99-2.炙り出し
しばらくすると反乱軍兵士はまわりからいなくなった。
「何とかなるもんだな。」チャックが口を開く。それから堰を切ったように皆が話し出す。
そんななかロースがシルヴィアに寄って行って服に鼻を擦り付けはじめる。
「ん?どうしたの?」シルヴィアがロースを撫でる。
「怖かったんですかね。」俺はロースを撫でる。
「大丈夫だよ。まあ、断言はできないけどね〜。」シルヴィアは苦笑いする。
それでもロースはシルヴィアから離れない。
「シルヴィアさん突然懐かれましたね。」
「ロースかわいいなぁ。」などという話をする。
「おい、なんか焦げ臭くないか?」爪の男が不安そうに言う。
「「「え?」」」皆は青ざめる。
「ほら!」爪の男は窓を少し開ける。
確かに煙臭い。
「まずいぞ!」という言葉と同時に味方の弓兵が屋根の穴から飛び降りてくる。
「どうした?」エルナンが尋ねる。
「あいつら、俺たちを炙り出すために街に火を放ちやがった!」弓兵は息を荒くしながら怒鳴る。
「火を?」俺たちは驚愕する。
「まずいぞ。かなり火の回りが早い。消火は難しそうだ。逃げるなら早めに動いたほうがいいだろう。」弓兵の言葉に俺たちは静まり返る。
「ここに長居するわけにもいかないわけだ。」チャックが残念そうに言う。
「売上が上がるから気に入ってたんですが。」マルダニオスも残念そうだ。
「とにかく、ここから出よう。」エルナンはため息をつく。
「どっから出ます?」俺は尋ねる。
「上から出たいが、総督を運ぶには下を通るしかない。」エルナンは考え込む。
「取り囲まれちゃうじゃないですか!」キーンが大声を出す。
「その時はお前が囮な。」エルナンが素っ気なく言う。このパワハラ上司。
作戦が決まった。ロスと暗殺部隊の憲兵、カット、爪の男の四人が屋根の上から偵察や援護をする。残りは陸路を進む。 最初は俺も屋根上班に抜擢されかけたが、高いところが苦手なので丁重にお断りした。だが、冷静に考えれば下も怖い。
「よし、じゃあ出発するぞ。」エルナンが皆に目配せする。
「ええ?もう行くの?」シルヴィアは嫌そうな顔をする。
「退路を火に塞がれてから動く気か?」双剣の男が呆れたように言う。
「それもそうか。」シルヴィアは納得する。
「よし、計画通り行くぞ。行け!出ろ!」エルナンの掛け声と共に俺たちは外に出る。
外に出ると先に外に出ていたロスが合図する。
そして俺たちは東門を目指し出発した。
「こっちの路地はガラ空き!こっちに行って!」ロスの誘導で俺たちは右に曲がる。
総督を背負って素早く動けるロースのおかげでスムーズに動けている。
「こっちだこっち!」カットの誘導に従う。
数人の兵士がこちらに気付いて抗戦の姿勢を示したが、チャックと双剣の男が一瞬で全員仕留めた。
「味方が強いと心強いですね!」俺はシルヴィアに話しかける。
シルヴィアは走るのがやっとのようだ。基本的に非戦闘員なので仕方ない。
「まずい!そっちには敵が大勢いる!」暗殺部隊の弓兵が警告する。
「よし、ならこっちだ!」エルナンが曲がり角を曲がろうとする。
「こっちもダメだ!」カットが偵察を終え帰ってくる。
「後ろからも来てる!」ロスも上から伝達する。もうちょっと大きい声で喋ってほしい。
「くそっ、もう嗅ぎつけられたのか!」エルナンが無念そうに言う。
「囲まれたらいくら俺たちでも捌ききれんぞ?」双剣の男が言う。
「どうする?」チャックがエルナンに尋ねる。
エルナンはしばらく考え込む。
「仕方ない。籠城だ。」彼はそう言って頑丈そうな建物を指差した。
「結局また籠城ですか?」キーンは嫌そうに言う。
「火からは遠ざかった。悪い選択じゃない。」そう言うとエルナンはキーンを建物に押し込む。
「お前たちも入れ。さあ、足を止めるな!」
エルナンに怒鳴られ俺たちは建物の中に入る。
「おいクソ豚!お前もだ!」エルナンはロースを建物に押し込む。
「とりあえず、ここで援軍が来るまで耐えるしかないね。」シルヴィアは不安げに呟いた。
「マーカスたちは薄情だな。」チャックは出入り口を家具で塞ぎながら呟く。
「来てくれますかね。」俺も呟く。
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マーカスとベルモントの戦いは一進一退であった。お互い損害を受け両者これ以上の戦闘は無駄な犠牲を増やすだけであると判断し撤退した。
そして、両者ともピリマの市街地への援軍を送ることが不可能になった。
「あとは頑張れ。」マーカスは街に向けてそう呟くと再編成のため北へ向かった。