34-2.南部
「あの…」
「…」
「ロスさん?」
恐る恐る声をかける。
ロスさんはスカーフで口元を覆う。
「何?」
「どこ行くんですか?」
「まずは農村。南部は農村が中心だから。」
ロスさんは歩くのが早い。俺たちは頑張ってついて行った。
南部は王都側に首都であるニューエルゼンがある。そのまま南下すると、大規模な農場の中に中小規模の都市がある。
「花粉とかすごそうですね。」
俺はシルヴィアに話しかける。
「3人はここを見て回って。見終わったら戻って来て。」
そう言うとロスさんはまるで猿のようにするすると近くの大木に登って太い枝に腰掛けた。
彼女は弓を持っていたので射手としてどんな時でも周りを見渡せる有利な位置に陣取るということを徹底しているのだろう。彼女は俺たちが命を狙われていることも知っている。上から見ていてくれるなら心強い。
俺たちが来たのはあるちいさな村だ。ロスさんがなぜここに連れて来たのかはわからないが、少なくとも俺たち3人は南部のことを何も知らないのでとりあえず彼女の言う通りここを見て回ることにする。
村人たちは、王都や迷宮都市とは違い、身軽で動きやすそうな服装だった。当然彼らは見知らぬ来訪者である俺たちを物陰からジロジロと眺める。
俺たちは村の真ん中に孤立する形になっていた。人々は遠巻きに俺たちを眺めている。
気まずいなと感じていると、シルヴィアの服をまだ10歳程度の少年が引っ張る。
「何かな?」
シルヴィアは精一杯優しい声で対応する。
「おねえさんたち、ロス姐の友達?」
少年は尋ねる。
シルヴィアはしばらく考え込む。
「そうだよ。」
シルヴィアは答える。
「わかった!」
そう言うと少年はさっさと村人たちの元に帰って行った。
しばらくすると村人たちは緊張が解けたように日々の営みを再開した。おそらくロスさんがここを選んだのは自分の顔が効くという理由だったのだろう。
ともかく3人で村を歩き回ってみた。
しばらくすると初老の男性が近づいてくる。
「ようこそ。私はここの村長です。」
王都で聞いた喋り方より少しねっとりとした訛りのある言い方で村長らしき男が質問してきた。
「どうも。総督府の者です。」
「総督府の方が何を?」
村長は俺たちを睨む。
「いえ、昨日ここに来たばかりなので、この辺のことをもっと知っておこうと思いまして。」
シルヴィアが言うと、村長は顔をクシャっとして笑顔を浮かべる。
「おお!そうでしたか!そうですね。お越しいただいたのですからお茶でもいかがですか?」
村長は食い気味に尋ねてくる。
「ええ、そうですね。いただきましょう。」
シルヴィアは頷く。
しばらくして彼女は何か思い出したような顔をする。
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村の周りに敵影なし。この村の範囲であれば私の有効射程圏内。開けた畑が広がっているので隠れて近づくことも不可能。流石。私ってば気遣いのできる弓兵。
「おい!」
「わあ!!」
ロスはいきなり耳元で声をかけられ驚いて木から落ちそうになる。
目の前には精霊がいた。
「シルヴィアがお前もお茶いるかきいてこいって。」
ウィズバンは言う。
「お茶ね。貰おうかな。」
ロスはスカーフで口を隠しながら答える。驚いたせいで息が上がっている。
「降りてくる?持って行こうか?」
「あなた火の精霊でしょ?持って来られるとヌルくなりそうだから降りるわ。」
「そうか。気をつけろよ。」
そう言ってウィズバンは消える。




