19.ノルマ達成
「ご苦労様でした。みなさんのおかげで納期までに全部納品できました。ありがとうございます!」
ローマンは大きな声で挨拶する。
会場は拍手に包まれる。あれから半年近く経った。迷宮としの皆や、王都や他の都市とも協力して俺たちはひとまず軍の要望通りの防寒具を納品することができた。当然まだまだ生産は続くが、ひとまずは今までのようにあくせく働く必要はなくなった。
俺はひたすら毛皮を運ぶだけだったのだが、シルヴィアから魔術の特訓を受けたおかげで身体を少し強化できる程度には魔術が上達していた。おかげで仕事は楽になったし生きて帰れる確率も高まった。俺を召喚したのが優秀な魔術師であったのは運が良かったと言える。
「ついに終わったみたいだな。」
タダヒロが俺たちに話しかけてくる。
「今日もいるのか。」
シルヴィアは呆れた声で言う。
「タダ酒飲みに来たんだ。」
タダヒロは笑う。
「タダヒロ!あの本の解読は終わったのか?」
「大丈夫。進んでるよ。今休憩中。」
「休憩してんじゃねえ!」
シルヴィアが机を叩く。
「そうだ。あとお前たちに渡したいものがあるんだ。おーい、クロエ!」
タダヒロが叫ぶとクロエが三つの紙包を持ってやってきた。
「なんだそりゃ?」
チャックはその紙包を見つめる。
「俺からの祝いだ。受け取れ。」
そう言ってタダヒロはクロエから紙包をとって俺たちに配る。
なかなかずっしりとしている。
「魔導書か?」
シルヴィアが呟く。
「まあまあ、開けてみろ。これは特にヒデオ君には必要かもな。」
タダヒロは得意げだ。
紙包を開ける。中には本が入っていた。
『フォルティア帝国の歴史①』
『フォルティア帝国の歴史②』
『日本人のためのフォルト語入門』
「…」
「なんですかこれ?」
「それは俺がクロエと一緒に書いたこの国の歴史書だ。」
「ここってフォルティア帝国って名前なんですね。初めて知りました。」
「まあ、ここに住んでるやつはわざわざ名前呼ばないからな。アメリカ人だってユナイテッドステイツって言うだろ。外の世界を知らなきゃこんなもんさ。」
「アメリカ人もアメリカって言うでしょ。」
「今はどうでもいいだろ。それに。」
タダヒロは『日本人のためのフォルト語入門』を俺の前に置く。
「これは今のお前には必要なものだろ?お前はもうここの財務省に出入りできる立場だ。やりたいことがあるならまずここの言語をしっかり覚えろ。」
「はい!ありがとうございます。」
俺は本を受けとる。タダヒロは掴みどころのない男だがなんだかんだ世話を焼いてくれている。変わっているが優しい人間だ。彼が美人なエルフと結婚して、町中から嫌味を言われながらも慕われている理由がわかった気がした。
とはいえこの世界に来てからも勉強ばかりだ。それでも頑張るしかない。日本に帰るために。
帰るために…少し信念の歪みを感じた。今まで日本に帰るためと頑張っていたが、いざそれを口にするとなんとも言えない不安を感じた。横を見るとシルヴィアがさっきの本を読んでいる。頭をブンブンと振る。余計なことは考えないようにしよう。まずはやるべきことをやるだけだ。俺はそう自分に言い聞かせた。




