100.離別
大勢の反乱軍兵士が家の前に集まってくる。この辺りで目撃情報があったことからこの周辺を捜索しているのだ。
「音を立てるな。息もするな。」エルナンは小声で言う。
…
しばらく場を静寂だけが支配する。聞こえるのは自分の心音だけだ。
キーンはふと窓の外を見る。
向かいの建物の屋根上からこちらを凝視している反乱軍兵士三人と目が合った。
「ひっ!」キーンが悲鳴を上げると同時に、屋根上の兵士三人が喚き散らす。
同時に下の階からドンッと大きな音にする。
「まずい!バレたか!」チャックが立ち上がる。
「え?私たちここで戦うの?」シルヴィアが青ざめる。
「作戦は戦いながら考えろ!今はまず入ってきた奴らを倒すんだ。」双剣の男が剣を抜く。
同時にドアが破られたような音がしてドタドタと敵が入ってくる音がする。
「緊張で吐きそう。」俺は弱々しく呟きながら反乱軍兵から奪った剣を握った。
ドタドタと反乱軍が階段を駆け上がってくる。
チャックがすかさず家具を階段から落とす。登ってきた兵士は折り重なって倒れていく。
弓兵二人も窓の外の敵に矢を射かける。だが多勢に無勢。圧倒的人数差ですぐに守りを突破されて押し込まれていく。
シルヴィアの召喚した光る腕はかなり有効だったが所詮は時間稼ぎにしかならなかった。
チャックは何かを思いついたように俺たちに階段の防衛を任せると、壁をハンマーで叩き壊し始める。壁を破壊すると隣の家の壁が見える。チャックは黙々と隣の家の壁を破壊する。
「こっちの建物に移れ!」チャックは俺たちに手招きする。こう言う時の判断力は光るものがある。まずは総督を隣の建物に移す。建物の損傷を気にしなくてよくなったシルヴィアは容赦無く火炎放射で反乱軍を追い散らし始める。
「シルヴィアさん!燃やしすぎです!」俺は夢中で火炎放射をするシルヴィアを引きずって隣の家の穴に投げ込む。
こっち側に残っているのは俺だけだ。あとは俺が飛び移るだけだ。シルヴィアとチャックが俺を受け止めようとしている。
助走をつけてジャンプする。だが、タイミングよく俺の頭に敵の投石が直撃する。
そのまま俺はバランスを崩し落下した。
「ヒデオ!」シルヴィアは身を乗り出そうとしてチャックに引き止められる。
「大丈夫だ。あいつは悪運が強い。ヒデオを信じろ。」チャックはシルヴィアに言い聞かせる。
シルヴィアは心ここに在らずといった様子でなんとか落ち着こうと深呼吸する。
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俺はのっそりと起き上がる。柔らかい干し草の上に落ちたおかげで怪我や痛いところはない。
俺は干し草の山から這い出る。持っていた剣はなくした。
シルヴィアたちは先に行ってしまったか。寂しいが正しい判断だ。俺のせいで共倒れなんてことになればあの世でどんな顔で会えばいいのか。
まずはここから離れよう。あわよくば先回りして合流したい。幸い周りに敵はいない。おそらく壁を破壊しながら逃げているシルヴィアたちに集中しているのだろう。
もしかしたらチャックは落下して無防備な俺から敵を遠ざけるために先に行ったのかとも考えた。
まあ、そこは都合の良いように解釈しよう。詳しいことは生き延びてから尋ねればいい。
まずは合流のため努力しよう。今の安全な立場で門の偵察をすればいい。
眉間を矢で射られて倒れている反乱軍兵士から汚いマントを剥ぎ取って被る。武器も持とうとしたが、冷静に考えれば戦っても勝てないので武器は捨てて速さ全振りすることにした。
まずは東門を偵察する。そこで脱出の糸口を作る。
なんとかスパイの経験を活かして開門できないものか。俺は走りながら考えた。