21-4.刺客
俺は2階にいた。上で大きな音がした。シルヴィアや長官とは逸れてしまった。
鎧を着ていない俺は完全に無力だ。よって上には行かない。下に行こう。階段を降りて下に降りる。
あっ、大剣を持った大柄な男性と目が合った。
「発見。」
男はそう呟くと、剣を構えると階段を上がってこっちに上がってきた。
「うわあああ!」
情けない声をあげて俺は階段を駆け上がる。俺が2階に戻ると、男も2階まで登ってきた。
俺はそのまま情けない声をあげながら一階へ駆け降りる。
「待ちやがれ!」
そう言いながら男も階段を降りてくる。財務省の建物は大きく、階段も大きい。
俺は意を決して階段を駆け上がる。男が振り下ろす剣をなんとかすり抜けて上へ駆け上がる。
そのまま二階へ駆け上がる。2階から3階へは二本の階段がある。やることはわかるだろう。刺客と俺、どちらかの体力が尽きるまで階段の周りを回り続けて時間を稼ぐのだ。
数分階段をぐるぐる回り続けた。
俺は半年間ダンジョンの階段を駆け上がってきたこともあり体力がついており優勢だ。
一方相手は大柄で巨大な武器を持っているため、俺より先にスタミナが切れてきたようだ。
「くっそ、体力あるな…」
そう言って男はゼイゼイ言う。
「このまま時間を稼げば…」
と思った矢先、パリンッとガラスが割れるような音がしたかと思うと頭の真横を何かが掠めた。矢だ。俺は咄嗟に窓から離れた。
狙撃だ。
どこかからこちらに矢を射かけている奴がいる。大剣を持った男がこちらに歩いてくる。
一転不利な状況だ。すでにシルヴィアは射殺されているという最悪の可能性がよぎる。
意を決して立ち上がって走…らない。俺は立ち上がるふりをしてすぐしゃがみ込む。すると走り出した場合の進路を完璧に予測した矢が俺の頭上を掠める。敵狙撃手が次の矢を取り出すまでに俺は三階への階段を駆け上がる。
階段から離れれば建物の裏を見ている狙撃手の射線は通らない。大剣の男に追い詰められることは確実だがシルヴィアと合流するも生存確認をするも俺は上に行かなければならない。
無我夢中で三階へ続く階段を駆け上がる。
途中で疲労のあまりつまずいて体勢を崩す。すると顔の横、肩の上を何かが掠めた。目の前の段差に矢が刺さる。俺は階段を這って上がり右の廊下に入る。
肩から血が出ている。つまずかなければ致命傷になっていたかもしれない。
「ずっと階段回ってりゃよかったのによお!」
男は階段を上がる。
ガシャンと窓枠がガラスごと砕ける音がする。何か大きなものが窓を突き破った音だ。
見てみると窓が割れてカーテンが風でゆらめいている。
「切羽詰まって飛び降りたのか?三階だぞ。」
周りにはなにもない。ただ何かが潜んでいる可能性がある。警戒しつつ窓の下をちらっと覗き込む。一瞬だ。すると下の地面に人形の何かが見えた。よくみると下に落ちて動かなくなった人間だ。
「あーあ、飛び降りたのか。バカだな。」
男はそう言って遺体を凝視する。
「…?」
違う。あれはさっきの罪人の服装ではない。俺たちの仲間だ!
気がついた頃には遅かった。いきなり背後のドアが外れた。
「落ちろ!」
男女の声がしたと思うとドアがぶつかってきた。そのまま男は体勢を崩して窓から落ちかける。割れて窓枠に残ったガラス片が脇腹に食い込み叫び声を上げる。
「舐めやがって!」
そう言うと男は持ち前の怪力でドアを押し返す。
俺とシルヴィアの二人でドアを押しているが、相手の力が強く押し返されそうだ。
ドアを挟んで三人が呻き声をあげながら押し合う。
「さっさと…落ちろ!」シルヴィアはドアの向こうに手を回して火の精霊を召喚する。
「あっちい!」
着衣に火がついた男は火事場の馬鹿力で俺たちをドアごと投げ飛ばす。
俺とシルヴィアはそのまま壁に叩きつけられた。可哀想なことに彼女の腹に飛んできたドアが直撃し、彼女は呻き声をあげてうなだれる。
男は俺たちを始末しようとしたが、思ったより着衣の延焼が激しく、悪態をつきながら割れた窓から下に落ちていった。
すぐに俺は壁に駆け寄り下を見る。さっきの男は受け身を取ったのかそのまま転げ回り火を消した。
しばらくして立ちあがろうとしたが、騒ぎを聞きつけた冒険者たちが武器を持って男を取り囲んでいた。
三階からではあるが男が諦めの表情をしたのが目に入った。
俺はそれを見届けるとすぐさま気絶したシルヴィアに駆け寄っていった。




