32-2.出発準備
「他に南部に行く前にやっておきたいことはないですか?」
俺はシルヴィアに尋ねる。
「うーん。せっかく戻って来たのにいざ楽しもうと思うと上手くいかないね。」
シルヴィアは腕を組む。
「休日に何していいかわからない時ってありますよね。」
俺も頷く。
「そうだね、痛っ!」
シルヴィアが誰かとぶつかったのか肩を抑える。
「すいません。前を見ていなかったもので。」
ぶつかったのは帝国軍の軍服を着ている俺たちと同い年くらいの男性だった。
「こちらこそすいません。」
シルヴィアも謝罪する。
「いえいえ。お怪我などありませんか?」
男性は紳士的な言葉遣いでシルヴィアに尋ねる。
「大丈夫です。」
シルヴィアは笑顔で答える。
「では私はこれで。」
男性はそう言って立ち去った。
「大丈夫でしたか?」
「大丈夫。肩がぶつかったくらいで死にはしないよ。」
「別に死ぬかもとは思ってないですけどね。」
歩き出そうとすると何かを踏んだ。足をどけて何かを拾う。
分厚い布。緑の下地に白の線がある。
「それは、階級章だな。」
シルヴィアがそれを見て言う。
「さっきの軍人のですかね?」
「だろうな。階級章を無くしたら大変だ。ここで待ってるから届けて来てやれ。」
シルヴィアは動く気がないようだ。
「すいません!」
俺はさっきの軍人に声をかける。
「お、どうしました?」
軍人は振り向く。
「いや、さっきぶつかった時にこれ、落としたんじゃないかって。」
「あ、それは!拾っていただいてありがとうございます!」
男性は食い気味にそれをひったくる。
「あの、言いにくいんですけど気づかずにちょっと踏んじゃって…」
申し訳ないがしっかりと言っておくべきだろう。
男性は一瞬階級章を確認する。
「いえいえ、わざとじゃないなら構いませんよ。正直に言っていただいてありがとうございます。」
男性は敬礼して来たので俺もぎこちない敬礼を返す。
「では。」
男性はそう言って去って行った。
「怒られなくてよかった。」
俺はそう呟いてシルヴィアの元に帰った。
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「おい、ベン。離れちゃだめだろ?」
ジョンは一緒にいる戦友に話しかける。
「すまなかった。」
「そういえばベン、足を踏まれたんだろ?大丈夫だったか?」
「大丈夫。足を踏まれただけで死にはしないよ。」
「ならいいが…今からお前の家に行くぞ。挨拶をするんだ!英雄の凱旋だ!」
そう言ってジョンは拳を突き上げると一人歩き出した。




