12-3.ステマ
「俺に戦い方を教えてほしい?」
チャックが驚いた様な顔をする。
「そう。俺もみんなの役に立てる様に。最低限みんなの足を引っ張らないように戦えるようになりたいんだ。」
俺は戦えるようになりたかった。
ブラントとの戦いでは肉壁にはなっていたがその役目すら果たせなかったことや、絞り出したステマ案が迷宮都市の法律に引っ掛かる可能性があるとして没になったこと。迷宮に降りて普段の業務を手伝おうとしたが何もできずに逃げ回り迷子になりギルドの皆さんに迷惑をかけた事。
それらの出来事から俺は結局異世界に来ても凡人以下であるという現実を無情にも叩きつけられてしまったのだ。
だからこそ少しでも凡人に近づくため努力しないといけないと思った。文字は少しづつ勉強している。次は戦闘スキルだ。
当然周りの異世界人は強い。普段から引きこもって研究に明け暮れていた戦闘経験の無さそうなシルヴィアですら召喚魔術を使えば戦術次第でそこそこ戦うことができている。
逆にタダヒロは戦闘力がない。腕相撲では俺の方が強かったくらいだ。だが彼にはその弱点を差し引いて余りある頭脳がある。
何もないのは俺だけだ。せめて鎧の耐久力を活かせば、相手の攻撃を耐え凌ぎながら一撃入れるくらいの戦い方ができるかもしれない。まずは今自分ができることをやるしかない。タダヒロのように良い頭があればそれで勝負したかったが、今の俺にあるのはこの鎧しかない。配られたカードで勝負するしかないのだ。その旨を俺はチャックに伝えた。
「そうか。わかった。パーティーメンバーとして俺も一肌脱ぐしかないな。」
チャックはそう言うと鎧を脱いだ。そしていつものハンマーを握る。
「よし、ヒデオ今から俺がこれを持って追い回すから、お前は全力で逃げろ。」
「え?」
思わず変な声が出た。
「まあ、俺も手加減するし、そもそもハンマー相手なら逃げに徹すればそう簡単には当たらない。安心しろ。」
後半はお前のフィジカル基準だろと思うのだが。というかもっとこうチャンバラ的なのを想像していた。彼は剣士のようだし。
「え、いや、えっと…」
あまりのスパルタ式訓練を想像して言葉に詰まる。
「俺も昔やったぞ。体力、回避力とか相手の間合いを読む力とかが鍛えられていいぞ。慣れてきたら俺に一撃入れる様に頑張るんだ。それを繰り返せばお前も晴れて実力者だ!」
たしかに目標はしっかり達成しているがそういう問題ではないのだ。正直に言おう。怖い。チャックはデカい。多分190後半はある。ハンマーもデカい。チャックの肩くらいまである。そんなもので間違えて打たれたら身体どころか魂までペシャンコにされて地面に沈み込み天に登れず地縛霊になってしまう。
「もっとこう初歩的なのはないんですか?」
恐る恐る質問してみる。
「実戦に勝る稽古はないんだ。手加減するって言ってるだろ?」
真顔で言ってきた。小指だけで俺のこと殺せそうなくせに。
「流石に一発目からお前みたいなのと戦うのはよくない。」
シルヴィアの声だ。どこかで話を聞いていたのだろう、チャックを止めてくれている。
「訓練というのはすぐ実戦をするものじゃない。体づくりとか食事とか初歩的なことから積み重ねて目標を達成する。鍛錬とは論理的であるべきだ。」
研究者である彼女らしい考え方だ。俺もそういうものを求めていた。
「そうか。確かにいきなりは厳しいよな。俺だって最初は怖かったなそういえば。」
チャックはスパルタ式教育を撤回してくれそうだ。この時ばかりはシルヴィアが女神に見えた。
「チャック。こいつとの付き合いだけなら私の方が長い。私の方がこいつの適性とかをよく知っている。私に任せてくれないか?」
シルヴィアはチャックを見据えて言った。
「なるほど。じゃあ任せた。」
チャックも納得する。シルヴィアは頷くと俺の方を見る。そしてしゃがみ込む。
地面に手を当て何やら詠唱する。すると地面からいつもの光る腕が生えてきた。
「あの、その腕なんなんですか?」
長年の疑問をぶつける。
「これははオオニクソギヒカリウデって呼ばれてるの。」
ニクソギ?今肉削ぎって言った?
「主に還らずの樹海に生息してる魔獣であり植物なんだけど、発光して近づいてきた獲物を捕まえて肉を千切って細かくして吸収する奴よ。生物ならなんでも食べる奴よ。」
さらっと恐ろしい事を言い出す。
「これを何に使うんですか?」
俺は何かを察し始める。
「チャック、短剣とかない?」
シルヴィアがきくとチャックは彼女に短剣を渡す。
彼女はそのまま俺に短剣を渡すと言った。
「最初は2本出すから頑張って逃げてね。下手したら腕とか千切られるから気をつけてね。」
俺は絶句していた。シルヴィアはヒカリウデに手かざし一言
「殺せ。」
と命令する。
途端に命令を受けた2本の腕が俺めがけて襲いかかる。
「女神じゃなかった!」
俺はそう叫んでとりあえず右に飛び退いた。
その後も追撃してくる腕を転げ回りながら避けていた。
すると物音をきいて通りかかったローマンがシルヴィア達の方に何やら言っている。
止めてくれるのか?耳を澄ます。
「いやあ、やってますね。」
ローマンは愉快そうに笑っていた。
止めろよ!




