71-1.誘導
後日、俺たちはついに勧誘活動のため要塞を出た。
目的地は、ソルマンが村人を陰に変えたあの村だ。
「今から行く村はかなり反帝国の意識が強いです。この前も小競り合いで死者をだしたりもしていました。」俺は道中で嘘の説明をする。
「だが、穏健派も進出していると?」兵士の一人が尋ねる。
「はい。ですから急いだ方が良いかと思います。その村は首都からも遠くないので、上手くいけばかなり重要な拠点にもなります。」俺は説明する。
村に着く。当然だがだれもいない。村人は教会ですでに陰になっているのだから仕方ない。
「あれ?だれもいないですね。」俺は不思議そうな顔をする。
「農作業でもしているのか?」
「全員で?ありえない。」反乱軍兵士が否定する。農業に対する知識は彼の方が上なのは明白であり、農業の話は極力しないようにする。
「誰もいないのか?農地の手入れもされてない。」もう一人の兵士も畑を見ながら不思議そうな顔をする。
「おかしいですね。誰もいないなんて。おーい、マイケルさん?」俺は適当に知り合いっぽい人を探す風に家のな顔を覗く。もちろんマイケルさんなんて知らない。
しばらく家の中を探し回る芝居をする。
「やっぱりだれもいない!」俺は慌てたような顔をする。
この村に誰もいないことはあらかじめ知っているが、知った上でも誰もいない村を眺めると何かとくるものがある。
「村の中を探し回りましたが誰もいません!」兵士が血相を変えて走ってくる。
「なんだと?」アレクサンドラは眉を顰める。
「もしかしたら教会で祈ってるのかも?」俺は教会を指差す。
ギイっと教会の扉が開く。
「あれぇ?」俺は思わず素っ頓狂な声を出す。
ない。どこにもないのだ。あれだけあった影が。
当てが外れて変な声を出してしまったが、教会に誰もいないことで村人が誰もいないということが判明したタイミングであり不審がられなかった。
「むう、教会にもいないとは、一体どうして?」アレクサンドラは眼を細める。
間違いない、ここはシルヴィア達といたときに影を発見したあの村だ。影がなくなるなんてそんなことはない。あの影は時間経過で消えるものだったのだろうか。床板を張り替えたとか?だが、床板を張り替えられたようには思えない。床材は全て年季の入った木材だった。
そうだ、シルヴィアが影の部分を削り取った痕があるはずだ。それがなければ床材は張り替えられたということになる。
「そんな…みんなどこに…」俺は絶望に打ちひしがれたように床に膝をつき四つん這いになる。
側から見れば、気心知れた村人が行方不明になり絶望しているように装いながら床をよく見る。
やはり、シルヴィアが削り取った痕がない。やはり床材は変えられている。
だが、ここまで短時間で床の張り替えなどできるのだろうか。いや、できる。昔友達の家でフローリングの張り替え工事をしたらしいがすぐ終わったらしい。ソルマンの部下には大工だっているだろう。だが、ここまで自然に年季の入った床材を短時間で揃えるのは難しいだろう。
だとしたら…俺は床材を撫でる。
まさか、床材を裏返したのか?俺はハッとする。だが、それを確かめる術はない。いきなり床を剥がしてほら、ここに影がなんてやっても不審なだけだ。
それに、俺以外からすれば影を見つけても今回の村人消失事件との関連性があると断定することはできない。だが、影がないにしろ村人が突然消えたという事件が反乱軍のトップに認知されたということは素直に喜ぶべきことだ。
「勧誘も重要だが、これについても調査しなければならないな。」アレクサンドラは困り果てたような顔をする。
「そうですね。他の村にも注意するよう伝達を行います。」兵士が言う。
「そうしてくれ。」彼女は頷く。
俺も頷いた。




