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51-2.競走

 ブッ。と仔豚の鳴き声がする。俺たちがその声のした方をみるとロスさんのスカーフを巻いた仔豚がこちらを見つめていた。

「ロス…お前そんな姿に。」チャックは泣き真似をする。

「ロスさん…」シルヴィアも泣き真似をする。

「ロースさんだ。」俺も呟く。

チャックがロースさんを抱き上げると仔豚はプギィ!と嫌がる。

「すまんすまん。」と言いながら仔豚を膝に乗せる。仔豚はずっとチャックの膝の上で口をくちゃくちゃする。何か食べているのだろうか。

ロスさんは普段から寡黙でどんな人かよくわからないが、結構面白い人なのではないかと思った。

シルヴィアは奥から壺に入ったお茶を持ってくる。南部は温暖でそんな中で農作業をする村人たちには必需品の壺だ。この壺は魔導具で、電池のように魔力を込めた石をセットすると凍結術式が発動し、壺の中のものを冷やすのだ。

俺たちはキンキンに冷えたお茶を飲む。


「そういえば、次はこの仔豚をうまく使えませんかね。」俺は思いついたことを言う。

「囮にするのか?」チャックは冗談めかして言う。

「そうじゃないですよ。前に村に被害が出なかったのは仔豚ちゃんが早めに気づいてくれたからなので、今度もこの子も嗅覚を利用できないかなと思って。」

「確かに、ポテンシャルとしては猟犬の代わりにはなりそうだけど、代わりにならないだけの理由がある。重要な役割を任せるのは良くない。」シルヴィアが言う。

「たしかに。猟犬みたいに訓練されてるわけじゃないですからね。」俺は仔豚を撫でる。

「あくまでうまくいってくれれば役にたつくらいだな。」

「そういえば、俺って仔豚より役に立ってなかった。」俺は衝撃の事実を思い出す。

「役に立った立ってないで考えるのはやめろ。俺だってそれを言うなら役に立ってない。役に立ったかどうかなんて至極どうでもいいことだ。」チャックは俺を嗜める。

「そう。私も射線が通らない森では役に立たない。特定の状況だけでも役に立てるなら上出来。どこでも役にたつなんてあり得ない。」ロスがそう言いながらいきなり入ってくる。

「あっ、人間の方のロスだ。」チャックが驚く。

「どっちが本物だと思う?」ロスが尋ねる。

「こっち。」チャックは仔豚を持ち上げる。

「後ろに気をつけな。」ロスがニヤリと笑う。

「後ろには嫌な思い出があるんだけどな。」チャックは苦笑いする。

「準備はどの程度進んだ?」シルヴィアがロスに尋ねる。

仔豚からスカーフを取り戻したロスは口を隠すと、

「増援はまだ来ていない。村の強化はまだまだってかんじ。それに、どうして包囲をすり抜けられたのか、なぜ殺された二人は何もできなかったのかもまだわからない。」

「むずかしいね。誰も死なせないなんて言ったけどうまくはいかないね。」

シルヴィアは辛そうに机に突っ伏す。

「戦いだから犠牲は仕方ない。罪悪感を覚える必要はない。」ロスはシルヴィアを慰める。

「そうかもしれないけど…」とシルヴィアが言いかけたとき、いきなりマーカスが家に入ってくる。

「俺は少しここを離れる。」マーカスはいきなりとんでもないことを言う。

「怖気づいたか?」ロスが睨む。

「確かにおっかないな。だがそうじゃない。これだけの人数では足りない。もっと人を集めるには俺自身が行かないといけない。」

「まあ、そうだよね。」シルヴィアは仕方ないという顔をする。

「魔獣もすぐに怪我が癒えるわけじゃない。次来るまでには戻るさ。」そう言ってマーカスは部下を二人連れてどこかへ行ってしまった。


「7人減ったか。」ロスが不安げな顔をする。

「マーカスたちはいつまでに戻りそう?」シルヴィアが尋ねる。

「早くて明後日かな。」ロスは答える。

「祈るしかないですね。」俺が言うと仔豚もブッと鳴いた。

「まあ、物資も不足気味だ。ここで多少危険を冒してでも補充しないとな。」チャックが窓の外を見ながら言う。

ロスはすぐに弓と矢筒と水、食料をつかんで家を出る。

「どこ行くんだ?」チャックが尋ねる。

「見張りしてくる。魔獣もバカじゃない。私たちと同じで一番守りの薄い瞬間を狙う。あなたたちも気をつけて。」ロスはそう言うと慌ただしく外に行ってしまった。

「用心しないとですね。」俺はそれを見てつぶやいた。


 ロスは櫓の上で武装を確認する。火の精霊によって強化された炸裂矢が10本ある。もう少しほしかったというのが正直なところだが、二日ちょっとで10本しか強化できないなら仕方がない。

森の方を眺めるが今のところは異常なさそうだ。とりあえず保存食を食べることにした。

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