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10-3.早い再会

「お前は…」


俺は後ろを見て戦慄する。


「ブラント…」

恐怖に満ちた声でシルヴィアが呟く。非常にまずい状況だ。俺は目立つのを避けるために鎧は着ていない。

今襲われては一巻の終わりだ。シルヴィアは咄嗟にウィズバンを召喚しようとするとブラントは急に両手を上げた。


「争う気はない。」


ブラントの言葉にシルヴィアは困惑しつつも召喚術式を中断する。


周りの通行人が皆こちらを凝視している。さっきまでの喧騒が嘘のように今この場を静寂が支配している。


「この街の中での私闘は厳禁だ。わかるだろ?」


ブラントは両手を上げ戦意がないことを示しながら言う。シルヴィアも納得して席に着く。


「座っても?」


テーブルの空いた席をブラントが指差す。

シルヴィアが頷いたので彼は席に着く。

先程まで静かにこちらを見ていた群衆はまた活気あふれる市街地へと戻っていった。

ブラントは周りが騒がしくなったのを確認するとこう切り出した。


「ここでの私闘は最悪死刑だし良くて罰金だ。俺は一昨日お前らとの戦いの後、武器を持ったまま街を歩いたから取り囲まれて連れて行かれて金も取られた。本当に散々だった。お互いそんな目にあいたくないだろ?」


ブラントは静かに語りかけて来る。


「で、何の用だ?」


シルヴィアがブラントを睨む。


「さっきの言葉通りだ。そのミートパイ、食べないなら貰ってもいいか?」


「自分で買えばいいだろ。」


シルヴィアが反論する。


「お前たちと戦ったせいで罰金を取られて金がない。一昨日から何も食べてないんだ。」


思ったより情けない理由だった。


「いいだろう。だが条件がある。」


しばらく考え込んだシルヴィアは少し前のめりになってから言った。


「まず、私たちを攻撃しない。私たちがここにいることをペトロバツに漏らさない。そして金を返す。わかった?ヒデオは何か要求ある?」


「えっと、お皿店に返しといてください。」


咄嗟に話を振られたので意味のわからないことを言う。もっと他にあっただろと思ったがもう遅い。


ブラントは少し考え込んだが、渋々全て了承した。


「罪人の要求を飲むことは許されないが今ここで私が死ねば、家の使用人たちは路頭に迷うし直轄領の民たちも大変な思いをするだろう。仕方ない。了承しよう。」


そう言うとシルヴィアに渡されたミートパイにかじりついた。

無様だ。さっきまで美しい光の剣を振りかざし俺たちを追い詰めてきた男とは思えない。

だが、これはシルヴィアを守れなかった場合の俺の姿だったかもしれない。そう思うと少し親近感が湧いて来る。

ブラントはそのまま味が濃くて脂っこく大きい残りのミートパイ全てを平らげた。

俺たちが1ピースで限界だったものを4ピース平らげたのだから、敵に食料をねだるほど餓死寸前だったのだろう。


「助かった。礼を言う。約束通りお前たちを襲うことはないだろう。ちゃんと皿も返しておく。」


「ペトロバツにも私たちのことを言うなよ?」

シルヴィアが圧をかける。


「ああ、言わないよ。そもそも司令官殿とは接点がないから言いようがないがな。」


ブラントの意外な言葉に俺とシルヴィアは顔を見合わせる。


「接点がないって、お前はペトロバツの命令でここに来たんじゃないのか?」


「違うが?」


「じゃあなんでここに?」


「そもそも私は軍じゃなく王直属の騎士だ。軍の命令では動かん。別にお前たちを追ったのも軍の命令ではない。個人的な理由だ。」


「じゃあなんで私たちを王都で襲撃した?」


シルヴィアが詰め寄る。


「あれは支援要請があったからだ。危険な謀反人と戦うから腕の立つものを寄越してくれとな。それで私が行った。それだけだ。」


「憲兵の人じゃなかったんですね。」


俺が言うと、


「だから最初に騎士だと名乗っただろう。」


と少し不機嫌そうに言われたがそんなこと俺が知るはずないだろ。


「確かに謀反を許すわけにはいかないが、そもそもそれは私の仕事ではない。騎士としてここで野垂れ死ぬより生き延びて王のため奉公し続ける方を選んだのだ。決してお前たちを許したわけじゃないぞ。」


口の周りをミートパイの脂でテカテカさせながらブツブツ言っている。


「じゃあなんでここまで追ってきた?」


シルヴィアがブラントを睨む。するとブラントはいきなり俺を見る。


「お前の着ていた鎧だ。私の魔術兵装が容易く弾かれた。確かめたかったのだ。何かの見間違いなのかそれとも俺の力が足りないのか。だが、一昨日分かったよ。やはり私の技術不足だ。さらに鍛錬に励まなければ。」


こわいので励むのはやめてほしいのだが。


「そうだ、赤い鎧の少年、名はなんと言うんだ?」


いきなり名前をきかれた。


「えっと、マツムラです。」


知られたくなかったので嘘をついた。


「そうか。マツムラか。そういえば二人は謀反と言うが何をやったのだ?」


「何もやってない!」

シルヴィアが強い口調で言う。周りの人も少しこっちを向く。


「私は命令通りの仕事をした。そしたらいきなりお前たちが…。」


そう言って彼女は拳を握りしめる。


「だが、罪状があるということは何かあるんじゃないのか?」


ブラントの言葉にシルヴィアが立ち上がってつかみかかろうとしたので取り押さえてなだめる。


「せめて罪状を確認してから来るようにして欲しかったですけど。」


とりあえず当たり障りのないことを言っておく。


「確かにそうだ。軽率だったかもしれない。すまない。」


そう言ってブラントは頭を下げる。

ちゃんと謝って来るあたり悪い人ではないのだろう。


「で、私の家族は無事なの?」


少し落ち着いたシルヴィアが尋ねる。


「わからない。私は君たちが王都を出てすぐに追ったから君の家族のことはわからない。だが、あの夜は君たちはその場で殺害しろと言われていたが、家族については拘束と言われていたのでおそらく拘束されているだけじゃないだろうか。家族の拘束は俺の班の仕事じゃなかったからわからない。」


家族はおそらく生きてはいるようだが、あるワードにシルヴィアは反応する。


「王都を出てすぐに追ったって、どこから?」


「関所の管理事務所だ。そこにいた女に行方をきいた。」


「お前!シャルロッテに何をした!」


またつかみかかろうとする。


「まてまて、何もしていない。君たちは私を信用してないだろうが、私は逮捕状も出てない者を手にかけることはない。」


「シャルロッテさんに教えられてここに来たんですか?」

俺が恐る恐る尋ねる。


「それは違う。彼女にも質問したが何も答えてくれなかった。結局、罪人は迷宮都市に行くものだから私もそこに向かった。」


「シャルロッテには何もしてないの?」


シルヴィアはブラントを睨む。

「誓って何もしてない。本当だ。」ブ


ラントからは先程までの堂々とした様子が消えていたため少し怪しかったが、確かめる術もないのでここは彼を信じておくしかない。


「まあ、なんだ。一度私は王都に戻って君たちの罪状を確認する。勝手に罪人だと決めつけて襲撃してしまったことは礼節を欠いていた。この通りだ。許してほしい。」


そう言ってブラントは頭を下げる。


「だが、確たる証拠があった場合は容赦しない。」


キリッとした顔で言い放たれた。


「今後手を出さないって言ったじゃないですか!」


俺も思わず大声になる。


「あくまで一時的な休戦だ。私は王とこの国に忠誠を誓っている以上それを破ることはできない。適切な理由があれば君たちにもそれ相応の対応をすることになるかもしれない。」


確かに彼の立場上はそうだ。王との契約がミートパイに勝る道理はない。


「私たちが潔白なら関係ない話だけどね。」

シルヴィアが呟く。


「まあ、そうだな。俺はもう帰る。ミートパイありがとう。皿はちゃんと返しておくよ。」


ブラントはそう言って立ち去った。


「そろそろ行きましょう。」


俺はシルヴィアに呼びかける。


「そうね。どっかで甘いものでも食べましょう。」


そう言って俺たちは逃げるように人混みに入っていった。

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