29-2.増税
「ミス・リズバーチ。あの状況でよく生き延びて私の前に現れてくれた。やはり当主は伊達じゃないということか。」
「はい。私は優秀なので。」
シルヴィアは当然のように言う。
「そして、そこの君が召喚された勇者なのだね?」
大臣は俺の方を見る。
「はい。そういうことになってます。」
俺は頷く。
「うーん。あまり強そうには見えないがな。」
大臣の言葉が刺さる。
「まあ、俺はその…」
と言い訳をしようとするが何を言うべきなのかわからない。
「そして、後ろの3人は誰かな?」
大臣は怪訝な顔をする。
「はい。あの大柄の男性とエルフ族の二人は信頼できるボディガードです。もう一人はなんか勝手についてきた怪しいおじさんです。」
「何で俺だけ!」
シルヴィアの紹介にタダヒロが突っ込む。
「冗談です。彼は変人ですが信頼できます。」
シルヴィアが訂正する。
「うむ。ユーモアを忘れないのはいいことだ。」
大臣は頷く。
「それで、ご用件は?」
シルヴィアはメガネを持ち上げる。
「手短に話そう。君たちの復権だ。」
大臣は簡潔に答える。
「具体的にどのような方法で?」
シルヴィアが質問する。
「ああ、まず、大前提として私はそこまで権力が大きいわけじゃない。若手だし元老院の中では下っ端だ。だから私が権限を行使して一足飛びに君たちの名誉を回復することはできない。具体的に言おう。君たちが王に謁見して正式に無罪を勝ち取り、召喚された勇者であると認められるまで軍による追撃は続く。」
「それで?」
シルヴィアは相槌を打つ。
「まず君たちは王に謁見を認められるため。軍が手出しできなくなるほどの成果を出す必要がある。王が直々に謁見を認めるほどの成果をな。」
「具体的にどのような成果を上げる必要があるのですか?」
シルヴィアが質問すると大臣はニヤリと笑う。
「南部の反乱勢力を内側から崩してもらう。」
大臣とその護衛の男以外の全員が凍りつく。
「ミス・リズバーチ。君は聡明な女性だ。わかるだろう?南部は帝国の生命線だ。だが嘆かわしいことにそれを理解していない愚民どもが多い。そういった愚民どもが帝国の生命線である南部との関係を悪化させ続けた。もう南部との関係は簡単に修復できるものではない。こんな時に軍は北部に遠征ときた。もし今南部で反乱が起これば、現地の部隊ではそれを収めることができない。そうなれば離反は止められない。そうするとどうなる?」
大臣は目を細める。
「帝国が飢える。」
「やはりミス・リズバーチ。君は父に似て聡明だ。よくわかっている。だからこそ君たちには南部の勢力を内側から削ってもらいたい。わかるかい?」
「だが、そんなことどうやって?」
シルヴィアは不安そうだ。
「それは君たちの適正に合わせた方法をとってくれ。財務省としてある程度のバックアップは保証する。それに、召喚した勇者様のお手並みを拝見しないといけない。」
よくないことを考えている顔だ。
「だが、いきなり言われても困る。すぐには無理だ。南部の問題は根深い。簡単には…」
シルヴィアがいいかけたところに大臣は現実を突きつける。
「私は、君と君の召喚した勇者がこの帝国を救う。救う能力があると考えてこの仕事に任命した。あの状況で生き延びた君たちだからこそ能力があると考えここで会うことにした。もし南部の平定が不可能であれば…わかるね?私は君たちを支援する必要がない。予算を圧迫するだけだ。使えないのなら見捨てる。私は何も損をしない。リズバーチ家は解体。君たちは南部で野垂れ死ぬ。それだけだ。」
淡々と言う。
「それは酷いんじゃねえの?」
チャックが大臣を威圧する。
「私はここの財務大臣だ。私が気にすることは下級貴族のお家事情と異世界からの来訪者の人生ではなく帝国の行く末だ。何も酷いことはない。」
「だがあんたが命令したんだろ?上司なら後始末くらいはしやがれ。」
チャックは反論する。
「これが後始末さ。大丈夫。失敗しても君たちの優雅なスローライフは約束しよう。帝国の予算は崖っぷちだが、人間二人の面倒を見ることくらいはできる。」
「それは二人が決めることだ。」
チャックは特に言うこともなくなったので黙る。
「ではやるのか?やらないのか?どっちだ?」
財務大臣は圧をかける。
俺は考えた。この場合どうすべきなのか。大臣はもし私たちが拒んだとしても相応の見舞金を払ってくれるはずだ。俺自身ギルドの一員でもあり食いっぱぐれることもないだろう。
この世界は嫌なこともたくさんあるが、これから一生この世界にいろと言われても絶望することはないだろう。それだけ俺はこの世界に馴染んでいた。確かに日本にも未練はある。親にだって会いたいし友達にも会いたい。みたいアニメだってあるしゲームだってしたい。だが、いまいちそれを今の生活を捨ててまで取り戻そうとは思えなくなってきたのだ。
絆されたという言い方が一番適切だろう。わざわざ皆を危険に晒してまで日本に戻ろうとは思えない。何より本当に戻れるのかどうかも不明だ。タダヒロは一人では出れない地下室からこの世界に来たせいで帰ることを完全に諦めているそれどころかすでに身を固めている。
だとしたら、今から俺のする選択は100%自分のエゴでしかない。それに他人を巻き込めるほど俺は図太くない。だからこそ俺はどっちでもよかった。彼女がどんな選択をしようと俺はそれを受け入れようと思った。
シルヴィアは心配そうな目で俺を見る。俺は頷く。そのまま彼女はチャックたちを見る。
こんな重大な選択を彼女一人に押し付けてしまう自分に恥じた。だが、彼女は家族を取り戻す必要がある。俺を呼んでしまったことに罪悪感を抱いている。初めて人を殺し後に退けなくなっている。だから身軽な俺は全て彼女に委ねることにした。
「具体的にどんな支援をしていただけるんです?」
シルヴィアは尋ねた。
「それはイエスと認識していいのかな?」
大臣は鋭い眼光をこちらに向けた。




