村に泊まるにあたって二つのルールを守るように言われた。
一つは「今日だけ泊まっていいということ。」
もう一つは「寝る時は誰かが見張りをすること。」だった。
当然流れからして見張りは俺だ。別の部屋で寝ようと思ったが、全員同じ空間で寝ろと村長に念を押されたので全員が同じ部屋にいる。
シルヴィアとチャックは部屋の隅に、ロフトのような空間にはロスが寝ているおそらく彼女は高いところの方が落ち着くのだろう。
俺は部屋の真ん中で椅子に座って文字のテキストを読んでいる。俺は元々英語が得意ではなかった。この歳になって新しい言語を覚えるのはなかなか骨が折れる。
村長は注意しろと言っていたが、何かが起こるとも思えない。静かな夜だ。虫か何かの鳴き声はたまに聞こえるが特にこれといった異常はない。
「ウィズバンさん?」俺は緊急用に召喚してもらった火の精霊を呼ぶ。
俺はクソ雑魚なのでいざという時何もできない。だからウィズバンを貸してもらった。
とはいえ屋内で火の精霊を使うのもどうかと思ったが。
「なんだ?」ウィズバンが暖炉の火から顔を出す。
「暇なんで話しましょうよ。」俺は懇願する。
「何を話すんだ?」
「なんでこの村はこんなにピリピリしてるのか。とか。」
「何でだろうな。普通によそ者を泊めてくれて襲撃されるわけでもない。かといってもてなされるわけでもない。」
「そうなんですよね。優しいとかじゃなくてどうでもいいみたいな。勝手にしろみたいな雰囲気でした。」
「周辺の人は皆家にいる。何かを企んでる様子もない。皆集まって寝ている。そして一人が見張りだ。」
「反乱軍ですかね?」
「だとしたらお前らを泊めないだろ。」
「俺たちを警戒してるとか?」
「だとしたらどうして一人見張りをつけとけとか言うんだ?寝てた方がいいだろ。」
「ですよね。謎。」俺はそう言って椅子にもたれかかる。
「勉強してるなら俺が単語クイズ出してやろうか?」
俺が返事をする前に彼はピクリとした。
「どうしました?」
「何かくる。」
「え?」
「静かに。」
そう言うとウィズバンは攻撃準備を始める。俺も火かき棒を握る。
扉からゴトゴトと音がする。
しばらくゴトゴトとなったあとスッと扉が少し開く。
手に汗が滲む。
「いざとなったらお前が攻撃命令をしろ。」ウィズバンが呟く。
皆を起こすべきか。いや、背中を向けるとどうなるかわからない。
少し開いた扉の隙間から白っぽい何かがヌッと入ってきた。




