69.シェレンスク市街戦
「本当に行くの?」女性が武装した男性に尋ねる。
「ああ。ここで戦わなきゃみんな殺されるからな。」男性がぎこちない笑みを浮かべる。
「でも、危ないよ。」女性は男性の服を掴む。
「大丈夫。援軍が来るまでここで耐えればいい。大丈夫。」男性は女性を抱きしめる。
「帝国からの返答の猶予は今日まで。きっと今日中に攻撃が開始される。」
「嫌だねぇ。」
「結局市長はどう返事するの?」
「クソ喰らえだ。」
「当たり前だ!」土嚢や家財で作られたバリケードがそこらじゅうにある街中では人々が皆で話している。
「母さんまで行く必要はない。」
「私も戦うよ。街の防衛を男だけに任せたらまた酔っ払った時長い武勇伝を聞かせられるからうんざりなの。」体格の良い女性が強気に言い放つ。
「おい、釘持ってきてくれ。」父親は娘から釘を受け取り板で窓を塞ぐ。
「さあ、そろそろ地下室に隠れなさい。」父親は娘の背中を押す。
「戦いが始まるの?」娘は不安そうに尋ねる。
「ああ。そうだよ。だから安全なところに隠れてなさい。街もこのお家もお父さんが守るからね。」父親は優しく娘の頭を撫でる。
若い男たちは槍や弓の訓練をしている。また、女たちも城壁から落として攻撃できそうなものを持ち寄っていた。
帝国軍の降伏勧告の期限である本日、シェレンスク市民の士気は最高潮にあった。無論降伏はしない。
人々はうわつきながら運命の時を待った。
「時間です。」将校が報告する。
「返事は?」ガムラン大将が尋ねる。
「クソ喰らえ。と。」将校は申し訳なさそうに少し小さい声で報告する。
ガムランはため息をつく。
一呼吸置くと軍帽を被り直す。
「やむを得ないな。」ガムランは別の将校の目をみる。
「やりたまえ。」短くそう指示した。
風切り音と共に城壁を飛び越えてくる球体をシェレンスク市民は見守った。
これが開戦の号砲であると市民たちは無言の結束をした。
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三日後、帝国軍側の破城槌がシェレンスクの正門を破壊する。そこから大勢の帝国軍兵士が雪崩れ込む。
あれだけ士気が高かったはずの市民からの抵抗は一切ない。
悠々と帝国軍が静かなシェレンスクを行進する。
「さて、お前ら。ご褒美の前に片付けだ。」部隊長が兵士たちに指示する。
兵士たちはブーブーと文句を言いながら作業を始める。
「お前そっち持て。」兵士がもう一人の兵士に言う。
「こっちは持ちにくいんだよ。」兵士がぼやく。
「いいから、何のための良いガタイだ。ほら、1、2、3!」そう言ってそのまま二人はそれを荷車に積み込む。
荷車には何人もの遺体が折り重なっていた。その遺体の顔は皆苦悶の表情であった。




