18-1.妻
「ただいま。」
ボロボロになったクロエが帰宅する。
「お、おいクロエお前ボロボロじゃないか?大丈夫なのか?」
タダヒロは妻を心配して駆け寄る。
「帰りに少し困ったことがあっただけで大した怪我じゃない。自分の治癒術式で治せるわ。あと、これ頼まれてたやつ。」
そう言ってクロエは石板と本を手渡す。
「ありがとうな。でもいくら資料があってもお前に何かあったら困る。危なかったら無理しないで逃げてくれよ。」
タダヒロは弱々しい声で訴える。
「わかってる。そう言われたから逃げて来たんだよ。」
そう言って彼女は鎧を脱ぐ。
「まずはゆっくり休め。その傷は俺らの世界では大丈夫とは言わないんだ。」
タダヒロは彼女の鎧の下に隠れていた傷を見て顔をしかめる。
「ええ、あとでゆっくり休むことにするわ。その前に報告しないと。」
「何を?」
「帰る途中にとんでもないものがあった。報告しておかないと大変なことになる。」
そう言ってクロエは急いで外に行ってしまった。心配したタダヒロは外に出て辺りを見回すがもう彼女はいなかった。
「勘弁してよ全く。」
タダヒロは頭をかいた。
冬の寒い日、軍の追っ手を逃れるために俺は迷宮都市に来たは良かったが、ここは迷宮で戦う荒くれ者たちで経済が成り立っている街であり、戦うことのできない俺に居場所はなかった。
日本にいた時俺は一人だった。友達なんてほとんどいなかった。研究室の仲間だってビジネスパートナーみたいなものだったし、それでも俺は一人を寂しいと感じたことはなかった。
だがここへ来て俺は初めて仲間が欲しいと心の底から願った。俺は飲み屋の裏路地に拾った板を敷いて西方の港町から共に旅して来たボロボロの毛布に包まって座り込んだ。ちょうど俺のいる壁の後ろには暖炉か何かがあるのだろう。他の場所より少し暖かかった。今晩凍死する心配はなさそうだ。
この世界は興味深い。だが俺は今この夜を越せるかどうかすら怪しい。いくらすごいことを知ってもそれを発表すらできず凍死してしまうなんて俺は考えたくはなかったがここ最近常に頭の中にその考えがあった。そんな自分の結末を考えてしまうくらい今日は寒い。
「どうしました?」
女性の声が聞こえる。
「」
声にならない声を出して声のする方を見る。
「こんなところで寝ていたら死にますよ?」
目の前にいる長い耳をした女性を見る。
「やっぱり死んじゃいますか?」
いつもより吐息が白く見える。




