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10-1.早い再会

 俺たちがやるべきことはまず、このギルドの経営体制に日本などで使われていた経営体制を取り入れること。

また、新製品を開発するために「発明家」という人物に接触することだ。

だが、俺が知っている日本の経営体制なんてコンビニエンスストアの24時間営業とワンオペくらいしか知らない。

タダヒロも博士課程に進んでいた男なので社会人経験がない。第一24時間営業なんてしんどそうなのでやりたくない。アルバイトの一つでもしておけばこんなことにはならなかったのにと後悔したがもう遅い。

ともかくヒットする新製品を作れば状況は変わるかもしれない。ただ、新製品を作るにしても地域のニーズを理解する必要がある。

日本人が求めているものを理解した上で日本人ウケする商品を作るのであれば俺でも所謂アイディア商品を発明することができるかもしれないが、迷宮都市で求められているものなんてわからない。

さらに新製品を開発するにしてもギルドの組織内にある既存の生産設備やノウハウを流用する方が従業員への負担も少なく目標の達成も早くなるだろう。

俺だって2年後には大学受験がある。異世界に行ったという事情も鑑みて二浪くらいは許容するにしてもここでのんびりしている余裕はない。最短ルートでシルヴィアさんを元の立場に戻して俺を元の世界に帰す研究をしてもらう。そのためには今配られたカードで勝負していくしかない。


そのためには、そのためには…だめだ。何も思い浮かばない。タイムリミットを意識してしまうと変に肩に力が入り柔軟な思考ができなくなる。寒い。昨日はそうでもなかったのに今日はやたらと冷え込む。俺は昔から考えが煮詰まると外的環境に敏感になる。みんなそうなのかもしれないが。

ドンドンとドアを叩く音で我に帰る。シルヴィアが立っていた。


「今日は寒いな。」


昨日もらったお気に入りのコートを着て立っていた。外に出たいのだろう。




人混みから外れなければ大丈夫だというチャックの助言通り繁華街をぶらつくことにした。

俺もギルドで製造販売しているコートを貸してもらった。確かに結構暖かい。日本でも売れるのではないかと思った。

外は雪こそ降っていないがかなり冷え込んでいた。それでも街は活気に溢れている。王都にも大勢人はいたが、ここは王都よりも一段上の活気に包まれている。そう感じた。

何かインスピレーションを得るためには考え込んでいるだけではいけない。こうやって街に出て気分転換することが重要だ。何より俺はこの街を知らなさすぎる。何も知らずにここの人たちが求めるものを創造するなど到底無理な話だろう。

今は仕事を忘れてこの街を楽しもう。もしかしたら発明家との接触ができるかもしれない。あとはブラントに遭わないよう祈るだけだ。


「今日は寒いなヒデオ。私は寒くないけどな!」


シルヴィアが今までにないくらいのドヤ顔で話しかけて来る。よほど気に入っているのだろう。


「良かったですね。良い物もらえて。」


返事をする。


「本当に最高。寒いのは苦手だからね。」


「俺は暑いのが嫌いですね。」


「日本ってどれくらい暑いんだ?」


「うーん、どれくらいって言われると困りますけど、暑い時は人間の体温くらいの温度になりますよ。」


「うわぁ…すごく暑そう。」


「よく死人が出ますよ。」


「日本行きたくなくなってきた。」


シルヴィアの顔が曇る。


「夏はやめた方がいいかもしれませんね。」


「そうだね。」


しばらく沈黙が続く。


「こんなことに付き合わせて本当にごめんね。私がミスをしなければそもそもこんな事になってなかった。軍に追われることも恐ろしい攻撃を身を挺して防いだりすることもなかったはずなのに。ヒデオの平穏な日々を奪ってしまったことは本当に申し訳ないと思ってる。だから…」


シルヴィアが俯く。最近は色々あって忙しかったし、安宿や王都では人の目があるため腹を割った話はできなかった。だが、今はある程度生活基盤が整い心にも余裕が出てきた。それに、街の喧騒は俺たちの口から出る言葉をまるで防音室のように二人の領域内だけに留める。だから俺も今の気持ちを正直に伝える。


「いいんです。もちろん毎回辛かったり、しんどかったり、怖かったりした時にはなんでこんなところに来たんだって思います。今まで出来てたことはできないですし、会いたい人には会えないし、怖い目にも遭います。一刻も早く元の世界にも帰りたいです。でも全部辛いわけじゃないです。でも俺は確かにこの世界で笑ったり、美味しいものを食べたり、挑戦したり色々な事をしています。だから実際悪いことばっかりじゃないんだろうなって思ってます。確かに、俺がシルヴィアさんに対して怒っていないかと言われると嘘になります。言いたいことだって山ほどありますけど。でも、俺が全部に対して怒ってないってことは頭の片隅に入れておいて欲しいです。」


「わかった。頭の片隅に入れておくよ。私も魔術師としての誇りがあるから君を帰すことを諦めることはない。理論上は極めて困難だが、少しでも可能性があるならそれに賭けるのが私って女なんだ。だから、できればこれからもついてきて欲しい。肉壁として。」


最後に少し悪戯っぽい笑顔を浮かべる。これが彼女の精一杯の照れ隠しなのかもしれない。


「何か食べようヒデオ!私のおごりだ。」


シルヴィアが財布をじゃらつかせる。この金は二人で稼いだ気がするがまあいいだろう。


とりあえずミートパイだ。この世界でちゃんと美味しく食べられることがわかっているのがミートパイくらいしかないのだ。パンは酸っぱかったり、他はゲテモノだったりした記憶があるので安心して食べられるファストフードであるミートパイは異世界最高の料理だと言える。

例えるなら、食事がことごとく口に合わない外国にある某大手ハンバーガー店くらいの安心感がある。もっとも俺は海外旅行に行ったことはないが。


迷宮都市のミートパイは王都のものより大きめだった。また、生地も分厚くしっかりとした歯応えで、中の具もこれでもかというほど詰められており味も濃く、香辛料も効いていて脂っこかった。そういえば、ここの料理は全体的にボリュームがあって味が濃い。

これぞ肉体労働者のための食べ物と言ったところだ。気温が低いため最初は良かったが、だんだんペースが落ちていき結局半分くらい余った。


「大きいですね。」


思わず苦笑する。


「ここの人は迷宮に潜って肉体労働をする人が多いからこれくらいがいいんだろうけどちょっとキツかったね。チャックを連れて来るべきだったね。」


「チャックさんなら全部いけそうですよね。でも野暮用があるとかで来なかったですから。」


「残ったやつ持って帰りますか?」


俺がそう言った時、後ろから声がした。


「それ、いらないなら私にくれないか。腹が減って死にそうなんだ。」


シルヴィアの顔は呆然としている。俺も後ろを振り向いた。


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