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52-2.夜襲

村人たちも耳に手を当てて聞こえないというジェスチャーをしている。

ロスは確認のため炸裂矢を魔獣に放った。爆発したが一切音が聞こえない。爆発の際に胸を揺さぶるあの感覚さえもない。

間違いない。これはあの魔獣の能力だ。音が聞こえないというより、爆発の衝撃すら感じなかった。皆音が聞こえない。これでは人類の武器である高度なコミュニケーションが封じられてしまう。そのままでは全滅だ。

考えろ。考えるんだ。俺は心の中で呟く。自分の知識を総動員するのだ。ここで得た知識も日本で得た知識も。


音が聞こえないようにしているわけではない。それより上の事態だ。

まさか、空気の振動を無効化しているのか。だとしたら腑に落ちる。

包囲班の二人が叫び声もあげず殺されたこと。夜に豚三匹が音もなく惨殺されたこと。爆発の振動が無いこと。全てにそれで納得がいく。理屈はわからないがそれで間違いない。

だが、問題はそれを伝えたいが、音が聞こえないせいでそれができないということだった。

音が空気の振動であると知っているのは俺だけなのかこの世界では常識なのかは知らないが、ともかく筆談以外での情報交換が不可能だった。

その間に魔獣は村人たちの方にゆっくりと歩み始めた。村人たちは総崩れといった様子でパラパラと逃げ始めた。反乱軍兵士たちもコミュニケーションができず統率が取れていない。

筆談だ。俺はこっちの文字を勉強中なのでペンはある。紙だ紙があれば。伝えることができれば”あれ”ができるのだ。

紙。紙はないか。ポケットを漁る。


ゴワゴワした手触り。紙だ。広げて書いてあったものをみて俺は苦笑いした。

俺は急いで紙に文字を書いてシルヴィアに見せる。

『ウィズバン 貸して』俺は拙い文字でシルヴィアにそう伝えた。

シルヴィアは力強く頷いて俺にウィズバンの所有権を譲渡した。

これで俺も役に立てる。俺はそう思うとクロスボウを構え矢を放つ。

矢は魔獣の尻に当たり炸裂する。

魔獣は機嫌が悪そうにこちらを振り向く。

そしてこっちに駆け寄ってくる。さっきまで歩いてたじゃないか!もう毒を分解したのか。と思ったがどうしようもない。

はっきりいってかなり怖い。気絶しそうだ。とても後悔している。

だが、勝算はある。これが決まれば戦況をひっくり返すことも可能だ。

俺はシルヴィアにジェスチャーで避難するように言う。

俺は筆談に使った紙を捨てる。

まさかあのおふざけが役に立つとは。俺は苦笑いして魔獣に向けて走る。

俺は魔獣めがけて屋根から飛び降りる。


捨てられた紙切れにはこう書いてあった。”PRESS”と。

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