41.香水
「じゃあ、私は死にたくないから寝るね!」首都に戻ったあとシルヴィアはそう宣言して部屋に戻った。
休んでくれるのはありがたいが、彼女の場合残業何百時間とかではなく主に気疲れなので流石にビビらせすぎたかと申し訳なく思ったが、過労はメンタルにも影響する。精神状態が万全でないまま任務を続行すれば命取りになりかねない。休んでくれるのはありがたいことだ。
俺はシルヴィアとの約束通り総督への報告を行なった。これを毎日していたシルヴィアは頑張っていたのだなと思った。
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「ロスさん?」シルヴィアが恐る恐る尋ねる。
「?」ロスあまり話したことのないシルヴィアに話しかけられ面食らう。
ロスは口元を隠す。
「何?」
「ちょっと訊きたいことがあってね。」
「何?」
「この前マーカスさんに、南部の女性は香水をつけないって言われたんだけど、それ本当なの?」
「香水…ね。確かに私はつけないかな。第一私の育った村にそんなものなかった。」
「今もつけないの?」シルヴィアは尋ねる。
「私は元々狩人だったから、獲物に人間がいることを悟らせるものはつけない。」
「南部の女性ってみんなつけないの?」
「そうね。私みたいに獣や魔獣と戦う術があればいいけど、そうじゃない人は、森で採集するときに匂いを覚えられないように基本的にはつけないね。毎日水浴びして臭いは落とすの。」
「ってことは…私って浮いてる?」シルヴィアは不安そうに尋ねる。
貴族社会に生きてきたシルヴィアにとって周りと違うということは、こちらの現代社会のように必ずしも美徳ではない。異質なものは排除される。そう言う認識は幼い頃から本能的に感じ取っているものだった。
「別に絶対に香水をつけないわけじゃない。つける時はある。」ロスが補足する。
「なんだ、あるんだ。どういう時?」シルヴィアは少しホッとしたように尋ねる。
「…」
「なんで喋らなくなっちゃうの?」
「…」ロスは腰につけた短剣を抜いて握りしめる。
「恋…した時。」ロスはそう叫ぶと息を荒くしながら短剣をしまう。彼女は武器を持って顔を隠すと少し気が大きくなるのだ。
「こ、恋?」
「そ、そう。恋とか、結婚した時とか、そういう特別な時に、特別な人だけに、その、着けるもの、だから…」ロスは顔面をスカーフと同じ色にしながら言う。
「えっ、ちょっ…」シルヴィアの耳たぶも同じ色になる
「えっ、私周りからそんなふうに?」
「まあ、私はそうなのかなって、その、チャックじゃない方の男の子ヒデオ君とかいう…だから、周りからもそう思われてると思うけど…」
「ちがうわよ!」シルビアはロスの方をビシビシと叩く。
「痛い痛い、私肩怪我してる!」ロスは過去一饒舌に喋った。
「あ、ごめんなさい。」
「私…そんなふうに思われてたのね…」シルヴィアはしゃがみこむ。
「でも、そうじゃなくても香水つけることはあるよ、獣よけのやつ。」
フォローしたいのかロスはそう言ってツンと臭い茶色い液体の入った瓶を渡してきた。
「いる?」ロスは尋ねる。
「いらない!」シルヴィアは逃げた。
ロスは逃げるシルヴィアの背中を獣避けの香水を片手に見送った。




