48-1.オペレーション・ジェヴォーダン
「ジェヴォーダンって何?」シルヴィアが尋ねる。
「俺のいた世界でもそんな事件があったんですよ。こっちで言う帝国軍の精鋭部隊まで出て来た事件です。」
「そうだったのか。で、結局どうなったの?」シルヴィアが興味津々で尋ねてくる。
「なんかよくわからないまま終わりました。」
「縁起悪くない?」シルヴィアは困惑した。
俺たちや村人、マーカスたちが村の中心に集まって作戦会議をする。
ロスが櫓から周囲を警戒しているので不意打ちを喰らう可能性は低い。それにそんな魔獣一人で倒してやるよ。と豪語するチャックもいる。仔豚は不思議そうにキョロキョロしている。
「まずは二つの選択肢がある。」マーカスが指を二本立てる。
「一つは奴が来るまでこの村で待つ消極的防衛案。もう一つはこっちから森へ出て奴を狩る積極的攻撃案。前者は堅実ではあるが時間がかかる。ただ、そいつは毎日来るわけじゃない。一ヶ月空いた時もあったんだろ?どうしても長期戦になる。その間村人は仕事ができない。こっちから攻撃するのは早く済むが犠牲を許容する必要がある。」マーカスが説明する。
「でも犠牲が少なくて堅実なら前者の案がいいんじゃないか?」シルヴィアが言う。俺もそう思った。
「はぁ…貴族様はわかってないな。農民が一ヶ月も仕事ができないってのは致命的なの。死活問題だよ?それに今は収穫期だ。」マーカスが嗜める。
シルヴィアは俯く。
「誘導したいわけじゃないが、前者の案の問題をいくつか挙げる。一つ目はさっき言ったこと。二つ目は、前にその仔豚が襲われなかったってことだ。」マーカスは仔豚を指差す。
「そんな恐ろしい魔獣がそんな仔豚を追いかけて食うなんて容易いだろう。それに、真昼間に村を襲撃して呑気に母子を殺すくらい増長した奴が、その餌場の村を、それもこの前食った母子の匂いが染みついていて仔豚が逃げ込んだ家を襲わないはずがないってことだ。」
「奴は未知の来訪者を警戒していた?」ロスが眉を顰める。
「そうだ。狡猾な野郎ってことだ。俺らが帰るまで様子を伺うつもりかもしれない。」だとしたら絶望的だ。確かに、当時あの家にいたメンバーは俺と仔豚を除いて全員がそこそこの戦力だった。猛者の匂いを嗅ぎ分けていたとしたら?考えたくない可能性が脳裏をよぎる。
「持久戦は厳しいですね。ずっと引きこもっていては魔獣を殺せても我々も干からびてしまいますね。蓄えもありませんし。」村人がつぶやく。
「だとしたら後者の案を採用するしかないのか。」シルヴィアは悲痛な顔をする。
「ほう?俺たちや村人に死んでこいと言うのか?」マーカスはシルヴィアを睨む。
シルヴィアは少し怯えたような表情になる。
「これ以上いじめてやるな。射殺すぞ。」ロスが上からマーカスを睨む。
「すまんすまん。」マーカスは愉快そうに笑う。
「だが、どちらにせよ短期決戦で勝負をつけるしかない。そのためにはある程度の犠牲を許容してもやるしかない。」マーカスはさっきとは打って変わって大真面目な顔になる。
「覚悟はできてるか?」マーカスは周囲を見渡す。半分くらいの人間が頷く。
「シルヴィア?お前はどうなんだ?覚悟はできてるのか?」マーカスがシルヴィアをみる。
シルヴィアは少し沈黙するとゆっくりと口を開く。
「できてない。覚悟はできてない。だから誰も死なない方法を考える。」シルヴィアは俯きながら静かに言う。
「いいじゃねえか。そんな奇跡が起こせんなら最高だな。」そう言ってマーカスは笑う。
「だが獣をナメるなよ?戦う以上どっちかが死ぬのは覚悟しとけ。」マーカスはそう警告した。




