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18-3.妻

 「えっと、つまり日本にはメソポタミア文明があったの?」


「ないない。そんなこと言ってるのは陰謀論者だけだ。だが、日本というか世界の文明の成り立ちを語るにはまずメソポタミア文明を知ることが重要なんだ。基本的な、文字みたいなものだ。」



「それで、そのトークンとブッラが文字の元祖になる。そこから楔形文字に発展して人類は初めて文字を得た。ここから確実な歴史と呼べる記録がわかるようになる。まず、」


「いつになったら私は日本の話を聴けるのかしら?」


クロエは顔を引き攣らせた。



「すまない。本題に入る前にもうこんな時間だ。まだメソポタミア文明も終わってないのに。」


「メソポタミアについて話しすぎよ。」


「そろそろ店が閉店だっってさ。悪いがここで切り上げよう。今日はありがとう。」


そう言ってタダヒロは毛布を掴んで外に出ようとする。


「待って。」


クロエは彼を止める。


「?」


「うちに来ない?まだ私は満足してないわよ。」


クロエは微笑む。


「わかりましたよ。」


「じゃあ帰り道に日本の話をして。」



「そして40000年前ごろには人類が日本列島に来てたんだ。それに世界最古級の土器だってある。」


「ついに日本の話が始まるの?」


クロエの目が輝く。


「でも正式に文字としての記録が残るのはそれよりずっと後の中華の歴史書なんだ。それを知るためにまずは中華文明について説明すると、まずユーラシア大陸の…」


「いやああ!いつになったら始まるの!」


酒を飲んでいたクロエは愉快そうだった。


だが、思いの外中華史が面白かったためクロエは満足した。



「へえ、結局は徳川家康が勝ったのね。石田が勝つと思ってた。悔しい。」


話の流れから西軍の勝利を確信していたクロエは落胆する。


「まあ、わからないから楽しいんだろ?」


「それはそう。」


「で、その後徳川家康が江戸幕府っていう長期政権を作ったんだ。大体260年くらい。」


「260年か。私よりも長いわね。」


「そりゃそうだ。何年生きてるんだよ!」


タダヒロは笑う。


「私は240年生きてるよ。」


「まじ?」


「そう。エルフは長生きなの。思ったよりおばあさんでショックだった?」


「240歳って、240ジャスト?」


「うーん、242くらいかな。」


「つまり242年前のことも知ってるのか?」


「流石に物心もついてないからせいぜい230年前くらいよ。」


「羨ましいなぁ。」


タダヒロは呟く。


「羨ましい?長生きしたってロクなことないわよ。好きな国も人もみんな私より先に逝っちゃうし、年齢を言うとみんな逃げる。年上にも程があるからね。」


「俺は今28、いや、29くらいかそこから生きれたとしてもあと50年ってとこだろ。あんたはその見た目ならあと何百年生きる?今から死ぬまで色々なことを見れるってのは羨ましいよ。本当に。」


「たしかに、あなたみたいに昔のことをほじくり返したいならいくら時間があっても足りないかもね。はぁ、あなたに寿命あげたいわ。」


「そ、そ、それは、プロポーズか?」


タダヒロは致命的なほどに異性との関わりが乏しかった。


「え?」


クロエは困惑した。


「そ、その、寿命をあげたいって言うのはその一生の時間を俺にその、貸してくれるって言うそのあれ…なのか?いや、そのお前のことは好きだが、その、こう、もっと…」


焦るタダヒロを見ながらクロエは、何を言っているんだこいつはと思っていた。



「いや、本当にすまない。変な勘違いをしてしまって。」


タダヒロが土下座する。


「いいのよ。別に私は嫌な思いしてないし。お酒を飲んで変なこと言うなんてよくあることよ。」


クロエは笑う。


「いや、その、勘違いはしたが。俺は変なことを言った覚えはない。」


「え?」



「本心だ。」


「何が?」


クロエの耳が赤くなる。


「君の話も聴かせてくれないか?」


タダヒロはクロエに詰め寄る。


クロエは一度深呼吸をして平常心を取り戻す。


「いいわ。私の年齢を聞いても逃げなかったお礼に話してあげるわ。建国神話の時代からね。」


日本の話をきいただけなのに人間が生まれるところから始めた男への意趣返しのつもりで話し始めたが、興味津々で聴いているのを見てこれは彼にとってはご褒美なのだと察した。

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