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2-1.没落

 王宮の横にある元老院のホールでは今日も定例会議が行われていた。

王族や上級貴族、元軍人など名だたる人物が王からの信任により元老として政治を行う。

とは言っても、3年前に即位したばかりの王にはさほど権限がなく、帝国の政治は元老院が握っている。

元老たちは官僚が持ってきた案にああでもないこうでもないと文句を垂れる。

帝国の衰退が顕著になってくると生半可な案など実行してもいたずらに財政を悪化させ内政にダメージを与える。

深い傷ほど素人が下手に触れるわけにはいけないのである。

平和な時代が続いた影響でこの状況を打開するような傑物は育たず、元老院も官僚も一部優秀な者もいるが、結局有効な手立てを講じることができないのだ。


「税を免除すれば南部四州の離反は止められるのか?」


元老の中でも若く見えるその男は演台に乗った官僚の目を見る。


「はい。南部連合は毎年王都に納める税を減額していただければ州内の独立勢力を抑え込むと。」


官僚は答えるが、そこに壮年の男性が割って入る。


「信用ならん。昨年は我々も譲歩したが、結局鎮圧したと口で言っただけでまた今年も反帝国

派は活動を続けている。これ以上約束も守らぬ相手に譲歩する必要はない。」


「しかし我が軍には南部四州を平定するほどの力はない。そちらの尻拭いを我々に押し付けるのはやめていただきたい。」


大柄な老人がそう言いながら若い男の方を見る。


「確かにそうですがそこをなんとかするのがあなたの仕事でしょ。軍はあなたの管轄だ。職務を遂行できないのならさっさと引退することだ。」


若い男は煽るような口調で捲し立てる。


「静粛に。」


上座に座る議長と思わしき人物が諭すような口調で命じる。


論戦を繰り広げていた三人は不満そうな顔をしながら引き下がる。


「南部四州は我が帝国にとって重要な地域である。よってこの件は持ち帰って後日改めて議論すべきである。閉会間際に行う議題ではない。財務省も軍も正確な税収の予測と具体的な侵攻計画を作成して次回の定例会議に持ってきてもらいたい。」


若い男と軍の司令官は無言で頷く。


「では今日の定例会議を終了する。」


議長の号令とともにホールの空気は一気に弛緩する。

各所からため息や身体をほぐす音が聞こえる。


「そういえば、下級貴族に勇者の召喚頼んだと聞きましたけど、よっぽど追い詰められてはるんやな。」


隅にいる妖艶な女性がわざとらしい大声で呟く。


「王サマも必死なんですね。勇者なんか召喚できるわけないのに。」


フードで顔を隠した男とも女とも言えない声の者も同調する。


「王にそうするよう進言したのは私だが。」


財務担当の元老が二人を睨む。


「頭の悪そうな計画だな。」


軍のトップの男が先ほどの論戦を蒸し返すような事を言う。


「実際に勇者を召喚したらしいけどな。」


財務担当の元老が言う。


「あれ嘘じゃなかったんだ。報告書見なきゃね。」


さっきまで黙っていた男も口を挟む。


「では今度ここに勇者と担当の者を連れて来い。」


議長が言う。


「わかりました。」

そう言って財務担当は席を立った。


軍のトップの男はニンマリと笑った。



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