38-2.横領
ロスは鼻歌を歌う。昔反乱軍にいたとき嫌というほど聞かされた歌だ。高い理想を掲げながら内心では想い人の無事を祈る歌。反乱軍のことは嫌いだがこの歌は嫌いではなかった。
鶏肉を少し焦げ目がつくまで焼く。塩とスパイスを振りかける。
「どうぞ。」ロスはそう言って料理を配膳する。
黒パンと根菜、葉野菜の漬物、焼いた鶏肉を出す。
「ありがとう。」チャックはそう言って鶏肉をかじる。お世辞にも美味しいとは言えない。
「美味しくないって顔してるね。」ロスは見透かすような目でチャックを見る。
「わかってんなら遠慮なく言うぞ。味が薄い。」
「そう?腹が減ったって言ってたから作ったんだけど。空腹を紛らわすためなら味は関係ないんじゃない?」
「だが、もう少し塩はいる。あれだ。迷宮都市の食事は味が濃いんだよ。」
「へえ、迷宮都市の人だったんだ。それならデタラメな強さも頷ける。」
「お前の弓もデタラメな正確さだ。」
「そう、ありがとう。ずっと動くものを射ち続けてきたから。あなたも同類でしょ?」
「なぜそう思う?」
「あなたは殺しに躊躇がない。容赦無くハンマーで敵を叩き割る姿勢。こんな状況になっても甘さを捨てきれないあの二人よりも私は好感が持てる。」
「当然だろ。殺らなきゃこっちが殺られる。」
「そう。私たち場所は違えど似た環境で育った。やっぱり同類だね。」
「そうかもな。食に対する認識も同類になりたかったが。」
「反乱軍は粗食なの。毎日これ。」
「俺は耐えられない。」
「迷宮都市民はグルメなんだね。」
「迷宮で死ぬかもしれないならせめて生きてるうちに美味いものを食いたいだろ?それだけだ。」
「私死ぬつもりはないから。」ロスは目を細める。
「死にかけてたクセに。」
「あれ、なかったことにできないかな。とんだ醜態を晒してしまった。」ロスは頭を抱える。
「生きてる限り死にかけることもある。俺だって死にかけたことはある。お前が甘いと言ったあの二人に助けられた。」
「あなたほどの人が?」
「いろいろあったんだ。」
「何があったの?」
「言えない。」
「どうして?」
「言いたくないから。」
「この前私は話したでしょ?」
「お前が勝手に話したんだろ。」
「あの時は死にかけて動揺してたり口を塞がれて酸欠だったり失血で思考が鈍ってたの。万全なら絶対あんな話しないわ!」
「うわ、いきなり饒舌になるじゃん。」
「不公平じゃない!私だけなんて!」
「何言ってんだ?まだ酸欠なのか?」
「あなたが死にかけた話もして!」
「急になんなんだお前!」
「おねがい。」
「うーん、じゃあ、他の奴らに言うなよ?」
ロスは首を縦に振る。
「俺は、その、ダンジョンの下層で後ろから仲間に刺されたんだよ。」
「仲間に?」
「そう。それまで苦楽を共にしたパーティーメンバーたちにだ。」
「なんで?まさか、それで迷宮都市にいれなくなってここに来たと?」
「そうじゃない。あれは…仲間たちの優しさだ。」
「優しさ?どういうこと?」
「俺はその、やってたんだ。迷宮都市で極刑モノの事をな。」
「何を?」
「…横領だよ。」
「え?」
「俺はリーダーやってたからその権力を使って戦利品を売った代金をこっそりポケットに入れてたんだよ。」
「ははっ、何それ。」ロスはそう言って肩を震わせて笑う。肩の傷が痛み始めて苦しみ出す。
「大丈夫か?っていうか笑い事じゃない。」
「だって、横領って、ひひひ」と傷口を押さえて苦しみながら笑う。
「笑いすぎだ。傷口が開くぞ。」
「そうね。開いたわ。」
「…」
「冗談よ。」
「その冗談は笑えない。」
「そう?で、優しさってどういうこと?」
「迷宮都市では横領は重罪だ。仲間が不名誉な終わり方をするならせめて迷宮で戦って死んだってことにしてやろうっていう優しさだよ。」
「へえ、意外と根に持ってないのね。」
「ああ、悪いのは俺だからな。だから、俺は今あいつらの護衛として懺悔の旅をしてるんだよ。」
「改心できたんだ。」
「仲間に情けをかけられた惨めさからな。だからこそ今度はまともな人間になろうって思ってる。」
「へえ、まともな人間を目指すなら出された料理はちゃんと食べてね。」ロスは微笑む。
「わかったからもうちょっと塩ちょうだい。」チャックの切実な要求だった。




