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62-1.脱獄失敗

 目があってしまったが俺は諦めなかった。案外普通に歩いていれば俺が囚人だとは思われないはずだ。ここは大きな屋敷だ。例えば学校で上級生の服を着た人が歩いていたとして、それが在校生かどうかはわからない。同じ学校でも学年が違えばそういうものだ。つまりここでも…

「ちょっと来て。」女性が言う。

俺はそのまま歩き去ろうとする。

「ちょっと、あなたに言ってるのよ。来なさい。」女性はそう言って左手で手招きする。

「終わった。」俺は呟いた。


俺は半強制的に女性の部屋に招かれる。本棚に囲まれており真ん中に机と椅子がある。書斎のようだ。難しい本が多いのかと思ったが、どれも小難しい本などではなく小説や物語のような娯楽本だ。異世界語勉強の成果が出ている。

「ちょうどいいところに来たね。」女性は言う。何もよくないが。

女性は痩せこけた中年の女性だ。おそらく40〜50代といったところだ。

「カーターにこれを渡してきてくれない?」女性は紙を手渡してきた。書類だろうか。

「かーたー?」俺は尋ねる。

「カーターだ。」女性は頷く。

カーター?カーター。どこかで聞いた名前だ。

「えっと、カーターさんはどこにいらっしゃるんでしょうか。」俺は時間稼ぎの意味も込めて尋ねる。

「知らない?」女性は不思議そうに言う。

「すいません。知らないです。」俺は顔を見られないように顔を逸らす。

「新入りか。まあいいか。じゃあついて来て。」女性は右手で俺の方を叩くと先に歩き出した。

女性の右手には親指と人差し指以外がなかった。何があったのだろう。

ともかく、まだ俺が囚人だということはバレていない。とりあえず女性について行くことにした。

「どこから来たの?」女性が歩きながら尋ねてくる。

「あ、えっと、西部です。」俺は適当に尋ねる。

「へぇ、西部ってどんなところなの?」

「海が近くて、魚が美味しい…です。」俺の故郷も海が近かったからそれっぽいことを言う。

「私は西部に行ったことがないからね。魚料理も食べてみたいな。」女性は羨ましそうに言う。


しばらく歩くと扉を開ける。

「カーター。持って来たよ。」

「いきなり入ってくるな。俺が全裸だったらどうするんだ。」スキンヘッドにメガネの40代くらいの小柄な男性が冷静そうに対応する。

「これ、持って来たよ。」女性は手に持った紙を見せつける。

「ああ、そのへんに置いといてくれ。」カーターは手で適当に指示する。

女性はそれを見てむすっとした顔になる。

「おい、この紙あの本棚の上に置いてやれ。」女性は俺に紙を渡して高い本棚の上を指差す。

「え?」俺は困惑する。

「やめろやめろ、届かなくなるから。」カーターは焦ったように立ち上がる。成程、彼は身長が低いので本棚の上に置かれるとまず届かないだろう。

「渡すなよ新人。」女性は俺の肩を叩く。

「それ渡してくれ。」カーターが紙を見上げる。

「え?え?」俺は困惑する。

「人に何かやってもらったら、何か言うことがあるんじゃない?」女性はニヤリとしながら言う。

「わかったよ、わかったから。ありがとうサンドラ、これでいいだろ?」カーターは早口で言う。

「はい。渡してあげて。」サンドラと呼ばれた女性が言ったので俺は紙を渡した。

こいつら仲良いなと微笑ましく思ったが、彼らは村人を陰にして俺を捕まえていた悪者なのは間違いない。ほっこりしている場合ではない。

「じゃあ、ありがとうね。」女性が去ろうとする。チャンスだ!と俺は心の中でガッツポーズをする。

「そういえば君、名前は?」彼女は尋ねてきた。

「ま、松本です。」俺はこの世界で偽名を使いたい時は松本と言うようにしている。

もしも松本さんがこの世界に来た場合、俺が松本名義でやらかしまくっているので用心してほしい。

「あっ、そうだ。ついでに他の場所も案内しておこうか。」サンドラと呼ばれた女性は思いついたように言う。

面倒見が良いのは良いことだがここではやめてほしい。

俺が何か言う間も無く俺は施設紹介に連れて行かれた。



「ここが私の部屋。」

「ここが厨房。」

「ここと、ここと、ここと、ここが物置。」

「それで、ここが資料室。」

「ここがジェファーソンの部屋。」

「ここが武器庫。」

「こっちが地下に繋がる階段。」

「ここも倉庫。」

「これが食料庫。」

「ここが牢屋。」俺は背筋が凍る。

「ここから先はソルマンのナワバリだから命が惜しいなら入らないほうがいいよ。」

「あそこに見える建物にベルモントがいる。まあ、素人が行くところじゃないね。」


「覚えた?」女性は俺に尋ねる。

「あ、はい。」俺は生返事をする。覚えられるわけないだろ。

だが、俺は歩きながら常に脱出方法を考えていた。いくつか良さげな場所があった。

「じゃあこれで。」女性は今度こそどこかに行こうとした。

俺はできるだけ自然にマークしていた脱出口の一つに向かおうとする。

「そういえば、どこに行気なの?」また尋ねてくる。

「そ、外の空気を吸いに行こうと思って。」俺は咄嗟にニコニコしながら嘘をつく。

「そうか。じゃあ私も行こう。」女性は呟いた。

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