36-1.報復
総督府の近くの寮に着く。
「では部屋を三つ用意しています。好きな部屋を使ってください。どれも同じですが。」
そう言うとロスさんは去って行った。
「とりあえずみんな私の部屋に集合だ。今日のことを踏まえて作戦会議だ!」
シルヴィアが言う。
「どこの部屋使うんですか?」
「まずどこがお前の部屋なんだ?それを決めないと。」
「うるさい男どもだ!」
シルヴィア俺の肩をバンバン叩く。
しばらくすると、さっきの灰色のスカーフとは違う赤いスカーフを巻いたロスさんが通りかかった。
「どこに行くんだ?」
チャックが呼び止める。
「別に、帰宅するだけですが?」
ロスさんはスカーフで口を隠しながら不思議そうな顔をする。
「ああ、そうか。すまん。」
チャックは目を逸らす。
ロスさんはそのまま去って行った。
「なんだチャック?惚れたのか?」
シルヴィアがニヤニヤしながら尋ねる。
「うるせえよ!」
チャックが目を逸らす。
「じゃあ作戦会議しましょうか。」
俺は呼びかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やっぱり来た。」
木の上に座ったロスはつぶやいた。
暗闇に松明の灯りが見える。あの陣形は反乱軍のものだ。反乱のための「徴収」に行った味方が戻らなかった。となれば村から反乱の妨害を受けたとして報復を行う。彼らはそういう連中だ。
弓を長距離用に展開する。今度は矢を多く持って来た。予備の矢筒もいくつか用意している。
冷静に矢をつがえ弓を引き絞る。狙いを定め放つ。
直進する松明が地面に転がり落ちる。最後尾を射ったので連中は気づいていない。村の男たちも反乱軍を撃退するため訓練を積んでいる。私がここで数を減らせば彼らの負担が減る。
二射目。松明が地面に転がる。
3本目の松明が転がる。
4本目。昼とは違い先制攻撃を仕掛けられればこんなものだ。
反乱軍もさすがに狙撃に気づいたのか部隊が散開していく。
「無駄。」
と呟く。
変則的な移動をしていた松明の動きが止まる。
「後二人。」
この時狙撃に集中していたロスの視野は恐ろしいほど狭くなっていた。
後ろから気配を感じた時には遅かった。彼女の座る枝のの根本で破裂音がする。
大きな枝の揺れと同時に吹き飛ばされた木屑が彼女の顔にビシビシとぶつかる。いきなりのことで枝に身体を固定し損ねた彼女は枝から落下する。
受け身を取ったつもりだったが左足首が本来あり得ない方向に曲がっている。興奮しているのか痛みはないが終わった後が辛いだろう。
もっとも終わってしまうのは自分の命である可能性が高いのだが。
すぐに近距離戦用に弓を短く変形させる。先ほどの炸裂による閃光でで目も耳も正常に機能していない。矢をつがえあたりを見渡す。
暗闇の中で動くものがある。すぐに一発矢を放つ。
トンッと木に当たる音がする。気のせいだったか。
いや、違う。盾だ。暗闇に溶け込む黒く塗られた盾だ。正面に10名ほどの黒い盾を構えた敵がいる。彼女は近接戦闘が苦手だ。女性である彼女が体格で勝る男性に対してまともな近接戦で勝てないのは当たり前だ。だからこそ彼女は弓の鍛錬をした。
急いで逃げようとするが、左足首の猛烈な痛みを感じ倒れ込む。
反撃に転じようとしたがすぐさま大男に抑え込まれた。
純粋なパワーで劣っている以上どう足掻いても叶わない。短剣を抜いて反撃しようにも腕すら動かせない。反撃したとしてもこの足では逃げられない。
口を塞がれ弓を奪われる。頼みの綱の短剣もあっさり奪われ遠くへ投げ捨てられた。
短剣が地面に落ちる金属音を聞いて彼女の心は完全に折れた。
「仲間を大勢殺したのはお前か?」大男が尋ねてくる。
恐怖で口をきけない。震えるしかできない。
松明で顔を照らされる。
「ひっ…」
悲鳴が漏れる。
「まあいい。これ以上被害が出る前に殺しておこう。」
男は大きな手で口を塞ぐ。そのまま短剣を彼女の肩に突き刺す。
「〜」
男の指の間から悲鳴が漏れる。短剣が深く突き刺さる。涙が溢れる。
反乱軍の男たちは大笑いしている。見えない位置から何人もの仲間の命を奪った敵が今目の前で苦痛に悶えているのだ。無理もない。
「さて、もう殺すか。」
そう言って男は赤いスカーフを剥ぎ取り首筋に刃を当てる。
痛い。足も動かないし木から落ちたから全身が痛い。
口を塞がれて息ができないし口の中も切れて血の味があする。刺された方の腕も痛いし動かせない。この苦痛が続くならいっそのこと…
ロスは目をグッと閉じた。




