20-1.財務省
ギルドには帝国への納税義務がある。法人税のようなものだ。
迷宮都市は基本的には帝国軍からの干渉を受けないという立場ではあるが、今回の軍の防寒具のように経済的な協力に関してはこれといった制限なく行われている。
迷宮都市にとっても、迷宮探索を生業にする住民が多いことからおろそかになる食糧生産に関しては帝国からの輸入に頼り切りである。
帝国からしても、現在の帝国の法律が誕生する前から独自の価値観で動いている迷宮都市を統治するのはコストがかかる。その上、迷宮からしか産出されない資源の存在などもあり、帝国と迷宮都市は持ちつ持たれつの関係なのである。
帝国への納税に関しても反発がないわけではないが、食料を依存している以上は必要経費であるという共通認識がある。
今日は俺たちの悲願でもあった財務省に入ることの出来る日である。ここに入るために半年労働したのだ。
ローマン、副ギルド長、会計担当者、俺、シルヴィアの五人は前みたいに門前払いされることなくすんなりと入ることができた。当然場違いなので鎧は着ていない。
「ほな、こっちは手続きしておきますんで、二人はここの偉い人に会いたいんでしょ?話は通してます。検討を祈ってますよ。」
ローマンはニコリとした。俺とシルヴィアは頭を下げた。
正面の階段を登り三階に着くと右に曲がって突き当たりの扉。ノックする。
「入りたまえ。」
声が聞こえる。
ドアを開ける。部屋の真ん中に置かれた机には中年の女性が座っている。この地区の財務省の長官だ。
「話は聞いているわ。あなたたちが軍からの受注を取ってきたんですってね。」
女性はこっちを見つめる。俺たちが受注を取るきっかけになったのは事実ではあるが、俺たちが自分から動いて受注を取ったわけではない。だがそういうことにしてもらったのだ。
「で、何かしら?私に会いたいなんて。私に会っても税金は安くならないわよ。」
「いえ、そうではありません。頼みがあるのです。」
シルヴィアは緊張しながら答える。
「私たちは諸事情で、そちらの財務省のガルアノス大臣と連絡を取りたいのです。」
「それで?」
女性はシルヴィアを見つめる。
「お忙しいところ恐縮ではありますが、その、取次をしていただければと。」
「つまり私に伝令をやれと?」
女性は眼を細める。
「いえ、そのような大それたことを言うつもりでは。」
シルヴィアから血の気が引いていく。
「何も違わないじゃない。それは伝令の仕事よ。私はここの長官で暇じゃないの。」
「それは…」
シルヴィアが沈黙する。
「話は終わりのようね。」
女性は書類仕事を開始しようとする。
「…」
俺は意を決して息を吸い込む。
「ですから、長官殿に伝令の仕事を頼みたいんです!」
どうせ追い返されるなら言いたいことを言う。
「ほう?」
女性はこちらに目をやる。
「いい度胸だな。目上の人間に対する礼儀というものを知らないようだ。」
女性は俺を睨む。
俺も負けじと目を逸らさないようにする。冷徹な視線だ。唾を飲み込む。
「見ての通り私は忙しい。あなたたちの頼みをきいてメリットはあるの?」
女性が詰め寄ってくる。
「この男はガルアノス大臣肝煎の計画によって召喚された異世界人です。上手く接触させることができればあなたの昇進も見えてくるはずです。ラビリニスタンの財務長官。」
シルヴィアが啖呵を切る。もともと迷宮都市に配属される財務省職員は所謂左遷のようなものであり、出世コースから外れていると世間一般からは認識されている。それは長官クラスであっても同じである。
「はぁ、ちょっと意地悪したらとんでもない嫌味を言われたわ。」
女性は頬杖をつく。
「まあいいわ。座りなさい。」
女性は俺たちを睨みながら言った。
「では失礼して。」
俺たちは座る。
「分かるように簡潔に説明して。」
シルヴィアと俺は今までのことを彼女に説明する。
「なるほど。そういうことね。気の毒ね。」
「じゃあ、」
俺が言いかけるが女性がそれを遮る。
「私もね、あなたたちが財務大臣とやりとりしたいと言って、はいそうですかと許可できるわけじゃないの。それは分かる?」
「それは勿論わかります。」
シルヴィアが頷く。
「私はあなたたちを信用していいのかもわからない。」
「なら俺たちが信頼できるという証拠を見せれば…」
俺が言いかけたのをシルヴィアが制止する。
「長官。私たちは何も無策で来たわけじゃない。あなたの匙加減で全て決まるような計画は立ててない。」
「?」
「すでに王都の通運省からここ宛に、ガルアノス大臣から何か届いているはず。」
シルヴィアは冷静に長官に問いかける。長官は少し考え込んだ後何かを思い出したような顔をする。
「そういえば、通運省から妙な伝票が来てたわ。ちょっと待ってて。」
そう言って後ろの本棚からあファイルを取り出してそこから一枚の紙を取り出す。
「これは…暗号ね。」
女性は眼を細める。
「ちゃんと言いましたよ。あなたの匙加減で全て決まるような計画は立ててないって。」
「なるほど。本当に大臣の了解は取ってあるみたいね。仕方ない。信用するしかなさそうね。」
「ではやってくれますか?」
「いいわ。私にも利がありそうだもの。乗ってあげる。」
それをきいたシルヴィアはドヤ顔でこっちを見る。後半は何の話をしていたのか全くわからなかった。だが、シルヴィアもシルヴィアで何か手回しをしていたのだろう。
「また今度しっかり話しましょう。明日会える?」
女性はシルヴィアに尋ねる。
「いつでも。」シルヴィアも答える。




