9-4.経営再建
肩を小突かれる。振り向くと新しい服を貰って得意げなシルヴィアが立っていた。
「似合うよね?」
とキメ顔で目を合わせてくる。
「前の白衣みたいで似合ってますよ。やっぱり白似合いますね。」
と当たり障りのない事を言っておく。異性との関係は薄いが、こういう時はしっかり褒めておくべきだということはよく知っている。まあ、実際ちゃんと似合っている。
「これいいでしょ。丈が長くて内側が毛皮で赤く染められててすごい暖かくて軽いの。あとボタンが奥にもあるから冷気がボタンの隙間から入って来にくいの。あと襟をこうやって開けば首元まで覆えるから首も暖かい。ポケットも多いし、肩にもボタンのこれがあるから実験道具をここにぶら下げられそうで…」
と気に入ったポイントを延々と喋っている。いい服もらえて良かったですね。と思っていると、
「その肩の布はエポレットって言うんだ。階級章の名残だな。」
部屋から出て来たタダヒロが説明して来た。なぜかなんでも知っている彼がいるのでインターネットがなくてもなんとかなっているような気がする。タダヒロはシルヴィアのコートを改めてまじまじと見つめると不思議そうに
「でもそれってトレンチコートだよな?」
と言った。
「トレンチコートみたいですよ。」
まあ、言うまでもなくトレンチコートなのでみたままの事を言う。
「いや、そうじゃなくて。この世界に来てからトレンチコートなんて見たことがないし第一、トレンチコートは第一次世界大戦の塹壕戦によってできたものだ。
階級章はともかく、胸のガンパッチなんかは第一次世界大戦も銃火器も無いこの世界で発展するはずがないんだ。だからこの世界にトレンチコートがあるのは不自然だ。」
「詳しいですね。トレンチコートについて。」
タダヒロを褒めると、タダヒロは目を細めてこう言った。
「だってかっこいいから好きだろトレンチコート。」
同感だ。俺も黒いロングコートに憧れて3000円くらいのペラペラのロングコートを買ったはいいものの、流石に外に着て行くのは痛いとなんとか理性が働いてくれたのでクローゼットに押し込んであるコートがあるのでその気持ちはわかる。親が家にいない時はたまに着て家の中をうろうろしていた。この話はやめよう。
確かに言われてみれば第一次世界大戦の塹壕戦を経験していないこの世界で、こちらの世界と全く同じデザインのトレンチコートが作られるのは不自然である。
「このコート着てるやつ他に見たことあるか?チャック?」
タダヒロが後ろで見ていたチャックにも質問するが、彼もまた首を横に振るだけだった。
「おいローマン!このコートどこで作ったんだ?」といきなり呼ばれたローマンが顔を出す。
「それは、いつやったかな。タダヒロがここに来るちょっと前に何か新製品を作ろうってことで発明家とか呼ばれてるやつに依頼してデザインしてもらったやつや。斬新で便利そうやけど全く売れんかったから倉庫にしまってたんや。」
ここへ来て爆弾発言だ。これをデザインした人間がいる。全くの偶然でこのデザインを思いついた可能性もあるが、その発明家という男が俺たちと同じ転移者である可能性は高い。
また、彼が転移者であった場合、少なくとも第一次世界大戦以降の人間で、なおかつ数年前にはまだ生きていた可能性が高い。
発明家と会うことができれば何かわかるかもしれないし、経営再建の手掛かりになるかもしれない。
「発明家はどこにいるんですか?」
「手紙でのやりとりしかしてないからわからんな。しかも五、六年前やし申し訳ないですけど分かりませんわ。」
とローマンは首を横に振る。
経営再建が成功するにしろしないにしろ、発明家に会っておく必要があるだろう。
俺とタダヒロは頷き合う。シルヴィアは嬉しそうに服を眺めていた。




