11-3.憲兵密着
「何食う?奢るぞ。」
いち早く席に着いたヘスラーがメニューを書いた札を指差す。
「えっと、じゃあ私はこれで。」
仕事中とはいえピーターも空腹だったため軽くサンドイッチをつまむことにする。
「あら、ヘスラーさん久しぶり。」
店の人間と思われる40代くらいの女性がヘスラーに話しかける。
「いや、若いのが出払っちゃったから新人の教育も兼ねて久々にね。そうだ、彼が新人のラントだ。これからはこいつもこの辺を見回るからよろしく。」
ピーターは自己紹介を促されたので立ち上がって自己紹介をする。
「若くて元気ね。特別にスープサービスしてあげるね。憲兵には媚び売らないとね。ひひひ。」
と女性は不敵に笑い、ヘスラーも釣られて不敵に笑う。
「ヘスラーさんはいつものでいい?」
「うん、野菜多めで。」注文をきいた女性はそのまま奥に入っていった。
「この地区の管轄は長いんですか?分隊長。」
「そうだな。20年くらいいるからな。」
「長いですね。」
「長いよ。警察が軍に統合される前からいるからな。」
「軍人ではなかったんですね。警察からの引き抜き組ですか?」
「そうそう、俺は優秀だったからヘッドハンティングされたの。」
「でも、警察から軍に変わるって大変だったでしょう。」
「まあ、そのあたりの変化に対応するのは大変だったな。まあ、最後らへんの警察なんてぶっ潰されて当然の組織だったからな。そのうちなんかあるだろうとは思ってたから心の準備はできてたよ。」
話していると注文していた料理が来た。頼んだサンドイッチのほかにベーコンと玉葱のスープが追加されていた。
「分隊長は何を頼んだんですか?」
と尋ねるとへスラーは椀を俺の方に近づけて
「鶏肉と野菜スープだ。カブがよく煮込まれててうまいんだ。」
そう言って嬉しそうに料理に手をつけ始めた。ピーターも早く仕事に戻るため食べ始めた。
昼食を終え再び見回りに戻る。
分隊長がかなり飯屋で粘ったので残り時間はそんなに多くない。
だが、ピーターとしてはここで一つ成果を出したかった。中心地の担当にはなれなかったが、初日で成果を出すことができればその悔しさを埋めることができると考えた。
初日で成果を出すことができれば自分は他の奴らとは違うと優越感にに浸れると考えた。だが、その期待に反して街は平和だった。
領土を失い影響力も落ち治安も悪化しこの帝国はもうダメなのではないかという話をピーターも何度も聞いていた。だが街そんな不安で恐ろしい場所などではなく、ただ平和な今まで通りの日常が繰り返されるだけの場所だった。
憲兵としては平和な方がいいのだろうが将来のことも視野に入れると平和すぎるのも考えものだ。
「前の飢饉の時は貴族邸を襲おうとする奴が多くて大変だったが、最近は平和なもんさ。」
へスラーが懐かしむような口調で呟く。
「そうだったんですね。でも平和なのはいいことですからね。」
「研修のためにはそろそろ何か起こってほしいがな。」
へスラーは苦笑いする。
「同感です。」
笑っていいのかわからなかったのでピーターは笑わなかった。
その後しばらく街中を巡回した。
「今日は何もなかったな。まあ、こういう日もある。そろそろ帰り始めよう。タダ働きはごめんだろ?」
ヘスラーはそう言うと詰所への道を歩き始めた。




