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9-3.経営再建

 俺たちはこのギルドがまだ元気だった頃に寮として使われていた部屋を貸してもらうこととなり、念願の個室を手に入れることができた。

ひとまず住処を確保できたのは嬉しいことだ。シルヴィアも前より元気になったように思える。

それはそれとして、今一番重要なのはこのギルドの経営再建の方法だ。今俺たちは会議室にいる。俺は久しぶりに鎧を脱いで身軽になることができた。

会議室にはチャックもいるし、もし襲撃にあったとしてもなんとかなるだろう。


「俺が司会進行でいいな?」


タダヒロが確認すると皆が頷く。会議室にはタダヒロ、俺、ウィズバン、チャック、ギルド長、副ギルド長、経理の偉い人、現場責任者が揃った。


「まず、このギルドの現状、課題の分析から始めよう。誰が説明してくれる?何も知らない彼らにもわかりやすく。」


タダヒロがギルド関係者を見渡すと副ギルド長が立ち上がる。


「じゃあ私が説明しますね。我々は主に30層から40層で活動していてそこで採れる物品。主要なもので言うと、毛皮や牙、油脂や硬度の高い外骨格、水晶体なんかをダンジョンから採取して販売しているんです。

ただ、最近は上で活動していた連中が力をつけてこっちまで進出してきまして、こっちも下に行こうにも現場も実力的に下に行くのは厳しくてですね。結局勢いと価格競争に負けて今経営が危ういんです。」


副ギルド長が説明を終える。


「説明ありがとう。何か質問はあるかな?」


タダヒロが俺の目を見てきたのでとりあえず何か質問しなければと思いなんとか捻り出した質問をする。


「ダンジョンから採れるものは主に何に使われているんですか?」


タダヒロが副ギルド長に目配せする。

「まず毛皮に関しては衣類ですね。頑丈で軽量、さらにあたたかいのでちょっとお高い防寒具に使われています。

油脂は高級料理や薬です。動物性油脂にも関わらずクセがなくて香りが良くてお年を召した方にも人気の高級油脂です。

牙は調度品の原料。水晶体は魔導具の一部として、小さいものはアクセサリーとして販売しています。

特定の魔物の外骨格は金属を含んでおり軽量で強度が高く、防具のフレームとして使われています。鉄で同じフレームを作るよりも外骨格を使用した方が強度はそのままで軽量になります。他にも細々ありますが、主要なのはそんなところですね。」


「ということだ。説明ありがとう。」


タダヒロが言うと副ギルド長は着席する。


「売り物は悪くなさそうだよね。軽くて暖かいコート着てみたいかも。」


シルヴィアが呟く。


すかさずローマンが「じゃあ着てみる?シルヴィアちゃんは似合うと思ってたんだ。」


と売り込む。

「ぜひお願いします!」


シルヴィアは目を輝かせて食いつく。そのまま二人は満面の笑みを浮かべながら外に出て行った。ウィズバンも心配そうについていく。


「ローマンはああみえて結構乙女なんだよ。でも大丈夫。あいつは質実剛健の妻帯者だから。」


タダヒロが言っているが何が大丈夫なのかはよくわからない。


「でも、たしかにシルヴィアさんの言っていた通り、売っているものは特に変でもないですよね。コートとか魔導具とかこの町では使われそうですし。」


「ダンジョンの底はすげえ寒いから防寒具は大事なんだ。だから軽量で暖かくて頑丈な防寒具が必要になる。」


チャックが補足する。


「チャックはどんな防寒具を持ってるの?」


と質問すると、


「ここのものより高級なのを使ってる。」


と言われ場が凍りついたのでタダヒロが話を変える。


「財務諸表はあるか?つまり会計の帳簿とか。」


タダヒロがそう言うと経理担当の女性が分厚い紙束を持ってきた。

タダヒロはそれを受け取ると一緒に見ようと俺を呼んだ。


「ここの文字読めないんですけど。」


そう言うとタダヒロは言語学習には経験が大事だといいながら説明し始めた。タダヒロ曰くここの会計方式は単式簿記と呼ばれるものらしく、俺たちが前までいた世界において主流の複式簿記とは違い、単純で経営には不向きなものらしい。

複式簿記とは違い細かい金の流れが記載されておらず、どんぶり勘定になっているようだ。


「詳しいですね。」


と素直に感心した。


「経営学部の講義に忍び込んだことがあるからな。ちょっとだけなら知識はある。」


「じゃあタダヒロさんがやった方がいいんじゃないですか?」


「お前がやんなきゃ意味ないだろ?」


「それはわかるんですけど。とにかく会計をもっと細かくつけさせる方がいいってことですか?」


「そうだな。ただ、複式簿記なんて俺知らないぞ。」


「俺も知らないです。」


じゃあダメだ。知らないものは教えられない。知っていたとしてもここの会計担当者が理解できるように説明する自信がない。多少のどんぶり勘定は許容しつつ経営再建を図るしかない。


「まあ、日本で使われてたような確立された会計の仕組みを導入するのは無理だが、帳簿の項目を細かく書かせるくらいはできるだろう。」


会計上の問題は当面それで行くことにする。


 「でも、すぐに目に見えた成果を出すなら人員削減とかの方が効率はいいですよね。」


と半分冗談で言ってみる。


「確かに、人員削減は短期の数字を良くするなら効果的だが、所詮短期だ。中長期的に見れば体力を失って結果的に経営が傾く。

お前がペトロバツと速攻で決着をつける自信があるなら悪くない作戦だが、長期戦になればまた安宿生活に戻るハメになる。

横着せず盤石に足元を固めた方がいい。」


タダヒロに諌められる。


「私もタダヒロの意見に賛成。言ったでしょ。私たちの浅知恵でどうにかなる相手じゃないって。長期戦の備えは必要だよ。」


戻ってきたシルヴィアがそう言って自分の席に腰掛ける。


「あれ?シルヴィア、お前防寒着もらわなかったのか?」


チャックがシルヴィアに尋ねる。


「ふふふ。今ちょっと袖丈を調整してもらってるの。」


めちゃくちゃ嬉しそうだ。

「人員削減は私個人としては反対ですね。」


シルヴィアの後からローマンさんが入ってきた。


「ここにいる奴らはみんな今まで一緒に働いてきた仲間ですからね。経営を立て直すっていうのは彼らを守ってこそやと思います。」


経営者としての威厳なのか。仲間を守るという責任感なのか。彼の言葉は少し重く感じた。


まあそもそも、俺に彼らを解雇する権限はないし、そういう汚れ仕事をすることはないという確認ができたことは良かった。ただ、自分が冷酷なコンサルになったみたいで少し気まずかった。




 それからも色々と話し合った。結果だけ簡潔にまとめると、会計はどうにもならないとして、次に挙げられる問題は所属する冒険者達の実力不足だ。

長年中間層で活動してきたためある程度の実力はあるものの、それ故に向上心を失いそれ以上の下層で活動していない。

新興勢力が力をつけ活動範囲が広がったため相対的に立場が危うくなっている。実力が0の俺が他人の実力不足を指摘するのもおこがましいが、経営再建のため彼らの練度を上げるというのも重要だろう。しかし、副ギルド長の「さらに下層に進出すると従業員の死傷率が上がってしまう。我々は従業員をこれ以上の危険に晒すことは本意ではない。」という言い分にも正当性がある。

同じギルドの仲間が怪我をしたりせずに済むならそれに越したことはないだろう。訓練ならチャックがやってくれると言ったので、練度を上げてさらに下層で活動する方針を採用する場合はその手を使うべきだろう。

次の問題は販売する商品と商品の売り方についてだ。おそらくここに手を加えるのが最も手っ取り早いと言える。

会計や練度は俺にはどうしようもない問題だが、新商品の考案やマーケティング戦略に関しては、俺やタダヒロが日本で暮らしてきた経験が生きるだろう。これと言って考えたことはないが、スーパーやCMをみて商品を買うという経験から逆算すれば新商品や経営戦略の良いアイディアが浮かぶかもしれない。


そういった話し合いを経て、今回の会議はお開きとなった。決定事項は大まかに


①会計は今まで以上に細かく出納を記録する。会計の仕組みの大幅な変更は当面行わない。


②所属冒険者達の練度向上は、本人達からの希望があればチャックが指導する。


③日本などで使われている商品や経営体制の導入をメインに行なっていく。


④人員削減などは行わない。


であった。

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