21-1.刺客
「チャック、ちょっといい?」
クロエがチャックの隣に座る。
「なんだ?酒は奢らないぞ。」
チャックが眼を細める。
「そうじゃない。あなたは王都との間にある地割れについて知ってる?」
「地割れ?なんだそれ?」
「やっぱり知らないみたいね。カンペラ平原に謎の地割れがあるの。最初は自然現象か何かだと思ってたんだけど。日に日に大きくなっていってる。」
「何が起こったんだ?タダヒロが言ってた地震か?」
「さあね。わからない。それに、私が近くを通った時、地割れの中から少女の形をした何かが出てきて襲いかかってきたの。」
「大丈夫だったのか?」
「ええ。私は空を飛べるからね。振り切れた。」
「そりゃあよかった。で、そいつはなんだったんだ?」
「これは私の推測だけど。あれはおそらく 精霊 よ。それに、近くを通ったものを見境なく食ってる。」
「怖いな。でもなんでそんな話を?」
「シルヴィアちゃんたちにききたかったんだけどいないから。」
「あいつも精霊使いだもんな。普段出してねえけど。」
「精霊を出し続けるのは疲れるから仕方ないの。」
「それにしても、その精霊についてはいつ聞きたいんだ?」
「できれば今すぐ。さっさと報告書を書いて王都に届けないと犠牲者が増えるでしょ?」
「まあ、そうだな。」
チャックは頷く。
「で、シルヴィアちゃんはどこ?」
「今日は財務長官にアポを取れたからって朝から出かけたぞ。」
「そうなんだ。チャック、暇?」
「暇だけどなに…」
言い終わる前にクロエはチャックを酒場から引きづり出す。
「会いにいくよ!」
「なんで俺まで!」チャックはジタバタと暴れる。
「早く報告書を仕上げたいの。シルヴィアちゃんたちはここにくる時あの道を通ったんでしょ?何か知ってるかも。前兆があったとか。」
「なんだよ、そんなにその精霊はやばかったのか?」
チャックは引きづられて歪んだ着衣を直す。
「そうよ!死にかけたの!」
クロエが強い口調で言う。
「お前が?そりゃやべえじゃん!」
チャックの顔が引き攣った。
クロエは元々群雄割拠となっている東部のある国の王直属の親衛隊の一人であり、その事実が示すように戦闘経験も戦闘技能もこの街の他の冒険者たちとは一線を画す存在である。
チャック自身この街に来てからクロエに稽古をつけてもらい一流の冒険者になった。それ故にチャックは彼女を尊敬しており、その彼女が死にかけたときき事の重大さを理解したのだ。
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「本部から作戦開始の知らせが来た。」
「結局人数は揃わないままか?」
「まあいい。」
「財務省に潜り込んだ関係者から連絡が来た。」
「今しかない。動くぞ。」
そう言って五人は部屋の外に出た。




