13-1.軍需
今日のギルドの工場は大騒ぎだった。
軍から大量発注が入ったのだから当然である。ローマンたちは周辺のギルドと協力し、素材の収集から生産を行っていた。
ローマンにとっては待ちに待った起死回生のチャンスであった。
周りのギルドに頼み込んで生産を手伝ってもらったり、手の空いた冒険者たちも一報をきくとすぐに短期契約という形でギルドに入会し素材集めのためダンジョンに降りていった。
そのため今日は特に30〜40層はかつてない盛り上がりを見せていた。
そして俺とシルヴィアとチャックの三人は、材料となる毛皮を持つ魔物をダンジョンで狩り続けていた。
ここには俺たち以外にも大勢がいて毛皮を落とす魔物達は湧いた側から熟練冒険者達に処理されていた。これが本物のリスキルかと魔物達に同情した。しかし、この魔物達はダンジョン内の自動防衛機構として無尽蔵に出現するため資源としては非常に優秀でありこうなるのも仕方ないと言える。
チャックはハンマーを振り回して魔物を狩続けており、シルヴィアは召喚術のスキルを活かして魔物の出現に関する何かを管理しているらしい。
俺は戦えないので、老練のギルドメンバーが手際よく剥いだ毛皮を纏めてある程度貯まったら10層のリフトまで輸送する仕事をしている。移動中は護衛もいるし体力もつくし今の俺には合った仕事だ。
だが、ここにくる前からまともに労働を経験していない俺にとってはとても辛いものだった。
ようやく3回目の輸送を終えて拠点のある35層まで戻った。35層の階段の周りに造られたバリケードの中にはシルヴィアや休憩している冒険者が大勢いた。
シルヴィアは退屈そうに頬杖をつきながらバリケードの外で魔物が狩られているのを眺めていた。
「調子はどうですか?」
驚かせないように呼びかける。
「ああ、安定しているよ。ここの召喚術式は凄いね。最初狩が始まった時は召喚が偏って不安定化したがそこからすぐに持ち直した。どんな術式とリソースがあればこんな芸当ができるのか、全く見当もつかないよ。」
早口でダンジョンの召喚システムの素晴らしさを力説する。
「休憩とりました?」
念のためきいておく。
「いや、とってない。まあ、別に疲れる仕事じゃないからね。」
「召喚術師ってあまりいないんですか?この街でも見たことないですし、言っちゃ悪いですけど、国家プロジェクトがシルヴィアさんに任せられたり、ここの仕事も一人でやってたり、あんまりいないのかなって思ったんですけど。」
「途中聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするけど。まあ、そうね。たしかに召喚術師は少ない。やっぱり何かを召喚して戦わせるより自分で戦う方が映えるし自分の評価に繋がりやすい。だからみんな召喚術師にはなりたがらないの。」
「不人気なんですね。」
「不人気か…まあ、そういう言い方が正しいかもね。召喚術師の家が分家して別の魔術を磨き始めるなんてこともよくあったみたいだからね。」
「確かに、俺も魔術師だったらブラントさんみたいにかっこいい技を使いたかったかもしれないです。」
「男の子ってすぐああいうのに憧れるよね。カールもよく剣士になりたいって言ってた。」
「カール君、はやく取り戻せるといいですね。」
「そうだね。」
しばらく沈黙する。
「あの、この仕事をよく思ってないのはよくわかります。軍の味方をすることは結果的に俺たちの目標を遠ざけるということですし。俺だって癪だと思ってますよ。」
俺の言葉を聴いたシルヴィアはしばらく考え込むと魔物と戦っている冒険者の方を見つめながら口をひらく。
「ああ、全くだ。でも、せっかく彼らに降って湧いたチャンスを私一人のわがままで潰すことはできない。それに、私は今の追われる身を脱することが目的だ。軍人たちを凍させたいわけじゃない。」
「優しいですね。」
「分別がついてると言って欲しいな。」
彼女は少し微笑んだ。
「そろそろ終わりにしましょう!」
副ギルド長の一声で今日の狩は終わった。




